憲法論議など

総裁ご自身の党に対する説明もないままに、このような決定となった経緯に強い違和感を覚えます。
Open Image Modal
Issei Kato / Reuters

 石破 茂 です。

 自民党の憲法改正推進本部は、第9条第2項を維持したまま「必要な自衛の措置を講じる」ことを新たに書き込む方向で、細田博之本部長に条文案作成を一任することとなりました。一年近くにわたる議論の中で、昨年約束されたはずの安倍総裁自身によるご説明はついに一度も行われることがないままにこのような結果となったことは極めて残念です。

 野党時代、党として憲法改正草案を決定し、それと一体となる安全保障基本法案を長い議論の末に決定した際は、安全保障法制推進本部において本部長であった私が法案内容を詳細に説明し、質疑応答も濃密に行ったものでした(この説明内容は今でも自民党のホームページに記載されています)。

 ことの発端は昨年の憲法記念日、総裁が「第二項を維持したまま、自衛隊の存在を憲法に書き込むことは国民的な議論に値する」と、民間団体の会合に寄せたビデオメッセージで発言されたことでした。

 その後、それまでの党議決定や、それを公約に掲げて国民の信任を得た2012年の政権奪還総選挙、2013年の参議院選挙などとの整合性はほとんど顧みられることなく、総裁ご自身の党に対する説明もないままに、このような決定となった経緯に強い違和感を覚えます。

 一連の会議の中で私が質した点は以下の通りでした。

① 一般国民には理解しがたい「必要最小限度の装備しか有さず、必要最小限度の行動しかできないので、『戦力』ではなく『軍隊』でもない」とのロジックは今後も維持されるのか。

② 国の独立を侵す侵略国に対して自衛権を行使するのであるから、自衛権と一体である交戦権は国際的なルールであり、自衛隊もそれに従うのが当然ではないか。自衛隊を「国内法にのみ従う法執行機関」として位置づけ、国内法に拘束された自衛権しか行使できないのであれば侵略排除の目的達成は極めて困難となる。

③ 交戦権が制限されるとすれば、その内容であるハーグ陸戦法規、ジュネーブ四条約などの国際法規のうち、どれがどのような理由によって制限されるのか。

④ 仮に自衛隊を「行政に組み込まれた単なる法執行機関ではない」と位置付けるのならば、行政・立法のみならず、司法による統制も必要となるのではないか。

⑤ 「最小限」という量的概念を排除し、「必要」という質的概念を残すことは、むしろ自衛権行使の範囲を拡大することになるのではないか(私自身は、二項との整合性を無視すればむしろそうあるべきと思いますが、多くの議員はそうは考えていないようでした)。

⑥ 集団的自衛権を原則行使できないとするからこそ、日本はアメリカに対して、国家主権の根幹的要素たる領土を米軍に提供しなければならない。畢竟それは「いつまでも、どれだけでも、どこにでも米軍を配備し、使用できる権利(日本から見れば提供する義務)」を与えることになる(安保条約交渉におけるダレス米国国務長官の言葉)。このように国家主権を自ら制限する国は世界のどこにも存在しない。これは交戦権の否認と同じく、「真の独立主権国家」であることを否定するものではないか。現在の安全保障上、米軍の駐留は必要であるが、それは日本国民の政策的選択によるべきものであって、憲法によって導き出されるべきものではないと考える。

 私の提示したこれらの問いに対する明確な答えはなかったと記憶しています。

 「議論も出尽くしたようなのでこのあたりで本部長に取り扱いを一任すべきだ」との発言があり、「一任!一任!」との叫び声と拍手で会は閉じられたのですが、我が国の最高法規たる憲法の中核概念である平和主義の取り扱いがこのような形でなされたことに、しばし愕然と致しました。「主権独立国家とは何か」という基本的な問題に、多くの議員が無関心なように見え、とても驚かされたことでした。

 今後、憲法の問題は、自民党の衆・参憲法調査会に提示する案の作成を経て各党協議に移ることになりますが、これらの点はその場でも必ず突かれることになるでしょう。自民党として、今後もさらに理論と提示の在り方を研鑽してまいります。

 名古屋市の中学校における前川文部科学前事務次官の講演について、自民党文部科学部会の幹部がその内容を問い合わせするよう文科省に要請したとの件も、以前の自民党であればありえなかったことと思います。もし一切の批判は許さない、という雰囲気が醸成されていくのだとすれば、やがて恐ろしいことになるのではないかと危惧しています。

 週末は、24日土曜日が高原町新燃岳噴火被災現況説明と要望受け(午前9時半・高原町役場・宮崎県西諸県郡高原町)、畜産酪農家・茶生産者からの現況説明(午前10時・同)、自民党西諸県支部幹部との意見交換会(午前11時20分・TENAMUビル・宮崎県小林市)、小林市長からの現況説明・要望(午前11時40分・同)、昼食懇談会(正午・同)、小林市役所新庁舎落成記念地方創生フォーラムにて基調講演(小林市文化会館・小林市細野)、えびの市長からの被災現況説明・要望(午後2時半・えびの市役所)、自民党鳥取県連役員・党大会表彰者との夕食懇談会(午後7時・品川プリンスホテル)。

 25日日曜日は第85回自民党定期党大会・懇親会(午前10時・グランドプリンスホテル新高輪)、という日程です。

 宮崎県各地の被災状況をよく見てまいりたいと思っております。

 小林市の広報映像(ンダモシタン小林)は実に秀逸で、YouTubeで是非ご覧いただきたいものです。このようなアイデアを考えられる方のおられるまちは楽しさだけではなく、強さも併せ持ち、災害からも力強く復興することと思います。市の広報映像では、岐阜県関市(もしも刃物がなかったら)もとても楽しい作品です。

 都心の桜は平年より一週間早く開花するようで、今週末が見頃だそうです。

 当選一、二回の頃は、千鳥ヶ淵の夜桜見物などに出掛けたもので、あの頃のことをとても懐かしく思い出します。「待て暫し、やがてまた汝も憩わん」(ゲーテ・旅人の夜の詩)、本当かなあ。毎年このようなことを書いているような気もしますが・・・。

 季節の変わり目の不安定な天候が続きます。皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

(2018年3月23日石破茂ブログより転載)