共謀罪とは? 与党内でも慎重論。臨時国会では見送りへ

犯罪の計画段階で処罰する「共謀罪」の名称を変更し、構成要件を厳しくする法案を政府が検討している…
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犯罪の計画段階で処罰する「共謀罪」の名称を変更し、構成要件を厳しくする法案を政府が検討していることについて、キャロライン・ケネディ駐日大使は9月15日、金田勝年法相と法務省で会談し、「大変勇気づけられる」と語った。NHKニュースなどが報じた。

ただし、ロイターによると、26日に招集予定の臨時国会では、法案提出は見送られる見通し。与党内に慎重論がある上、十分な審議時間を確保できる見通しが立たないためだという。

■共謀罪とは?

共謀罪とは、重大な犯罪にあたる行為を「団体の活動」として「組織により」実行しようと共謀すると、実際に行動を起こさなくても、それだけで罰するという内容。実際に犯罪を行わなくても、何らかの犯罪を共謀した段階で検挙・処罰することができる。

日本弁護士連合会(日弁連)のパンフレットによると、もともとイタリアのマフィアなど経済的利益を目的とする組織犯罪を対象にしていたが、2001年のアメリカ同時多発テロ事件を受け、テロ対策のために利用しようとする動きが出はじめ、アメリカやイギリスなどでは既に設けられている。

■日本における共謀罪をめぐる動き

一方、日本の刑法では定められていない。2000年に国連が採択した国際組織犯罪防止条約の締結のためには国内法の整備が必要だとして、過去に3回、法案が国会に提出されたが、いずれも廃案になっている。

法務省は、暴力団による組織的な殺傷事件や悪徳商法などの組織的詐欺などが対象で、国民の一般的な社会活動に共謀罪が適用されることはないと説明。しかし、「一般市民が漠然と犯罪の実行を相談しただけで処罰されるのでは」「捜査当局が怪しいとにらんだだけで、拘束されたり処罰されたりしかねない」などの指摘もある

2015年11月、フランスで130人以上の犠牲者を出した同時テロの発生を受けて、自民党内から「共謀罪」を創設する国内法の整備を求める発言が相次いだ

当時、政府は慎重な姿勢を崩さなかったが、その後、2020年の東京オリンピック開催に向けて、テロ対策の重要性を強調。組織犯罪処罰法を改正し、「テロ等組織犯罪準備罪」を新設する法案を計画した。共謀罪を盛り込んだ過去の法案では、適用対象を「団体」としていたが、新法案では「組織的犯罪集団」に変更。「4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することを目的とする団体」に限定するとした。

さらに、過去の法案では、犯罪を行うことで合意する「共謀」だけで罪に問われるとしていたが、新法案では共謀という言葉を使わず、「2人以上で計画」と置き換え。「犯罪の実行のための資金または物品の取得その他の準備行為」が行われたかどうかを、罪の構成要件に加えた。

新法案では、犯罪の構成要件を厳しくすることで、これまでの批判を避ける狙いがある。しかし、対象となる罪が「4年以上の懲役・禁錮の罪」の数は600を超えるとみられており、日弁連は万引きや釣り銭詐欺、キセル乗車なども対象になる可能性を指摘。「日常的に市民のプライバシーに立ち入って監視するような捜査がなされるようになるかもしれません」と、法案に反対していた。

■日本に法案制定が求められるのはなぜ?

アメリカは日本に対し、国連が2000年に採択した「国際組織犯罪防止条約」を早期に締結するよう求めている

石破茂・元防衛相は、日本がこの条約を批准していないことについて、「重大な国際犯罪に問われて日本に逃げ込んだ犯人を逮捕することも外国に引き渡すこともできないこととなってしまい、日本がテロ組織の活動の抜け穴にもなりかねません」とブログで指摘。共謀罪を創設する必要があるとの考えを示していた。

9月15日にケネディ大使と会談した金田法相は、「2020年には東京オリンピック・パラリンピックがあり、テロなどへの対策に力を入れなければならない。国連の国際組織犯罪防止条約の批准は喫緊の課題だ」とコメント。国会に早期に提出できるよう環境整備に取り組む考えを示した。

国際犯罪に対する日本の法的整備状況については、不備があると指摘する声がある。立命館大学の上田寛教授(刑法学)は過去の法案審議の歳、共謀罪創設について「保留条項の設定や解釈宣言を行おうとせず、ひたすら国際条約の締結による国際的共同歩調の必要性を強調し、いわば国際的責務を口実に、わが国の刑事法制に本質的に異質な制度を持ち込もうとする政府の対応は、きわめて異常であり、何らかの政治的意図を隠しているのではないかとさえ思われる」と批判。しかし、国際組織犯罪に対する法的整備は必要だと述べていた。日本が国際犯罪組織にとって、「犯罪対象の豊富さと対抗措置の整備の不十分さとによって、魅力的であるかもしれない」というのがその理由だった。

一方で日弁連は、現行法などで「未遂以前に処罰することができ、条約の批准は十分に可能」と指摘していた。弁護士の落合洋司さんは、共謀罪が導入されているアメリカで9.11のテロが防げなかったことをひきあいに出し、「共謀罪」ではテロは防げないと指摘する。既に国内には「殺人予備罪」や「銃刀法違反」・「爆発物取締罰則」などがあるため、組織犯罪やテロ対策には、かなりの効果を挙げることが可能と指摘した上で、自身のブログに次のように書いている。

問題は、処罰すべき法令がないから、ということではなく、いかにして事前に情報を収集して生かすか、未然に防止するか、ということで、それは、米国での9・11テロでも、テロ発生後に大きく問題になりました(テロを未然に防止できる情報を得ていながら生かすことができなかったことが明らかになっています)。既に共謀罪が導入されている米国で、9・11テロを防止できず大惨事を引き起こさせてしまったことも想起すべきでしょう。共謀罪があるから組織犯罪やテロが防止できる、という単純な話ではありません。

(落合洋司さんブログ「[話題]暴力団やテロリスト集団の犯罪対策 「共謀罪」創設法案 通常国会に再提出へ政府検討 」より。2013/09/24 17:14)

■与党内にも慎重論

共謀罪の創設については、与党内にも慎重論がある。公明党の山口那津男代表は「テロなどが起きないように法的根拠を整えておくことは重要だ」としながらも、「どういう行為が処罰の対象になるのか、テロ防止に効果を発揮できるのかを詰めたうえで国民に説明する必要がある」として、法案提出の時期については明言を避けていた

政府はこの秋の臨時国会について、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)承認案などの審議を優先すべきだと判断。「テロ等組織犯罪準備罪」の提出を見送る調整に入った。公明党へ配慮した格好だ。

自民党の二階俊博幹事長は9月2日、TBSの番組で「東京五輪も控えているわけで、何か起きてからでは遅い」と述べ、法整備を急ぐ必要性を強調していたが、10日には「オリンピックなどに万全を期すということになれば、法律の必要性がおのずとクローズアップされる」とトーンダウンしていた。