2頭の子グマを殺すのを拒み、解雇された自然保護官。5年の闘いの末に勝訴する

上司から母グマと子グマ、3匹のクロクマ親子を安楽死するよう求められていました
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救出された子グマたち

2頭の子グマを殺すことを拒み、解雇された自然保護官に対し、カナダの控訴裁判所は6月4日、解雇は不当とする判決を下した

勝訴したのは、ブリティッシュコロンビア州の元自然保護官ブライス・カサヴァント氏だ。   

カサヴァント氏は判決の後、「私と私の家族の肩の上に重く立ち込めていた暗い雲が、ついに取り除かれた」とテレビ局CTVに喜びの言葉を語った。 

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子グマを捕獲するカサヴァント氏

■なぜ子グマを殺さなかったのか

ブリティッシュコロンビア州の環境保護局に勤務していたカサヴァント氏が、子グマを殺すよう命じられたの2015年7月。バンクーバー島でのことだった。

屋外に設置してある冷蔵庫やゴミをクマが漁っているいう苦情が寄せられ、カサヴァント氏は上司からクマ親子を殺すよう命じられた。

安楽死させるよう求められたのは、母グマと子グマ2匹の、3匹のアメリカクロクマの親子だった。

カサヴァント氏は命令に従って母グマを安楽死させた一方で、子グマたちは殺さなかった。

その理由を、「保護局が『クマたちが人間の食べ物に慣れてしまった』という理由で安楽死を命じていたものの、ゴミを食べていたのは母グマだけだったから」と裁判資料は伝える。

子グマまで殺すのは保護局の規則に反すると判断したカサヴァント氏は、上司に従う代わりに、子グマたちを捕獲して動物病院に移送した。

子グマたちは獣医のチェックを受けた後に野生生物の管理センターに送られ、最終的に自然に返された。

<保護された子グマのきょうだい>

 

一方、カサヴァント氏は命令に従わなかったという理由で停職になり、その後解雇された。

子グマの命を助けたカサヴァント氏の解雇はメディアで大きく取り上げられ、復職を求める請願も集まった。

カサヴァント氏は2015年、解雇は不当だとして州を訴えた。

5年に渡る長い裁判の末に、裁判所は解雇が正当な手続きを踏んでいなかったとして、カサヴァント氏の訴えを支持。判決によってカサヴァント氏の懲戒解職の履歴が取り消されることになった

その一方で、判決は復職を求めるところまでは踏み込んでおらず、判決を元に両者が話し合うよう求めている

■安易にクマを殺さないという前例になりうる

人間とクマがどう共生するかは、クマと生きる自治体にとって難しい問題だ。

カナダのメディア「The Star」によると、ブリティッシュコロンビア州の自然保護局には毎年多くのクマの情報が寄せられており、2019年には542頭のアメリカクロクマと、26頭のハイイログマが殺された。  

専門家の中には、今回の判決は不必要に野生動物を殺すよう命じられた場合に、自然保護官が異議を申し立てる前例になると指摘する人もいる。

動物の権利保護を専門とするレベカ・ブレーダー弁護士は、次のようにThe Starに語る。

「カサヴァント氏の行為は、大きな勇気を求められるものです。そして今回の判決は、クマを殺すよう求める上司の命令に対して、適切な状況であれば自然保護官が異議を申し立てができるという前例になります」