解釈改憲という"縄抜け"でしのびよる徴兵の現実味

「いやいや安倍さんだって徴兵制はないって言っているし、憲法18条が徴兵制を否定しているから大丈夫」だと言う人もいるかもしれません。でも本当にそうでしょうか。解釈改憲で集団的自衛権の行使も容認する政権があるくらいですから、徴兵制の復活も杞憂だと笑い飛ばすことはできないと思います。
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FILE - In this Oct. 27, 2013 file photo, members of Japan Self-Defense Forces march during the Self-Defense Forces Day at Asaka Base, north of Tokyo. Several Asian nations are arming up, their wary eyes fixed squarely on one country: a resurgent China thatâs boldly asserting its territorial claims all along the East Asian coast. The scramble to spend more defense dollars comes amid spats with China over contested reefs and waters. Other Asian countries such as India and South Korea are quickly modernizing their forces, although their disputes with China have stayed largely at the diplomatic level. (AP Photo/Shizuo Kambayashi, File)
ASSOCIATED PRESS

戦後最長となる95日間の延長が決まった通常国会。これは、「戦争法案」を成立させるリミットが9月27日まで延びたことを意味すると同時に、法案の衆議院通過が7月後半にずれ込んだ場合でも、いわゆる60日ルールを適用すれば、法案を強引に成立させることも可能になったことを意味します。つまりこの会期延長は、安倍政権が今国会で「戦争法案」の成立を何が何でも実現させようとしていることの証左だと言えるでしょう。

先日、国会で与党が呼んだ憲法学者たちが、この戦争法案を「違憲」(つまり憲法に違反する)と断言したことは大きなニュースになりました。私もひとりの法律家として、「戦争法案」は違憲だと断言します。憲法9条の文言をどう読んだって、他国の戦争に助太刀したり、他国に行って戦争したりすることが許されるはずはありません。

ただ、この「戦争法案」をめぐって、じつはもうひとつ考えておきたいことがあるのです。

それは、私が「憲法カフェ」の講師をするときに必ず、「これだけは覚えて帰ってください」というポイントでもあるのですが、憲法というのはひと言でいえば「権力者をしばる法」だということです。いまの私たちで言えば、主権者である国民が、安倍さんに対して「しなければいけないこと/してはいけないこと」を突きつけているのが憲法です。そして、総理大臣以下全ての公務員は、この憲法を守ることを誓って職につくことを憲法99条により求められています。

憲法9条を例に挙げるなら、少なくとも他国の戦争に助太刀したり、他国に戦争に行ったりしてはいけないと、私たち国民は安倍さんに命令し、「しばり」をかけているのです。

 言い換えるなら、この「戦争法案」を成立させたいのであれば、安倍さんはまずは国民的議論をおこない、憲法9条改正の手続きを経なければいけない、というのが憲法のルールなのです。

そういう意味では、安倍さんがやろうとしている、「解釈で憲法を改正する」という手法は、権力をしばる法である憲法に対しての、まさに"縄抜け"だと言えます。憲法という縄にしばられるべき安倍さんが"縄抜け"をしているのですから、主権者である私たちは当然、「それはおかしい!」と声をあげなくてはなりません。そして同時に、この"縄抜け"の危険性というものを、私たちはきちんと理解しなくてはなりません。

過去の歴史を振り返ればわかりますが、権力者というものはいつの時代も、既成事実を積み上げ、さまざまな野望を実現してきました。ですから、この「戦争法案」で憲法9条の縄抜けの前例を作ってしまえば、他の条文に対しても、次々と"縄抜け"されてしまう危険性があるのです。

真っ先に思いつくのは、やはり「徴兵制」でしょうか。現在のところ、苦役を禁じた憲法18条がありますので、徴兵制は導入できないと安倍さんも明言していますが、民主党の細野さんのように、「徴兵制についても、しっかりと議論しないといけない。日本はまさか、そんなことはないだろうと考えていた。しかし、ここ数日、いろんな議論がでてきた」と徴兵制への危機感をあらわにする政治家もでてきました。実際、自民党の石破さんは、国のために働く「兵役」は、「意に反する」ものでもないし、「苦役」でもないと強弁しています。

「いやいや安倍さんだって徴兵制はないって言っているし、憲法18条が徴兵制を否定しているから大丈夫」だと言う人もいるかもしれません。でも本当にそうでしょうか。解釈改憲で集団的自衛権の行使も容認する政権があるくらいですから、徴兵制の復活も杞憂だと笑い飛ばすことはできないと思います。

これは私が直接体験したわけではありませんが、戦時中は、神宮球場で野球観戦をしていると、「東京○○区の○○さん、召集令状が届いておりますので、直ちに自宅へお帰りください」といったような場内アナウンスが流れたことが何度もあったそうです。そして、このアナウンスで呼ばれた本人が立ち上がると、周りにいた人たちはみな一斉に拍手をして見送ったといいます。当時とは時代が違うと言われるかも知れませんが、先日、韓流アイドル「東方神起」のユンホが徴兵に行くというニュースが流れたように、徴兵制というのは「過去」のものではなく、お隣の韓国をはじめ多くの国で「現在」でも存在する制度だということは忘れてはなりません。

私は先日、『だけじゃない憲法』(猿江商會)という本を出しました。その本にも書きましたが、憲法には9条だけではなく、他の条文にも私たちの生活を支える大切な条文がいくつもあります。事実、私たちは憲法18条の存在により徴兵を免れているのです。

現在議論されている「戦争法案」の問題は、国際情勢の変化や、その中での日本の国防のあり方を見据えた上で慎重に議論しなければならない大きな問題です。

が、それと同時に、憲法という「権力をしばる法」が、いとも簡単に"縄抜け"されようとしていることも同じくらい大きな問題なのです。この"縄抜け"を野放しにしてしまえば、いつの日か、「憲法18条の解釈は変えた」と言って、政府が徴兵制の導入を推進する時がくるかも知れません。でも、その時に声を上げたのではもう遅いのです。憲法に対する"縄抜け"は、今こそ絶対に止めなくてはならないのです。