「カミングアウトはバトンを渡すこと」家族というチームの中で、どうバトンを繋ぐか

LGBTは見えにくい存在であるのと同様に、LGBTや多様な性について理解のある人もまた見えにくい。
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"東京、渋谷区神宮前二丁目にあるアジアンビストロ「irodori」が3月に閉店する。LGBTのコミュニティスペース「カラフルステーション」を併設しているirodoriは、昨今のLGBTを取り巻く社会の変化の中心地とも言える場所だ。閉店に向け開催される全6回のクロージングイベント、LGBTのこれまでとこれからを考える「カラフルトーク」をレポートする。"

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第3回は「カラフル家族会」。LGBTと家族をテーマに、親にカミングアウトしたLGBTや、これからカミングアウトする人、しない人、カミングアウトを受けたきょうだい、親、親戚など、様々な立場の約30名が集まり、それぞれの経験や思いをシェアした。

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irodoriのオーナーで、トランスジェンダー活動家の杉山文野さん

LGBTにとってカミングアウトは、毎日顔を合わせる関係だったり、相手との距離が近いほどそのハードルは高くなる。

誰にだったらカミングアウトしても大丈夫なのか、一か八かの状態で打ち明けるのは勇気が必要だからだ。LGBTは見えにくい存在であるのと同様に、LGBTや多様な性について理解のある人もまた見えにくい。

特に距離の近い家族という関係性において、カミングアウトすることは、これまでよりも良い関係を築く一歩になることもあれば、関係性を壊す一打になることもある諸刃の剣だ。

LGBTのうち、家族へカミングアウトしている人の割合は10.4%という調査もある。会を企画したirodoriのオーナーであり、トランスジェンダー活動家の杉山文野さんは、「LGBTの当事者から相談を受けることも多い」と語る。

「一番多いのが家族との関係について。我が子だからこそ受け入れられることと、受け入れられないことだったりが親子両方の中にあると思います。ただ、話を聞いていると親子のコミュニケーションが不足していることも多い。一緒にご飯を食べることをきっかけにその辺がもう少し柔らかくなったら良いなと思い、今回企画しました」。

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Soshi Matsuoka
父・Yさん(左)と、子のMさん(右)

■「LGBT」という言葉はまるで想像しなかった。

参加者のひとり、Mさんは女性として生まれ、現在は男性として生活しているFtMトランスジェンダーだ。カラフル家族会には父・Yさんと参加した。

Mさんが自分のことを男性だと認識し始めたのは小学校のとき。スカートははかず、ランドセルは紺色。女性扱いをされたくないという気持ちから「俺」という一人称を使うこともあった。

幼い頃から続けていたサッカーのために、中学受験をして女子校に進学したMさん。地元では男性として振舞っていることを自然と受け入れられていたため、中学では彼女ができたことを周りの人に伝えていた。しかし、友人たちには気持ち悪がられ、輪から外されるようになった。

「普通じゃないんだとはじめて気づいて、今まで女子の友達もいなかったのでその場に居づらくなりました。だんだん学校にも行きたくなくなって、結局中学をやめてしまい、地元の中学に戻りました」。

父・Yさんは「女の子のことを好きなのかなと薄々は感じていましたが、『瞬間的なことなんじゃないか』とか、『いずれは男のことを好きになるんじゃないかな』とどこかで否定してしまっていました。そのときに『LGBT』という言葉はまるで想像していませんでした」。

■就職を期にカミングアウト

Mさんが両親にカミングアウトしたのは大学3年生のとき。就職活動のタイミングだった。

「毎日スカートをはいて化粧をして、女の子として就活することに限界を感じました。これから先もこの状態が続くのかと思うと、今が性別を変えるための最後のタイミングなんじゃないかと思ったんです」。

そう考えたMさんは、まず母親にカミングアウトしようと試みた。

しかし、「お母さんに対して『あのさー....なんでもない、今日の夕食何?』というような感じで、言い出せない日々が続きました」。

カミングアウトの言葉は「あの、彼女がいるんです」という一言。母はそんなMさんについて既に気づいていた。「だって、元カノが〇〇さんと〇〇さんでしょ?」。

その後、母の後押しもあり、MさんはYさんにLINEで「話したいことがある」と送った。

しかし、「(Mは)就職活動中だったので、『一人暮らしをしたい』という話かなと思っていました」と話すYさん。

MさんがYさんにカミングアウトしたのは母と父、そしてMさんの3人でご飯を食べたあと。「泣きながら『実は彼女がいて、男として好きなんだ』と伝えました」。

「真面目でお堅い父だったので、受け入れられないと思っていました。(カミングアウトした後)父は『可愛い子どもには変わりがない』って伝えたかったと思うんですが、混乱して『Mは俺の娘だから』と言ったんです。そんな父に対して、母は『なんでそんなこと言うの!』と言い、その時は終わってしまいました」。

当時を振り返り、Yさんは「伝えた言葉の記憶はないけど『我が子に変わりはない』と言いたかったんだと思う」と話した。

「娘であるという言葉が持つ意味がわからなかったんです。LGBTに対する知識もなかったので。そのときも、考えて考えてだした言葉がそれで、僕としては『一生味方だよ』という趣旨で言ったつもりでした。でもしびれをきらした妻から『私は男の子を産んだんだから!』と怒られたのを覚えています」。

「ただ、『なんでこうなってしまった』とか、『こうしていれば良かった』とか、そういうことは考えませんでした。『この子がこれからどうすれば良いんだろう、自分はどうすれば良いんだろう』という所で混乱していたんです」。

■生きたいように生きれば良い

Yさんはその後、母に渡された多様な性のあり方に関する本を読んだり、当事者の話を聞きにいった。

ある日、Mさんのサッカーの試合の帰りにファミリーレストランに寄った際、Yさんから「Mの生きたいように生きれば良い、応援する」と話した。

「最初から大きな抵抗はありませんでしたが、表現方法にずっと悩んでいました。たまたま一緒に外でご飯を食べるタイミングがあったので、そこで話しました」。

その言葉を受け取ったMさん。帰りの車の中で、自分の性について、これからどのように生きていきたいかを話した。

「そこで自分のことをやっと全部さらけ出せました。父も聞きたいことをたくさん聞いてくれて、聞いてくれるということはつまり受け入れてくれるということだと。やっとカミングアウトが終わったと思いました」。

その後Mさんは性別を移行するために手術を行った。「手術に関しては親として悩んだし、心配した」と語るYさん。Mさんは「後悔はない」と話す。

Yさんが「何かしたいことはあるか?」と聞いたら、Mさんは「裸で浜辺を走りたい」と答えたという。Mさんが夏に上半身裸になっているのを見て、「母は安心したみたいです」。

■息子がいてくれたことで、人生がすごく楽しくなった。

イベントの参加者は皆セクシュアリティを公にしているわけでない。中にはトランスジェンダーの我が子には内緒で参加した親と妹や、当事者で子どもを育てている人の姿もあった。

今回取り上げられるのは本人がセクシュアリティを公にしている人の一部だが、それぞれの家族が語るカミングアウトにまつわる経験をシェアしたい。

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カツオさん(写真左)、カツオさんの母(写真真ん中)、カツオさんの叔母(写真右)

カツオさんはFtMトランスジェンダー。隣に立つカツオさんの母は「昔は女の子の格好を無理やりさせていて酷なことをしたなと思います」と話す。

「でも、本人からカミングアウトをされたときに『でも、わたしの子には変わりないわけだし』と思えました。あと、幸い友達や学校の先輩、校長先生も理解のある人で、それが私にとっては救いでしたね」。

「最近この子の兄に彼女ができて、その彼女もこの子のことをわかってくれていたのが、親としてすごく嬉しかったです」。

カツオさんの母の隣が、姉でありカツオさんの叔母にあたる方。「最初カミングアウトをうけて、意外と素直に受け入れられました。カツオとして楽しい人生を送ってもらいたいと親戚一同応援しています」。

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小林良子さん(写真右)と夫のたけしさん(写真左)

FtMトランスジェンダーの子を持つ親である小林良子さんは、「LGBTの家族と友人をつなぐ会」のメンバーでもある。

「現在はトランスジェンダーの息子ふうふと、私の夫と一緒に四人で暮らしています。もし子どもがカミングアウトしてくれていなかったら、寂しい老後だったかなと思っています」。

良子さんの夫であるたけしさん「息子がいてくれたことで、人生がすごくたのしくなった。幸せいっぱいな毎日を送っています」。

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増原裕子さん(写真左)、増原さんの母(写真真ん中)、父(写真右)

レズビアンであることを公表し活動する増原裕子さんの母は「娘がフランスに留学していて遊びに行ったとき、私から『もしかしてそうじゃないの?』と聞きました。そのときは狭いアパートで気まずくなってしまい大変でした」。

「そうじゃないかな?と思っていたのに、私の方に心の準備ができていなくて。でも夫に聞いてたら『いいんじゃないの』と全く偏見がなかったんですよね。それは救いでした。そこからインターネットや本でLGBTについて勉強していくうちに、なぜか雪解けのようにスッと楽になるというか、少しずつ偏見がなくなっていったように感じています」。

■良いチームをつくるために、どうバトンを繋ぐか

イベントの中で、「カミングアウトはバトンを渡すこと」という言葉が印象に残った。

小林良子さんは「バトンを渡すというのがまずとても大事なことで、それを私たちがどう受け取るか。もちろん親は100人いたら100人とも捉え方が違いますし、違って良いんです」。

イベントに参加した人たちの多くは、親やきょうだいにカミングアウトして、または当事者からカミングアウトを受けて、その後も良好な関係を築いている。しかし、最初から上手くいっていたわけではなく、それぞれ紆余曲折、お互いに様々な葛藤があった。

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Soshi Matsuoka

親も子も、あくまで違う人間である。家族という名前のチームをつくって生活をするが、そこに「絶対」という関係性はない。いつでも揺らぎ、すれ違い、切れることもある。

そのチームのメンバー構成に決まりはないし、姿もさまざまだ。

カミングアウトというバトンを渡す時、一方的に押し付けても相手は受け取れない。相手とのタイミングが合わなければうまくパスすることもできない。体育の授業で走ったリレーは、何度も何度もバトンを渡す練習をした。自分も相手に合わせたし、相手も自分に合わせてくれていたことを思い出す。

カミングアウトするしないは、本人が選択できるものであって欲しい。その上で、カミングアウトしようと思ったとき、そのバトンをどのように渡すのか。受け取る側も、どうバトンを受け取るのか。

きっとこれはカミングアウトに限ることだけではないだろう。良いチームをつくるために、ひとりひとりにできるバトンの繋ぎかたを考えていきたい。

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