左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」が2016年9月21日の早朝、ヤノス・デル・ヤリというコロンビア南部に位置する土着の土地に集結した。NURPHOTO VIA GETTY IMAGES
南米コロンビアで、52年間にわたって内戦を続けてきた政府と反政府ゲリラ組織「コロンビア革命軍」(FARC)が9月26日、和平合意文書に調印した。10月2日に行われる国民投票で承認されれば、正式に和平が成立する。
コロンビア国民は間もなく、1960年代から半世紀以上続いた争いに終止符を打てるかもしれないところにいる。2日には、何百万人もの国民が投票所に向かい、和平合意への賛否を投票する。
この国民投票は、今まで紛争による暴力や誘拐、社会の不安定さから深く傷ついてきたコロンビア国民にとってさまざまな思いが溢れるものとなる。1964年にFARCが結成されてから、この内戦で20万人以上が殺害され、600万人以上が住処を追われた。
和平合意によると、7000人ほどとみられるFARC戦闘員が市民生活に復帰し、FARCは政党として扱われる。また、紛争被害者への賠償、そして反政府勢力の武装解除と薬物取引の根絶も合意に含まれる。今までこれほどまでに包括的な和平合意を成立させた国はほとんどなく、成立した場合、どのように履行していくのかという疑問が数多く持ち上がっている。もし国民投票で合意が否決されれば、何世代にもわたって国を苦しめてきた内戦がまた繰り返されることになる。
ハフポストUS版では、コロンビアの将来にとってこの国民投票が何を意味するのかを理解するため、オランダのアムステルダム大学助教授でコロンビア内戦に関する著書もあるアビー・スティール氏に話を聞いた。
エル・ディアマンテの拠点にいるFARCの戦闘員 RAUL ARBOLEDA VIA GETTY IMAGES
――国民投票では、賛否にどれくらいの差がつくと予想されていますか?
最新の世論調査では、おそらく可決される見通しです。賛成派が72%となっています。8月初めには賛成派と反対派がほぼ半々だったのに比べると、大きく変化したと言えます。
――なぜそのように変化したと思われますか?
8月の調査は最終的な合意の前に行われているので、合意条件が公表されたことで国民がもっとポジティブな見方をするようになったのでしょう。今、停戦状態なのもひとつの理由かもしれません。
私は9月26日に合意文書が署名された後、さらに大きな壁が待ち構えているのではないかと思っていました。しかし今は賛成反対両派のキャンペーン活動による論議が進行中です。
――国民投票の争点として、フアン・マヌエル・サントス大統領の支持率低迷が挙げられますが、サントス政権はこの問題にどう関わっているのですか?
反対派のキャンペーン団体はこの和平合意とサントス大統領を関連させ、彼の支持率をさらに下げようとしています。賛成派は、この問題は特定の人物や政治家に関する問題ではなく、和平を実現させるチャンスを得るためのものだと主張しています。
私が思うに、和平反対派だったアルバロ・ウリベ元大統領を熱烈に支持する人たちの中には、サントス大統領の進めてきた和平合意に賛成しない人たちがいるのではないでしょうか。しかし、そういう人たちは少数に過ぎません。
――コロンビア国民の和平合意に向けての主な批判は、どのようなものがありますか?
反対派の批判は主に2つあります。1つ目は戦争犯罪や一般市民への犯罪を繰り返してきたFARC指導者への罰が免除されてしまうこと。そして2つ目は、FARCの政治参加が許されてしまうことです。
FARCの戦闘員たちに恩赦が適用されてしまうことは事実ですが、一般市民への犯罪や戦争犯罪を自白したり有罪となったりした人たちには適用されず、彼らは刑務所で何年かを過ごすこととなります。合意文書には彼らの自由を抑止すると書かれており、実際には刑務所には入れられず、自由が制限されるだけでしょう。
反対派はそれを恩赦だと言い、賛成派はそれは完全な恩赦ではないと言います。罰の程度はどうであれ、彼らが“自由の制限”というかたちで責任を取らされることに変わりはありません。これは従来の裁判制度ではなく、暫定的な制度となります。
和平合意を政府と批准するために用意された会場で、開会式に並ぶFARC戦闘員
政治への参加に関して言えば、反対派の主張は、FARCによって構成される政党は国会でかなりの力を持つようになり、国家レベルで採決されるような法案へも大きな影響力を持つようになる、というものです。それが現実となるはっきりとした証拠はどこにもないように思えますが。FARCにはそれほど政治的影響力はありません。もしこれがもっと前の話でしたら、現実的な問題となっていたかもしれません。
――合意内容には、紛争被害者への多額の賠償が含まれています。被害者の数は莫大で、多くの人が立ち退きを強いられてきましたが、賠償はどれほど実行可能だと思われますか?
それはとても難しい問題ですね。ひとつ言うなら、もうすでに2011年に可決された法律で、被害者への賠償や帰還は約束されています。追い出された人には土地の返却、家族が殺害された人には賠償があります。コロンビア政府はすでに政府軍を含め、武装集団によって被害を受けた人たちへの支援を始めようとしています。そのため、ある意味政府は賠償を進めているといえますが、そのペースは緩やかで、かなり複雑なものになっています。
土地の返還は相当困難でしょう。その理由として、所有していた人が立ち退きする前にその土地の記録を残しておくことが難しいからです。立ち退きを迫られた人たちが、公式に土地の所有権であることを証明するもの、そして合法的に土地を所有しているということを示す記録がないケースが多いのです。また、非合法的な武装集団が偽装された所有権の証明書が発行していたことも分かっています。
FARC反政府軍のロドリゴ・ロンドーニョ司令官が開会式で会場のスクリーンに映し出される
――FARCは、コロンビア唯一の武装集団ではありませんが、この和平合意は政策に当てはまらない他の組織にはどのような影響を及ぼすと考えていますか?
良い質問ですね。それは過去にコロンビア政府が過激派組織を解体させた時にも直面した問題です。1989年、M-19が解体させられました。1991年にはEPL (人民解放軍) という、以前はかなり活発だった反政府勢力が、他の反政府勢力と共に解体させられました。解体後の彼らはどう行動したかというと、少なくとも一部の組織メンバーが他の既存の武装集団に加入したということです。解体されたままのグループもあれば、再武装し、戦闘を続ける武装集団もありました。一部メンバーには薬物取引の組織に加入した者もいました。
少なくとも一部のFARCメンバーが他の既存の武装集団に加入して戦闘員としての活動を続けていく可能性は非常に高いでしょう。例えばELN (民族解放軍) では階級の位が上がるかもしれません。ELNは政府と話し合いをしようと試みていますが、それが前進または成功する可能性は低いとみられます。
――FARCは広大なコカの栽培領域のコントロールに関与していますが、軍が解体されたら薬物取引はどうなるのですか?
薬物がコロンビアの同盟国が禁止している違法業界である限り、この産業はお金になります。現実を考慮すると、経済活動を国がコントロールするといった介入はできません。政府がコントロールできないのであれば他の誰かが名乗り出ることとなりますが、その市場をコントロールする主な手段は暴力なのです。
FARCとの和平合意が国内の武装集団に関する問題に終止符を打つだろうなんて期待はしてはいけません。薬物取引は並行して進んでいるのですから。
FARCとの和平合意が国内の武装集団に関する問題に終止符を打つだろうなんて期待はしてはいけません。
FARCと和平同意書は、軍解体プロセスの一部としてFARCがいまだに影響力を持っているコカ栽培エリアを撲滅させることを約束しましたが、コカを植え直すことはとても簡単なことです。コカを栽培する入植者が浸透したそのエリアでは、代わりの方法で今まで通りの儲けを出すのはとても難しいことです。人々は栽培を続け、新しい人物がまたその支配を始めるでしょう。
――コロンビア国民が和平同意に反対した場合はどうなりますか? 何か代わりとなるものがあるのですか?また国民投票後はどうなると見られますか?
また内戦が再発するのではないでしょうか。それが即座にこれまで以上の戦闘が始まることを意味するのなら、大変なことになってしまうでしょう。そうならないと良いのですが。
「再度すぐに交渉し直し、よりよい取引をすればいい」なんていう考えは現実味に欠けています。そのような考えは、内戦には戻らないけれど再交渉でよりよい条件を得ようという反対派の考えに似ています。私はそれが実現するとは思いません。FARCとコロンビア政府はお互いが納得する条件を考え出すために何度も知恵を絞ってきました。和平合意は今まで何度も試みられましたが、ここまで話が進んだことは今までにはありませんでした。
今ここまで来ることができたのは、交渉者が非常に有能で、交渉するにあたって知識が非常に豊富だったおかげです。彼らには他国の和平では何が成功したか多くの知識があり、話し合いを成功させるために段取りを巧みに構成させてきました。彼らは4年かけてFARCの交渉者たちとの関係を築き上げてきました。長い年月がかかりましたが、私は両サイドの信用や献身の度合いが、何度も話し合いを続け詳細を詰めることができた鍵だと思っています。それは決してたやすいことではないというのは、コロンビアの歴史が証明してくれるでしょう。
ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。
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