国家戦略特区の東京圏に新設を検討するとされた大学医学部について、日本医師会(日医)などが反発を強めている。4月2日には日医会長が安倍首相に直談判し見直しを求めた。産経ニュースが報じた。
「医学部を作るには約300人の医師が教員として必要だ。300人を集めれば、周辺には医療体制の“穴”ができる」官邸での首相との面会で横倉氏はこう述べ、構想への強い懸念を表明した。
日医は教員として周辺の病院の勤務医が引き抜かれ、地域の医師不足が加速すると主張しているが、1地域で誕生する医学部が全国的な医師不足に拍車をかけるかは不透明。日医が開業医中心の業界団体であるため、開業医VS大学病院の構図とみる向きもある。
(MSN産経ニュース「国家戦略特区 「医学部新設」に医師会反発」より 2014/04/03 00:42)
文部科学省は1979年の琉球大学を最後に大学医学部の新設を認めてこなかった。医師不足は深刻化する一方だが、医学部の新設によって、医師を現場から学生の教育に振り向けなければならなくなり、医療の質の低下や地域医療の崩壊を招くと日医などが主張してきた。
しかし、安倍首相は2013年10月に東北地方に医学部新設の検討を指示。下村博文・文部科学相は2013年11月、東北地方の大学1校で医学部新設を認めると発表した。ただし、復興の特例としたものであり、このときは東北以外の地域での医学部新設について、認めないとした。
それでも医師不足に悩む成田市などは、国家戦略特区内で医学部新設を認めるよう要望。臨床医の要請や確保ではなく、日本の医療を国際展開するための人材育成拠点として、新設を求めていた。
これをうけて、3月28日に行われた国家戦略特区諮問会議では、国家戦略特区の東京圏において、医学部新設を検討すると発表。一般的な大学とは次元の異なる、先端医療・高度医療を備え、今後の高齢化社会や国際化をにらんだ医療人材の育成が必要だとして検討を行うとした。
この決定については、自民党内部からも「国民に貢献しない医者を国民の税金で養成するのか」や、「なぜ、既存の医学部を活用しないのか」などの反対の声が出ているという。
一方、開業医のなかにも「魅力のない大学の定員を増やしても医師は定着しない」と反論する医師もいる。都内で開業する久住英二医師は、既存の大学の問題について次のように述べている。
医学部の定員は、すでに限界まで増加しています。100人から125人に増加した新潟大学では、医学部の教育スタッフのマンパワー、講義や実習に使う施設が限界に達しています。定員を3倍にすることは、不可能です。
また、既存の大学病院は人事が停滞しており、若手にとって魅力的ではありません。教授選で自校出身者が優遇され、結果として臨床、研究とも能力の劣る教授 が席を占めるようになりました。教授以下のスタッフにしても、同様です。そのようなスタッフに教育を受けているため、医学部の学生は、母校に残ることを選 択しなくなりました。
(MRIC「Vol.357 いまこそ医学部新設で医師不足の解消を!- 久住 英二」より 2012/01/06 16:00)
一方で久住医師は医学部新設のメリットとして、他国の医師免許が取得できたり、英語で医学教育を受けられたりするといった例をあげ「世界的に生じる医師不足を解消すべく、日本の優秀な医療システムを広げるチャンス」とも述べている。
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