ペットボトル。軽くて丈夫、持ち運びに便利なその容器は、もはや私たちの暮らしに欠かせない存在だ。
ただ近年、海を汚染するプラスチックごみ(廃プラ)問題が深刻化し、「ペットボトル自体が良くないもの」と感じてしまっている人もいるのではないだろうか。
そんな中、日本コカ・コーラは2019年6月、そのイメージを刷新する取り組みを始めた。
利便性と環境保護とを両立させる企業活動のあり方とは━━。
日本コカ・コーラ技術本部の柴田充さんに聞いた。
ペットボトルの素材として使われているプラスチックは軽くて利便性が高い一方、適切に回収されずに河川や海洋に流れ込んでしまうと長期間にわたり漂い続け、生態系に悪影響を与えてしまう。これがいわゆる廃プラ問題だ。
6月に大阪で開かれた主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)でも取り上げられ、2050年までにプラスチックごみの新たな海洋流出をゼロにする目標を導入することで一致した。
ザ コカ・コーラ カンパニー(本社・アメリカ)ではこのような国際社会の動きに先駆け、2018年1月、「廃棄物ゼロ社会の実現」を目指すグローバルプランを発表。
「2030年までに、世界で販売する製品と同等量の容器を100%回収・リサイクルする」という目標を掲げ、缶やペットボトルなどの容器をめぐる問題について、業界内でリーダーシップを発揮することを表明した。
コカ・コーラ社などが取り組む「ボトル to ボトル」とは
日本国内においても「廃棄物ゼロ社会の実現」に向けた取り組みは進んでいる。
日本コカ・コーラと製品の製造・販売を行うボトラー各社などで構成される日本のコカ・コーラシステムは2018年1月、米国本社のグローバルプランに基づき、ペットボトルの素材をより環境に優しいものにしていく「設計」や、販売した製品と同じ量のペットボトルを回収する「回収」、回収やリサイクルにあたり自治体などとの協力を深める「パートナー」の3つの柱からなる「容器の2030年ビジョン」を策定した。
2019年7月には早くもこの目標の達成期限を前倒しすることなどを発表。業界をリードする姿勢を鮮明にした。
特に力を入れているのが、使用済みペットボトルを回収・リサイクル処理したうえで、ペットボトルとして蘇らせる取り組み「ボトルtoボトル」だ。
新たに設定された国内における環境目標では、2018年実績で約17%だった「ボトルtoボトル」の割合を、2022年までに50%以上、2030年には90%にまで高めることを目指すとしている。
これは、従来の目標達成期限を早めるものだ。
「今回、セブン&アイ・ホールディングスと連携して導入した完全循環型ペットボトルはモデルとなる取り組みです。再利用素材の使用比率が低いボトルと並べてみても、見た目の透明度や使い心地に遜色がありません」
そう柴田さんは語る。
また、再利用のほか、植物由来の環境に優しい樹脂への転換も進める。
2030年までに、リサイクルPET樹脂または植物由来PET樹脂の割合を100%にすることで、国内で販売するすべてのペットボトルを、新たな化石燃料を使わずに製造することを目指す。
これらは、米国本社が掲げる目標を大きく上回る。
高い日本のリサイクル意識
柴田さんは「そもそも、日本にはペットボトルをごみにしない仕組みがすでに根付いています」と語る。
環境保護を特に意識することなく、ペットボトルのキャップやラベルを外し、リサイクル資源として排出することが習慣化している人も多いのではないだろうか。
海外と比べても、日本のペットボトルのリサイクル率は高い。
ペットボトルリサイクル推進協議会の調べによると、清涼飲料水などのペットボトルのリサイクル率は2017年で84.8%に上り、米国(20.9%)や欧州(41.8%)を大きく上回っている。
他国と比べ、日本ではペットボトルをごみにしないスキームが極めて有効に機能していることを裏付ける。
柴田さんは「そもそもペットボトルのリサイクルは法律で義務付けられていて、ボトルやラベル、キャップなどの設計に当たっては以前から各メーカーで“サスティナブル(持続可能性)”が意識されてきました。かつ、使用済み容器を分別する消費者の意識も高いのが日本の特徴です。
『ボトルtoボトル』は、一企業単独での投資や技術開発のみによって成し得るものではありません。自治体やリサイクル企業、消費者など多様なパートナーと協力し合ってこそ全体のスキームが機能するのです」と話す。
「回収」ができなければリサイクルできない
資源の再利用を実現するためには、企業が取り組むだけでなく、消費者の協力も欠かせない。
飲み物の自動販売機に併設されている回収ボックスの中には、ペットボトルや飲料缶以外のごみが捨てられていることがあり、それはスムーズな回収を妨げることにもつながる。
柴田さんは「他国に比較すれば少ないのですが、ごみをポイ捨てする人も残念ながらゼロではありません。もちろん、今後も業界のリーダーとして企業努力は継続していきます。ただ、消費者の皆さんの理解や協力も、リサイクルの仕組みが効果的に働くか否かを左右すると知ってもらえたら嬉しいです」と話す。
回収されずに川や路上に放置される使用済みペットボトルもある。
その原因やルートを突き止めようと、日本コカ・コーラは今年5月、日本財団と共同でプラスチック資源の循環利用促進に向けた国内初の大規模調査の実施に乗り出した。
具体的には、河川近くのごみ集積所や水路、繁華街の側溝や路側帯などをドローンやスマートフォンアプリで撮影。画像と位置情報などをAI(機械学習)なども活用して分析する。
結果は2019年内にまとめ、政策提言とともに発表するという。
柴田さんは「国内における未回収のペットボトルは多く見積もったとしても2%未満と推計されますが、それを限りなくゼロに近づけるための取り組みです。ペットボトルを含めたプラスチック資源がごみとして流出するのを防ぐ手立てや、企業が何を取り組むべきか、検討する上で役立つようなヒントが得られれば」と期待する。
私たちが地球のためにできること
使用済みペットボトルのキャップを外し、ラベルをはがして捨てる私たちの行為が、地球規模の課題解決につながっていることを改めて意識したい。
つい分別をおろそかにしそうになる気持ちを一人ひとりがちょっと改めるだけで、ペットボトルは確実にリサイクルできる「資源」だからだ。
利便性と環境保全を両立し、「廃棄物ゼロ社会」を実現するために、私たちができることはまだある。
(執筆:加藤藍子)