過激派組織「イスラム国」を称するグループが1月20日、日本人2人を人質に取り身代金の支払いを要求する動画を公開した。動画の中でイスラム国の兵士とみられる覆面の男は、日本がイスラム国対策で拠出するとした2億ドル(約240億円)について「女性や子供を殺すため」などと述べた。
この動画に対してCNN特派員は20日、「日本がイスラム国対策のために拠出する2億ドルは人道支援のためのものであり、イスラム国兵士が言うようなお金ではない」と報道の中で繰り返し述べ、日本の拠出する2億ドルの正当性を説いている。その内容は次のようなものだ。
わたしたちは、日本が平和国家であることを心に留めておくべきです。この国の軍隊は、自国の防衛の際のみ交戦します。
安倍晋三首相が2日前に、ISIS対策として2億ドルを拠出すると発表しましたが、それは動画に登場した兵士が言うような、爆弾や子供や女性を殺すために使われるお金ではありません。これは、抑圧下に置かれている難民支援のために使われるお金なのです。彼らはISISのために混乱の中で生活しています。
日本は無実の人々を支援するために2億ドルを約束しました。にもかかわらず、ISISは今、日本を罰することに執心しています。首相にメッセージを送り、2人の日本人をひざまずかせ、3日以内に身代金を払わなければ、おそらくこの2人は、これまでの2人のアメリカ人や2人のイギリス人の結末と同様の結果となるだろうと言いました。これには、日本だけでなく世界中が怒っています。
(CNN.com - Transcriptsより 2015/01/20)
この2億ドルという額は、安倍晋三首相が17日、イスラム国対策としてイラクやレバノンなどに2億ドルの支援を行うとエジプトの首都カイロで発表したもの。2億ドルはインフラ整備などの非軍事分野で使われるとされており、ロイターもこの日のニュースで、英語で「イスラム国と戦う国々への非軍事支援のための2億ドルだ」と報じた。
しかしイスラム国とみられるグループによって公開された動画では、「日本はわれわれの女性と子どもを殺害し、イスラム教徒の家を破壊するために1億ドルを支援した。そのため、この日本人の男の解放には1億ドルかかる。そして、日本はイスラム国の拡大を防ごうと、さらに1億ドルを支援した。よって、もう一人の男の解放にはさらに1億ドルかかる」とされており、イスラム国側は日本に対して2億ドルの支援を要求していた。
■「日本が中立な立場には見えない」イスラム教指導者
日本が難民支援など非軍事面で支援していることについては、中立とは見られていないとする意見がある。
イギリスでイスラム国を強く支持する発言を続けているイスラム教の指導者は、「欧米を後方支援していることに変わりはない。日本の立場は中立とは思えない」と述べ、戦闘に参加していなくてもイスラム国側からは日本が欧米に加担しているように映るとの見方を示した。
■「イスラム国は、議論を燃え上がらせたい」旧NATO司令官
一方で、「“経済支援をしたことがテロの対象になった”という意見を認める動きが日本で出ることが、イスラム国側のねらい」とする見方も出ている。
CNNは、イスラム国による日本への身代金要求事件を報道する中で、元NATO(北大西洋条約機構)最高軍事司令官のウェスレイ・クラーク氏へインタビューを行い、この動画について分析を求めた。クラーク氏はこの動画について、「ISISによる“プレイ”(演技)であると推測している」と述べ、イスラム国が日本に対して大金を要求することに対して「これは戦術です。彼らは議論が燃え上がらせたいのです。多くの米軍が世界中で不満を抱いているイスラム教の若者をリクルーティングする強みになる」とコメントした。
東京大学准教授の池内恵氏は自身のブログで、経済支援まで正当なテロの対象であるとのイスラム国側の主張への、日本の反応が重大だと指摘する。池内氏は、経済支援がテロの対象になるとの主張について「日本国民に広く受け入れられるか、日本の政策になんらかの影響を与えたとみなされた場合は、今後(日本に対する)テロの危険性は極めて高くなる」と警告した。
池内氏は、これまで日本にテロ行為を起こすことはメリットが少なかったと分析。しかし、このイスラム国の動画への反応次第では、日本はテロの標的にされやすいとする考えを示唆した。
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