ヒカキンのCMデビューは、放送と通信の融合の具体化かもしれない

放送と通信の融合、という言葉がよく言われる。刺激的だが、これ、意外に具体がわからなかったりもする抽象的な言葉だと思う。スマートTVがその具体化の最先端のはずだが、家電量販店のテレビ売場ではスマートTVより4Kばかりアピールされている。結局は、AppleTVやTSUTAYA TVのようなVODサービスでしかないのかもしれない。それは"融合"と言えるのか?
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放送と通信の融合、という言葉がよく言われる。刺激的だが、これ、意外に具体がわからなかったりもする抽象的な言葉だと思う。スマートTVがその具体化の最先端のはずだが、家電量販店のテレビ売場ではスマートTVより4Kばかりアピールされている。結局は、AppleTVやTSUTAYA TVのようなVODサービスでしかないのかもしれない。それは"融合"と言えるのか?

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ところで、スカルプDという頭皮ケアを謳うシャンプーがある。雨上がり決死隊の二人がCMに登場している、と言えば思い当たる人は多いだろう。そのスカルプDのCMに最近、ヒカキンという青年が出演しているのを知っているだろうか。

言葉で説明するより映像を見てもらう方が早いだろう。こんなCMだ。

このヒカキンという青年は、いわゆるYouTuber(ユーチューバー)のひとりだ。説明するまでもないと思うが、YouTuberとは、YouTubeを舞台に活躍するなんというか、映像作家というかタレントというか。自分で映像を企画して自分で撮影して自分で編集して自分でアップしている。そんな若者たちがいま、YouTube上で人気を博しているのだ。

そういう若者はもっと前からいたのはいた。ただ、つい数年前まではその他大勢にすぎなかった。でも最近は、はっきり"人気者"が登場している。ヒカキンはその中でもずば抜けた存在感を発揮している。

ヒカキンTVという自分のチャンネルをYouTube内に持っていて、チャンネル登録者数は今現在で90万以上。ひとつひとつの動画も、数十万回の再生回数が普通だ。

企業がプロに制作させた広告映像や、テレビ局がプロモーション用に持っているチャンネルでも、数十万の再生回数はそうそう行かない。YouTube上ではプロよりずっと上を行く存在なのだ。

彼の作品はもともと、商品を題材にした映像が多い。企業からの依頼で作っているものもあれば、自分でその商品に興味を持って作ったものもあるようだ。とにかく、商品について語るのがヒカキンのひとつの特徴だ。

スカルプDも、そもそもは自分で勝手に商品を使ってみて映像にしたのが始まりだそうだ。それに注目したスカルプD側がヒカキンにCM出演のオファーをしたという。

ヒカキンTVには、そのことを自分で語る映像もアップされている。

面白いのは、CM出演をヒカキンが素直に喜んでいる点だ。前々からCMに出たかったと上の映像の中で何のてらいもなく語っている。商品の紹介も実に丁寧に説明してくれている。スカルプDとヒカキンの互いに認めあってのコラボであることがよく伝わってくる。

ネットで活躍しているから、テレビを"マスゴミ"呼ばわりするのかと思うと、そういうわけではない。彼がYouTubeで活動しているのは、別に旧来型のメディアへのアンチテーゼなどという肩ひじ張った動機ではなく、やってみたかったからやってみた、ということなのだろう。そこがすごく"いま"の現象だと感じた。

「放送と通信の融合」という言い方もずいぶん肩ひじ張ったものだが、その具体化は、スマートTVだなんだより、このCMのようなことかもしれない。ネットで活躍していた青年がテレビに出る。そんな他愛のない、でも極めて現在進行形なことにこそ、"融合"の本質があるのではないだろうか。

ぼくは、今年、こういうことがかなりあちこちで起こるのではないかと予測している。スマートフォンの革命的な普及は、こういう現象を導き出すのだ。放送と通信の融合が、あちこちで、肩ひじの張らないユニークな表れ方で、起こるのだと思う。

コミュニケーションディレクター/メディアコンサルタント

境 治

sakaiosamu62@gmail.com

(※この記事は、2014年1月6日の「クリエイティブビジネス論!~焼け跡に光を灯そう~」から転載しました)