トークショー “教えて、医療の摩訶不思議! 診療明細書って、なんだろう?”

明細書のメリットは「診療内容がわかること」と「医療費の明細がわかること」。
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HuffPost Japan

連合が取り組んできた「お医者さんにかかったら、明細書をもらって、しっかり保管しよう!」キャンペーン。運動が実を結んで、今年4月からほぼすべての医療機関の窓口で明細書が発行されている。

明細書はなぜ必要なのか。ネットメディアを中心に絶大な人気を誇る歌手のぽこたさん、MCをはじめ多彩に活躍するナオキ兄さん、連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員の勝村久司さん、医療経済学を専門とする真野俊樹さんという異色の顔合わせでトークショーが実現。一般参加者を中心とした180名が埋め尽くした会場からもたくさんの質問が寄せられた。

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勝村久司

高校教諭、連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員

陣痛促進剤被害で長女を失い、薬害・医療被害の再発防止をめざす市民運動に関わる。中央社会保険医療協議会初の患者代表委員として明細書無料発行実現に尽力。「医療情報の公開・開示を求める市民の会」世話人。

著書に『ぼくの「星の王子さま」へ〜医療裁判10年の記録〜』(幻冬舎)、『レセプト開示で不正医療を見破ろう!』(小学館)など。

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真野俊樹

中央大学ビジネススクール教授、多摩大学大学院特任教授

臨床医を経て、95年コーネル大学医学部研究員。外資系・国内製薬企業のマネジメント、シンクタンクに携わったのち現職。医学博士、経済学博士、MBA。

著書に『医療マーケティング』(日本評論社)、『治療格差社会 ドラッカーに学ぶ、後悔しない患者学』(講談社)、『医療危機−高齢社会とイノベーション』(中央公論新社)など。

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ぽこた(歌手)

ニコニコ動画でもトップクラスの知名度を誇る歌い手。メジャーデビューも果たし、精力的にライブを行っている。代表作は、『ワンチャン僕の女神様っ!!!』(2015、シングル)、『ラ・セラヴィー』(2016、ミニアルバム)など。

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ナオキ兄さん( MC)

2009年よりニコニコ生放送で人気番組を配信。MCとしても活躍。「ニコニコ超会議」では、2年連続して連合ブースのMCを務める。

テーマ1「診療明細書って何?」

ナオキ兄さん 明細書って、普段、意識したことあります?

ぽこた いや、まったくなかったんですけど、昨日、鼻風邪で病院に行ったらもらいました。でも、領収証と明細書、書いてあることはそっくりなのに、なんで別々に渡されるんだろう?

ナオキ兄さん もらっても捨てちゃう人、多いよね。まずは勝村久司先生に、診療明細って何?というところから、教えてもらいましょう。

勝村 ぽこたさんは、病院で診療明細書と領収証の2枚をもらいました。実は以前は「領収証」すらもらえない時代があったんです。連合は、「お医者さんにかかったら、領収書をもらおう!」運動を展開し、2006年に発行が義務づけられました。でも、領収証は、検査料、注射料など項目ごとの小計が記載されているだけ。自分が受けた医療の内容を知るには、初・再診料、手術名・薬剤名・検査名などがすべて正式名称で単価・数量とともに記載されている明細書が必要です。そこで、連合は「お医者さんにかかったら、明細書をもらって、しっかり保管しよう!」キャンペーンを行って、2010年4月から、一部の医療機関は免除されたものの保険医療機関と保険薬局に明細書の発行が義務づけられることになったんです。その後、対象の医療機関は少しずつ拡大し、今年4月からは、ほぼすべての医療機関で義務づけられました。だから、誰でも当たり前に明細書がもらえるようになったのは、実はつい最近のことなんです。

ナオキ兄さん 明細書をもらうことにはどんなメリットがあるんですか?

勝村 ある人が風邪で病院にかかった時の明細書を見たら、そこにトリアージの報酬が請求されていた。トリアージとは、事故などで多くの患者が運ばれる緊急時に、誰を優先的に診るのか判断することです。病院に問い合わせたら、間違って請求していたことがわかった。

 明細書のメリットの一つは、診療内容がわかること。薬も正式名称が記載されていますから、詳しい効果や副作用を知りたい時は、すぐにインターネットで検索できます。また、セカンドオピニオンを求めたい時、これまでの治療を説明するのにも便利です。さらに、重大な薬の副作用などの問題が起きた時、自分がその投薬を受けたという投薬証明にもなります。

 もう一つは、医療費の明細がわかること。明細書に書かれている点数は1点が10円。医療とその単価が見合うのか、患者の感覚に合っているのか考える手がかりになります。

 ちなみに、生命保険の給付請求をする時には医師の診断書が必要になりますが、治療の内容によっては診断書代わりに使える保険会社もあるので、患者もお医者さんも、時間とお金の節約になります。

ナオキ兄さん 患者の立場からも、医療をチェックすることが求められる時代なんですね。

ぽこた その場では判断できなくても、明細書を保管しておけば、後で疑問に思った時、調べることができますね。

勝村 明細書発行義務化で、患者も医療情報を得ることができるようになりました。お医者さんと情報を共有して、一緒に考えていければ、納得のいくより良い医療を実現できる。今、ようやくそのスタートラインに立てたのではないかと思います。

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テーマをわかりやすく伝える寸劇も

テーマ2「医療がわかりづらい理由とは?」

ナオキ兄さん 次に中央大学教授で医学博士の真野俊樹先生に、なぜ医療がわかりづらいのか、経済学の観点から解き明かしてもらいます。

真野 みなさん、ペットボトルの飲み物を買う時、その価格や美味しさがわかっていて買いますよね。ところが、医療はそうじゃない。1万円の治療を受けた時、窓口では自己負担分3割の3000円を払い、残りの7000円は保険で支払われる。売り手と買い手の間に保険者という第三者が介入するんです。その財源は保険料と税金ですが、自己負担額が少ないので、患者は価格を通じてサービスの質をチェックする姿勢が弱くなり、お任せ意識が強くなってしまう。また、医療の価格は国が決めてきたので、経済学者がそれを分析するということが行われてこなかった。そういう中で、医療費はどんどん増えて、いまや40兆円以上。国の財政を圧迫する大きな要因になっています。

 日本の健康保険制度はとてもいい制度です。制度を維持するためにも、経済学的な視点で適正な価格やシステムを考え、医療費の膨張を抑える必要がある。そういう動きがようやく出てきたところです。

ぽこた 医療と経済学をシンクロさせる必要がありますね。

ナオキ兄さん 医療の価格が適正になれば、自己負担を引き上げられる懸念もなくなるんですね。

真野 そうなんです。医療については、Aを買うか、Bを買うか。その判断をする情報が患者にはなかった。これからは患者の側から要望を伝えることが大事です。

 薬を出しても、錠剤が苦手な人は飲まなかったりする。そんなふうに薬が使われずに眠っているとしたら、経済学的にはすごくムダだし、医療費膨張の原因にもなってしまう。

ぽこた 音楽の仕事をしているので、鼻水を止める薬を飲むと、喉が乾燥して歌えなくなるんです。最近、そのことがわかって、お医者さんに喉が乾燥しないような処方をしてくださいと言えるようになりました。

真野 実は、日本のように質の高い医療を安く受けられる国は他にそうないんです。窓口負担は1割から3割、高度な医療も高額療養費制度があるので一定の負担で受けられる。この制度を守るためにも、医療に関心をもって、より良いものにしていかなければと思います。

ナオキ兄さん 連合は労働組合ですが、医療の問題にもずっと取り組んできました。それはどうして?

勝村 医療費は、国の予算の中でも大きな割合を占めています。労働者である連合の組合員は、健康保険料を納めています。でも、医療関係者だけで政策を決めると、どうしても患者の視点が置き去りにされてしまう。だから、連合は、働いて保険料を納めている被保険者、そして患者という立場で、医療に関心をもち、国の政策に関わっていく必要があると考え、政策への意見反映や運動を行ってきました。その一つが、領収証・明細書をもらおう運動だと思っています。長い時間がかかりましたが、やっとどの医療機関でも当たり前に発行されるようになりました。

質問タイム「まだまだ知りたいことは?」

参加者 診療明細書を出してくれない場合はどうしたらいいんですか?

勝村 発行義務が猶予されている診療所でも、患者から請求があれば発行する努力義務があるので請求してください。

参加者 診療明細書の内容がよくわからない、これはおかしいと思った時は?医療費の点数の妥当性を判断する基準はあるんですか?

勝村 疑問に思うことがあったら、連合に言ってください。連合は医療の値段を決める国の会議に、委員を二人出しています。明細書発行義務化をきっかけに、私もみなさんと一緒により良い医療をつくっていきたいと思います。

参加者 同じ診療報酬なのに、病院によって設備の違いがあるのはなぜ?

真野 経営母体の違いがあります。民間病院は経営力の差が現れますね。

ぽこた 病院側にも患者に選ばれるための努力が必要なんですね。

ナオキ兄さん 今は、ネットの口コミもあるし、良い病院をつくっていくのは患者さんなのかもしれませんね。

真野 その通りです。患者さんが医療を育て、病院を育てる。インターネットの時代は、患者や生活者の意見が反映されやすい。みなさんが、意見をどんどん言っていけば、日本の医療のレベルをもっと上げていけると思います。

ナオキ兄さん 今日はありがとうございました。

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※この記事は連合が企画・編集する「月刊連合11月号」の記事をWEB用に再編集したものです。