地球温暖化に懐疑的なトランプ大統領は、環境保護局(EPA)や航空宇宙局(NASA)、国立公園局などの政府機関に、気候変動に関する情報発信や研究を制限している。
ロイターによると、環境保護局の職員はSNS投稿のほか、講演や会合などの今後60日間の予定を公表できなくなったという。農務省、内務省、厚生省の各省職員も情報発信に制限がかけられた。EPA広報に対しては、ホームページから気候変動に関係する部分を削除するよう指示が出た。
こうした「箝口令」は後に撤回されたというが、一部の制限はまだ残っているという。
トランプ政権は、NASAの事業を宇宙探査に絞り込み、同局地球科学室の事業の一部だった気候変動の研究を廃止する方針だ。NASAの全体予算200億ドルのうち、気候データの収集などを手がける地球科学室に割り当てられているのは20億ドルほどだが、共和党はこの事業への予算割当を望んでいない。
2月16日に開かれた公聴会で、下院科学委員会のラマー・スミス委員長(共和党)は、他の機関が気候変動の研究を引き継げるよう、NASAのミッションを「再調整」したいとの意向を示した。しかし、引き継ぎを行うのがどの機関になるのかは不明だ。
トランプ政権の露骨な情報発信制限令に、NASA(@RogueNASA)や国立公園局(@AltNatParkSer)はTwitterに非公式アカウントを開設して対抗している。
ニューヨークタイムズによると、環境保護局(EPA)長官に就任したスコット・プルイット氏は、気候変動問題に懐疑的な姿勢を示しており、トランプ大統領がEPAと「縁を切る」という公約を掲げた直後から、EPAの予算および人員の削減を明言していた。またEPAには、気候変動に関するツイートの投稿を一切控えるよう、トランプ政権からの指示が下されている。
一方、NASAは @NASAclimate とFacebookページに気候変動情報を毎日更新し、急激な気候変動に関する警告を頻繁に発信している。
@NASAGISS による気温調査のマンスリー・アップデートから、2017年1月は調査記録のある137年間のうち3番目に暑い1月だったことが分かる。
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新しい研究によると、人間は自然の力と比べて170倍の速さで気候を変動させているという。
気候変動により深い理解と積極的行動を求めるNASAの呼びかけに反して、スミス委員長はE&Eニュースの取材に、「宇宙探査事業の予算拡大」 を望んでいると語った。「優先順位を忘れてはならない。地球科学や気候変動の研究を行う機関は他にいくつもあるが、宇宙探査に携わる機関は1つしかない。予算はすべて、宇宙探査事業に充てる必要がある」
これは、気候変動研究から予算を引き上げる政策の一環とみられる。トランプ氏は大統領選の遊説中、気候変動問題はアメリカの産業に打撃を与えるためにでっち上げられた「中国人のホラ話」だと発言した。
テックニュースメディア「Wired」によると、NASAやその他の気候変動に関わる機関への介入を恐れた科学者や技術者たちは、「DataRefuge」や「The Environmental Data」、「Governance Initiative」といったグループを通じて連邦のデータベースに保存されたあらゆる研究データをダウンロードしているという。また、EPAやその他の政府機関に対するかん口令が敷かれたことで、環境問題を扱う機関の「非公式の」Twitterアカウントが数多く誕生した。その多くが、気候変動関連の情報を扱っている。
■2016年は観測史上最高の暑さだった
実際、気候変動の影響は顕著になっている。2016年は観測史上最高の暑さだった、と2つの連邦政府関係機関が1月18日発表している。
NASAによると、2016年は20世紀中ごろの平均気温よりも華氏1.78度(摂氏0.99度)気温が高く、NOAA によると2016年は20世紀の平均気温よりも華氏1.69度(摂氏0.94度)上昇した。政府機関はこれらの期間を気温の変化を図る設定点としている。
「1970年代から観測されてきた、温暖化の傾向がずっと続いている」と、NASAのゴダード宇宙科学研究所ガビン・シュミット所長は18日に記者に語った。
2016年の記録は「数十年単位の傾向の一環」と考えるべきだと、NOAAの環境情報国立センターの地球監視部長デーク・アーント氏は語った。
「2016年は記録的に暑い年だったというデータを以前の複数のデータに照らし合わせ、数十年の温暖化が続いているということを示すのです」とアーント氏は言う。
この発表と同じ日に行われたイェール大学とジョージ・メイソン大学共同の年間調査では、19%のアメリカ人が地球温暖化を「非常に心配している」と答え、2008年に始まった調査で最高の値を示している。
こうした調査結果は、1月に発表されたヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)のコペルニクス気候変動サービスの結果を裏付けるものだ。この調査結果によると、地球表面の平均気温は華氏58.6度(摂氏14.8度)となり、産業革命以前の時代より華氏2.3度(摂氏1.28度)ほど上昇している。
危険にさらされた地球:コペルニクス気候変動サービスによると、記録を更新した2016年は華氏約1.5度(摂氏約0.83度)近く上昇した。
この兆候は、年初、1月の暑さが史上最高を記録したときから始まっていた。NOAAが毎月にわたって記録的暑さを観測した4月のデータの発表を受けて、シュミット氏は、2016年は99%の確率で記録的な年になるだろうとツイートしていた。
4月の記録をみると、2016年はこれまでの記録や年ごとのパターンを考慮に入れると99%の確率で記録を更新するだろう。
「ほとんどの気候科学者が、気温が上昇するスピードに驚いていると思います」と、非営利団体「憂慮する科学者同盟」の気候科学者で、ハフィントンポストUS版のブロガーでもあるアストリド・カルダス氏は語った。
「記録が破られたという事実よりも、記録の差に驚いています」と、カルダス氏は述べた。
シュミット氏は、温暖化の傾向をみると2017年は例外的に暑い年になるだろうと予想しているが、不定期に起こるラニーニャ現象により気温が下がり、新記録が出ない可能性もあるという。
「今年は穏やかなラニーニャ現象でスタートしています。おそらく、来年の気温を少し下げると予想されます」と、彼は記者に語った。「しかし、長期の傾向ははっきりしているので、観測史上上位5位以内の暑さになると分析します。これは自信をもって言えますが、過去最高が更新されることはないと思います」
アメリカでは、2016年は気温が高かったが、2012年の最高記録には及ばなかった。1月初めに発表されたNOAAの報告によると、2016年のアメリカの平均気温は華氏54.9度(摂氏12.72度)で、産業革命前の平均気温を華氏2.9度(摂氏1.61度)上回っていた。
それでも、アメリカ本土の48州の平均気温は、通常より華氏3度(摂氏1.6度)近く高く、アラスカ州の平均気温よりも華氏6度(摂氏3.33度)高かった。
NOAAによると、アメリカ各州の年間平均気温は7年間の中で最も暑く、アイオワ州、メイン州、ネバダ州、オレゴン州とユタ州を除くすべての州が、5年間の中で最も暑くなった。
ヒューストン、ニューオーリンズ、クリーブランド、アトランタなど34都市は、最も暖かい年だったと、NOAAは伝えた。
気温の高さは、大洪水、ハリケーン、そして山火事など、2016年に起こった多くの自然災害と関連している。
こうした地球温暖化の記録は人間の生産活動の結果であると、シュミット氏は8月に撮影された動画で説明した。
「私たちが今目にしている長期にわたる温暖化は、主に温室効果ガスの変化により引き起こされています」と、シュミット氏は語った。「つまり、人々が記録的暑さについて語っているのは統計上の偶然ではありません。私たちのせいで起こっているのです。もし私たちが行動を改めず、このままの活動を続けるなら、この気温の記録は更新し続けることになるのです」
トランプ大統領や彼の任命した閣僚の多くは気候変動の影響を軽視しているか、気候変動自体を否定し、科学者たちが地球温暖化の進行を食い止めるために必要だと訴えるエネルギー政策に反対している。
トランプ政権の国務長官は、石油最大手のエクソン・モービル会長レックス・ティラーソン氏だ。エクソン・モービルは地球温暖化を否定するための調査を実施している。環境保護局の長官にはオクラホマ州司法長官のスコット・プルイット氏。彼は発電所規制をなくすように同庁を訴えている。エネルギー省長官には前テキサス州知事リック・ペリー氏。彼は大統領選に出馬した時、エネルギー省の廃止を公約を掲げた。そして、司法長官には共和党上院議員ジェフ・セッションズ氏。彼は温暖化対策の政府支出に反対している。
ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。
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