災害支援のプロ集団「シビックフォース」。台風19号被災地支援のために援助を呼びかける

災害支援のプロフェッショナル「シビックフォース(緊急即応チーム)」が、支援活動に力を注ぐためにクラウドファンディングで支援を呼びかけている。
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台風19号で被災した長野県での支援活動=シビックフォース提供

毎年のように繰り返される自然災害。日本では、今年も台風15号、19号など、大きな自然災害に見舞われ、災害対策は国をあげての重要課題となっている。

そんな中、数々の災害支援で行政、企業、NPOをつなぎ、リーダーシップを発揮しているのが、公益社団法人「シビックフォース(緊急即応チーム)」だ。災害支援のプロフェッショナルとして、活動の幅を広げる中、クラウドファンディングでも多くの人に賛同を呼びかけている。

 

■台風19号上陸に向けて、緊急合同支援チームを結成

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台風19号で被災した長野県での支援活動=シビックフォース提供

日本中に緊張が走った台風19号でも、その動きは迅速だった。10月12日、台風が上陸する前からほかの支援団体と緊急合同支援チームを結成。レスキューチームと医療チームを待機させると同時に、寄付口座も開設した。13日には、被害が甚大だった長野県千曲川周辺地域に、緊急支援チームを派遣。病院患者の緊急搬送、発電機やランタンなどの病院への物資支援、避難所に避難している人たちの診察などを行った。

災害直後だけでなく、その後の復旧に向けて、現在もNPO団体と連携しながら取り組んでいる。

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台風19号で被災した長野県での支援活動=シビックフォース提供

■新潟・中越地震、インドネシア・スマトラ沖地震

シビックフォースの代表理事を務めるのが大西健丞さん。大西さんが、緊急災害支援のプロ組織の設立を思い立ったきっかけのひとつが、2004年の新潟県中越地震だ。当時、国際協力NGOピースウィンズ・ジャパンの代表理事として、現地で被災者支援にあたっていた。

しかし、「混乱する被災地では自治体との連携がうまくいかず、物資の支援や情報の提供が滞るなど、多くの課題がありました」と大西さんは振り返る。その一方で、スーパーと協力した炊き出しなど、企業の支援の力の大きさも実感したという。 

さらに、中越地震から2カ月後、インドネシアでスマトラ沖地震が発生。

「すぐにインドネシアで飛行機をチャーターして、壊滅的な被害を受けたアチェに向かいました。そこで見たのは、あらゆるものが破壊され、建物の基礎しか残っていない風景。地質学的に、これと同じことがいつ日本で起きてもおかしくないのだと、危機感が募りました」(大西さん)

大規模災害にはNPO、企業、行政、住民が連携することが何よりも重要だ。そんな強い思いで、それらを結びつける災害支援のプロの組織づくりに奔走する。2007年にシビックフォースの前身となる組織を設立。2009年には、大西さん本人が代表理事となり、現在のシビックフォースを立ち上げた。

そのミッションは、「あらゆる被災者のニーズに応えられるよう、被災者一人ひとりの視点を最大限重視すること」「企業・政府・行政・地域と連携し、かつてないスピードで質の高い支援を提供すること」だ。

 

■自分たちで災害時用のヘリコプターを確保

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企業の協力を得て手配したヘリコプター=シビックフォース提供

シビックフォースが最初に取り組んだことのひとつが、ヘリコプターの確保だった。大規模な災害が起きると、被災地はアクセスが難しくなり、孤立。空から支援に行くしかない。また、スタッフも含めて日頃から訓練をすることも必要だ。 

「通年で使用できる専用ヘリコプターが不可欠ですが、ヘリコプターのチャーターは高額になります。30社ほど交渉して、ようやく高橋ヘリコプターサービスという会社が協力してくれることになりました」

ほかにも、災害支援のための設備投資は総じて高くつく。資金援助を求めて大手企業を何社も回るが、「いくら首都直下型地震や南海トラフのような大災害がいつ起こってもおかしくないと話しても、なかなか現実味を持って考えてもらえませんでした。“言っていることはわかりますが…”、という半信半疑な反応ばかりでしたね」と苦笑いする。

 

■東日本大震災で見せた災害支援の実力

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東日本大震災が発生した翌日、がれきの中を歩いて避難する住民=2011年3月12日午前、宮城県名取市。朝日新聞社撮影

しかし、残念ながら、大西さんの予言は的中する。2011年の東日本大震災だ。

その日、スイスで救助犬の訓練に参加していた大西さん。CNNで東日本大震災の一報を知り、すぐに日本へ帰国した。震災翌日には、ヘリ部隊が仙台の南にある名取市付近へ飛んで状況を確認。さらに後日、現地に降り立って状況を確認した。

想像を絶する大災害に日本中が混乱し、物流や情報伝達もストップし、支援物資が被災者の手元に届かない事態が多く発生した。政府にも自衛隊にもそれほどの食料備蓄はない。物流や情報伝達もストップし、支援物資が被災者の手元に届かない事態が多く発生した。

そんな中、「震災で引っ越しどころでなくなった引っ越し事業者に交渉して、トラックを大量に確保。通れる道路を探しながら、被災地に物資を運びました」(大西さん)と、機動力を発揮する。 

米軍のトモダチ作戦では、被災地に着岸できない米国の艦戦から人や物資を運ぶために、瀬戸内海からフェリーを手配。さまざまな場面で、災害支援のプロとして活躍し、支援の輪をつなぐシビックフォースに、多方面から賛辞と感謝が寄せられた。

 

■SNSを駆使して、連携の輪を広げる

(動画:北海道胆振東部地震の被災地での捜索活動)

 

「SNSを積極的に活用することも重要です。被災地の様子をリアルに発信していくことで、さまざまな立場の人や企業、団体が、“一緒にできることはないか”と、考えてくれる。ひとつのNGOではできないことも、大勢が協力することで可能になります。そこに我々がプラットフォームとして果たす役割がある」(大西さん)

災害時の緊急対応だけでなく、その後の復興支援についても、連携の力を使って長期的に取り組む。東日本大震災では災害支援の専門団体や地域のNPOと財団を設立し、被災した中小企業向けの融資などを実施。被災地のニーズの変化に合わせた「NPOパートナー支援事業」として、ほかの被災地でも展開している。

 

■イラクなどの紛争地での経験が緊急時に役立つ

世界でさまざまな支援活動を経験し、日本を代表する社会起業家でもある大西さん。上智大学卒業後、イギリスに留学。その後、紛争中のイラクで日本の小さなNGOの現地代表となり、以降、長年に渡り、紛争地の国際協力にたずさわってきた。そこで得た緊急時での経験と人脈が、日本の災害支援に大いに活かされている。 

「平和な日本で暮らしている人が、大規模災害のような予想外のできごとが連続するような事態に対応するのはなかなか難しい。シビックフォースには、海外の紛争地でさまざまな経験を積んだスタッフが集まっています。その分、緊急時の対応力が違います」(大西さん)

 

■村上財団と設立当初から続く支援の縁

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西日本豪雨の被災地を訪れた大西健丞さん(左)と村上絢さん=村上財団提供

資金面でシビックフォースを大きく支援しているのが、村上財団だ。代表理事の村上絢さんは、シビックフォースとの縁を次のように語る。

「2007年に、父の村上世彰がNPOへの寄付をつなぐNPOとして『チャリティ・プラットフォーム』を設立しました。ちょうどその頃、大西さんから、シビックフォース設立の相談が父に持ちかけられたのが最初のきっかけです」(絢さん) 

日本には災害支援をするNPOはたくさんあるが、その中心となる行政とNPO、企業や地域社会を結ぶものがない。それらをつなぐプラットフォームをつくりたい──。そう語る大西さんに、村上世彰氏は賛同。全面的な支援を約束する。

「父や私にとっては、シビックフォースを立ち上げから共に育ててきたという思いがあります。もちろん、現在も、日本で災害支援という社会課題を解決する団体として、支援をさせていただいています」と絢さんは語る。 

大学生の頃から社会貢献活動に関心が強かったという絢さん。実は、大学生のときに、大西さんの海外支援の活動についていく形で東ティモールを訪れたり、災害時想定の訓練にも参加したりしてきた。一緒の時間を過ごす中で、大西さんとは社会貢献について多くのことを語り合ったという。

「私にとって、大西さんはNPO活動におけるメンター的な存在なんです」と語る絢さんは、大西さんを「懐が深くて、とてもあたたかく人間味のある人。そして、強力なリーダーシップでみんなを引っ張ってくれる人」と評する。その信頼感は、財団として今後も支援し続けるという強い思いにつながっている。

 

 

■守ってもらう私ではなく、隣の人を守れる自分になる

より強固な災害支援の体制づくりを目指すシビックフォースでは、他団体と連携し、緊急時の救急医療や救助犬による行方不明者の捜索などレスキュー支援の活動にも力を入れている。2018年の西日本豪雨や2019年の台風19号では、医師や救急救命士らの参加により浸水した病院の患者を近隣の医療機関に救急搬送する支援が実現。さらに多くの命を救えるよう、自治体や医療機関との協力体制を整えつつある。

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アジアパシフィックアライアンス・ジャパン(A-PADジャパン)が結成したレスキューチーム「空飛ぶ医師団」の行事で挨拶する大西さん(右)=2017年、朝日新聞社撮影

また、大西さんは、アジア太平洋地域とも連携して、災害支援、防災活動の調査・研究をする「アジアパシフィック アライアンス」も設立し、CEOに就任。国内外の災害支援の知見を集結し、協力の輪を広げている。

「地質学の歴史から考えると、今後、日本は必ず大災害に見舞われます。そのための準備を今からしておかなければ、世界からも見捨てられてしまう。“守ってもらう私”ではなく、“隣の人を守れる自分たちになる”という意識変革が必要だと思っています」(大西さん)

 

■クラウドファンディングで支援募る

A-portで実施中のクラウドファンディングは「災害発生後では間に合わない」と日ごろからの準備の一つとして進めていたものだったが、台風19号の影響により、各地で大きな被害が発生。当面は、その支援活動に力を注ぐために、資金を募っている。詳細はこちらから。

(取材・執筆=工藤千秋)