その地域の「らしさ」を追求するために、これからの「エコノミー」について考えてみる

多くの自治体や地域は、予算や人がいないからできないと嘆いたり、つい先進事例を真似して安全パイを切ろうして結果として失敗に終わる、ということが往々にしてある。
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昨今、「地域」を考えようとする動きが増えてきて、自治体関係者から仕事や相談の依頼も多くなってきた。自治体も人口減少を目の前の課題を受け止めてくるなかで、いかにして定住や観光誘致などをしていくかで躍起になっているところが多い。

そうした、外から内への施策に力をいれてくだけでなく、「地域」に目を向けたときにそこに住む人たちがどう考え、普段どう過ごしているのか、も同時に考えないといけない。

地域の主役はそこに住む人たちであって、地域の未来を決めるためには当事者となる人たちのアクションが未来を拓いていく。変わりつつある社会情勢のなか、その地域がその地域らしくあり続けるためにどうするか。

著者の一人として参加した『日本のシビックエコノミー―私たちが小さな経済を生み出す方法』(以下、『日本のシビックエコノミー』)は、そうした地域の未来を考えるために、ただの事例集ではなく、その事例から得られるポイントや、自分たちでシビックエコノミーと呼べる取り組みをしていくために必要な知識やノウハウを体系だててまとめたものだ。

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もともとは、2014年に『エコノミー--世界に学ぶ小さな経済のつくり方』(以下、『シビックエコノミー』)が刊行され、その書籍が「シビックエコノミー」という言葉を日本でも広めたものになっている。

これはイギリスの00(ゼロ・ゼロ)というデザイナー、社会起業家、シンクタンク研究員、建築家などから構成されるチームがリサーチした、市民参加型の地域づくりと持続性をもった取り組みをまとめたものだ。2010年代から次第に生まれてきた地域づくりと持続的な活動を通じて"エコノミー"を生み出す活動や仕組みが紹介されている。

ロンドンなどを中心に海外で起きている事象は、もちろん日本でも生まれはじめている。そこで、日本の「シビックエコノミー」の事例をまとめようとしたことが、今回の書籍の製作のきっかけでもある。

『シビックエコノミー』の反省として、その事例が生まれた地域独特の背景や立ち上げから現在までの経緯が文字数やページ上の問題で多くは載せきれなかったこともあり、日本版では経緯や背景を丁寧に踏まえつつ、事例紹介に終わることなく、それぞれの取り組みの特徴やポイントをまとめてフレーム化し、かつ論考やシビックエコノミーをつくりだすための実践方法や体制づくり、マインドセットなど、メタな視点からその取り組みを把握することができる。

それまでの「シビックプライド」は、自分たちが住む都市や地域へのアイデンティティや帰属意識をどう高めるか、という背景があった。

交通網の発達や地域とかかわらなくても生活や仕事ができてしまう時代になるなか、日常の多くを過ごす都市に対して、ポジティブな感情やコミュニケーションを生み出すために必要な考えとして、シビックプライドという概念と、それを想起させるさまざまな施策を行い始めるようになった。

それは、ただのシティプロモーションなどではなく、住む人が地域に積極的に関わる余白や、ここに自分たちがいていい、と居場所として感じられるものだった。

そこから一歩踏み込み、市民が主体となった、市民の市民による市民のための"エコノミー"を作り上げるものが「シビックエコノミー」だ。さて、ここで言う"エコノミー"にも注目したい。

現在において、エコノミーは貨幣を中心とした言葉として読み替えられるが、ここでは必ずしも貨幣経済のことだけを指すものではない。もちろん、事業や市場と向き合わないわけではなく、そうした既存の資本主義のルールを踏まえた上で貨幣を考えながらも、新たなエコノミーへの道も作り出そうとしている。

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エコノミーという言葉、日本語のもととなっている「経済」の意味は、人間の生活に必要な物を生産・分配・消費する行為についての、一切の社会的関係のことを指す。

それまでは、金銭のやりとりなど貨幣を軸とした交換ややりとりを念頭においていたが、それは貨幣というものが腐らずに持ち運びや交換手段として容易だったがゆえに重宝されたものであり、貨幣も経済の手法の一つに過ぎないのが、それが絶対的なものとして浸透してしまった。

そうした、これまでの貨幣中心経済から、オルタナティブな方法が模索されるようになっている。そこには、シェアの概念や、物々交換、評価経済などさまざまな概念が登場してくる。

『日本のシビックエコノミー』に出てくる事例は、もちろん、経済的な指標において活動するものもあるが、それがすべてではなく、人との関係や、互いのスキルを交換したり、いままでとは違った手法やアイデアを実践することを後押しした、一見合理的な判断とは違うものによって生まれたものだ。

同時に、その地域「らしさ」や課題をそれまでとは違ったアプローチで取り組まないといけない危機感の中で、新たな挑戦やアイデアをもとに活動してきた人たちによって、成果をだしたものだ。

いかにして地域の「らしさ」をそれぞれが考え、追求していくか。日本のシビックエコノミーに登場している取り組みも、その地域固有の課題から生まれてきたり、テクノロジーなどを活用して、それぞれの活動は小さいものでも、全国で横でつながることでインパクトを与えていく仕組みを紹介している。

そこには、地域固有の歴史や人との関係における信頼関係によって生まれた取り組みも数多くある。当たり前かもしれないが、その事例をそのまま自分たちの地域や自社の事業として取り組もうとしても意味が無い。自分たちの足元と向き合い、そこから内発的に生み出すものが、結果として「シビックエコノミー」と呼べるような活動になっていく。

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多くの自治体や地域は、予算や人がいないからできないと嘆いたり、つい先進事例を真似して安全パイを切ろうして結果として失敗に終わる、ということが往々にしてある。

しかし、「ない」を嘆くよりも、できることを取り組んでいく。そのためにも、市民団体や民間企業など取り組みを継続的にするアイデアをもつ人たちが主導して行うことが必要だ。行政は、そうした市民や企業が取り組む活動をあくまでサポートする存在として、互いの役割を分担しながら広く地域の価値をつくり上げる活動をしていなければいけない。

その手段として「観光」を打ち出すこともあるが、観光によって外から人が来ることで地域にはさまざまな影響も与える。市場原理に則れば、観光に来る人たちに向けてサービスや商品を作っていけば、貨幣経済的には意味があるかもしれないが、それによってその地域の「らしさ」が失われては、結果としてその地域の魅力は半減してしまう。

だからこそ、貨幣経済的な指標ではない形で地域の価値を高めるための新たなエコノミーを作り出す。結果として、その地域を多くの人、それは住んでいる人だけでなく、町外、県外の人も関わったりその地域をみんなで育てていこうと思ってもらうための「関係のデザイン」をしていくことでもあり、それによって、持続的で魅力的な地域づくりが生まれてくる。

そうした、これからの地域をつくりためのヒントに、『日本のシビックエコノミー』が寄与すれば、一著者として光栄に思う。

読むだけでなく、『日本のシビックエコノミー』を読んだ感想をシェアしたり、書籍を片手に地域の未来を考えるイベントや集まりを企画したりしてほしい。そうした場があれば、できるだけ参加し、地域についてともに考え、ともにつくりあげていきたい。

(2016年4月19日「being beta:Shintaro Eguchi blog」より転載)