都市がグリーンで持続可能になるための、周辺地域との関係性について

デンマークは、2050年までに電力、熱、輸送のすべてのエネルギー部門で化石燃料から脱却するという、野心的なエネルギー政策を掲げています。

ご無沙汰しておりましたが、皆さんもきっとよい夏を過ごされていることと思います。

デンマークでは8月の第2週から新学期がスタートし、息子も8年生になりました。そろそろ、将来どんな職業につきたいのか、そのためにはフォルケスコーレを終えた後にどんな学校に進学すべきなのかを考える時期に来ています。8年生から新しく始まった教科もあるので、これについてはまた別の機会に触れたいと思います。

さて、今日の話題は、都市がグリーンで持続可能になるための、周辺地域との関連性について。これは、先週の地元紙Folketidendeの記事です。

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デンマークは、2050年までに電力、熱、輸送のすべてのエネルギー部門で化石燃料から脱却するという、野心的なエネルギー政策を掲げています。それに先駆けて、コペンハーゲン市でも、2025年までに、世界で初めてのCO2ニュートラルの首都になるというエネルギー政策を打ち出しています。

その主な方法としては、省エネルギー化、グリーンなエネルギー生産、グリーンな輸送というところで、エネルギー利用の効率化による省エネルギー化や、自転車活用推進やグリーンな交通手段や輸送手段への移行も、コペンハーゲンの中で実施可能な分野です。

しかし、エネルギー生産となると、話はちょっと違ってきます。

コペンハーゲン市は、2025年までに、全体で120万トンのCO2削減を行うことでCO2ニュートラルとなります。そのうち85万5千トンのCO2をエネルギー生産分野で削減するとしており、その中で風力発電が占める割合は42%となっています。

しかし、コペンハーゲン市内にすべての風力発電機を建てるのは不可能ですから、周辺地域、周辺自治体と話し合いをして、自治体の都市計画で風車を建てられるスペースを定めている場合、その場所を借りて建設ができるかどうかの話し合いを進めることになります。

その結果、現在コペンハーゲン市以外の自治体3カ所に、コペンハーゲン市のエネルギー供給公社であるHOFORが建設した風力発電機が建っています。そのうちの2カ所は、ロラン市にあります。

現在、デンマークの法律で陸上に建てられる最大級の大きさ、149メートル、3MWクラスの風車が合計8基建っています。

それでも、コペンハーゲン市の目標にはまだ足りません。現在、ロラン市にある3カ所の風力発電機建設予定地に、コペンハーゲン市用の風車を建てられないか、新たな交渉が始まっています。

この3カ所の予定地に、ロラン市が計画しているのは全部で9基の風車の建設です。しかし、HOFORは「2列にすれば、全部で16基は建てられるのでは?」と打診してきているようで、これが今、ロラン市では大きな議論になっています。

デンマークでは、その地域の人以外が風力発電機を建設する場合には、風車株のうちの20%をその地域の人たちに売らなければいけないという法律があります。風は地域の資源ですから、地域の人でなく、よそから来た人がバンバン風車を建てて地域の資源や経済を脅かすことを防ぐためです。ロラン市の人たちは、国のエネルギー政策も、地元が国内でも1,2を争う優良風況地域ということがよくわかっていますから、コペンハーゲン市がCO2ニュートラルになるために、ロラン島のような周辺地域が協力すべきことはよく理解しています。

しかし、以前の70〜80メートルの高さの風車ではなく、その倍の150メートル近い高さの風車となると、感覚的には大きな違いがあります。山がないロラン島にあっては、かなり遠くから見えますし、やはり法律で、風車の高さの少なくとも4倍の距離は住宅から離れていなければならないという法律がありますが、それなりの威圧感があります。高さ150メートルというと、地上40階建て以上のビルの高さに相当します。

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ですから、ロラン市議会が計画している9基の建設ならまだしも、16基はちょっと多すぎやしないか、という議論になっているのです。

今週、ロラン市議会をHOFORの担当者や関係者が訪ねて、状況説明をすることになっています。市議会は、この議題に関しては残念ながら非公開となっていますが、おそらく、ロラン市側としては、地域住民が20%の風車株購入権を行使できるだけでなく、何らかの形で地域住民、さらにはロラン市やコペンハーゲン市の両方にとって有益なコラボレーションの可能性など(例えば、共同で再生可能エネルギーの教育機関や研究を立ち上げるなど)について協議されるのではないかと思われます。

また、ロラン市では現在、市民に対して意見の募集を行っています。もし、ロラン市とコペンハーゲン市の共同プロジェクトなどが立ち上がれば、双方にとって素晴らしい可能性が開けると思うので、渡私は大いに期待したいのですが、ロラン市の自治体内でも様々な考え方や勢力、力関係があり、なかなか一筋縄ではいきません。今後の議論の行方を注視していきたいと思います。

「大都市というのは、モノも情報もカネも全て揃った完全無敵の存在のように見えるが、持続可能性という視点で見ると、実は小児病棟で保育器に入った赤ちゃんのような、脆弱な存在である」レオさんと講演をする時に、いつもこんな話をします。

なぜなら、大都市は(グリーン)エネルギーも、食糧も、飲料水も、(安い)労働力も、すべて周辺地域(地方)が供給しているからです。その代わりに、都市はお金と、知識と、大量のゴミを生み出します。

これから、数十年の間に、地球上の人口は現在の70億人から、さらに20億人増加すると考えられています。その中で、全ての人に必要な食糧や飲料水、グリーンエネルギーや労働力が供給されるためには、都市と周辺地域、地方との関係がより対等で、カネや知識などの富の再配分もより平等に行われていく必要があります。

都市と周辺地域、地方はそれぞれの得意分野をより伸ばしつつ、コラボレーションできるところは積極的にしていくことでお互いを補い合える、対等な共生の関係を築く時にきています。そのためのチャレンジのひとつが、今まさにロラン島とコペンハーゲンとの間で始まっているのです。