GoogleのアンドロイドやHubspotなどを輩出したボストンにあるスタートアップの巨大集積施設「ケンブリッジイノベーションセンター(CIC)」。
MITに隣接するCICは700社ものスタートアップなどの企業が入居するだけでなく、総額約70億ドルにのぼる複数のベンチャーキャピタルも入居する。センター内でスタートアップのエコシステムが回る仕組みになっているという。
この世界最大級のイノベーションセンターが日本上陸を検討している。CIC創設者でCEO、投資家でもあるティモシー・ローさんに話を聞いた。
ティモシー・ローさん=東京都港区で
■集約が力を生む、スタートアップとVCの科学反応
CICは「一言でいうと、イノベーション会社のベース」だという。「インベンション(Invention、発明)の基地となり、実際に世の中で使われるようなイノベーション(Innovation、革新)をうながす。
例えば、太陽光発電パネルを発明しても、使えるようにしてやることが必要だ。スタートアップを一つの街といっても過言ではないイノベーションセンターに集約する、それが私の作っているものです」
朝日新聞メディアラボが共催している"NY Silicon Alley Meet Up" 六本木ヒルズのPivotal Labsで話すロウさん。
「これはイノベーションですかインベンションですか?」とロウさん。これはインベンションだが、世の中に根付かない物だった。本当に普通に使われるようになっていない。つまり、イノベーションにはなりえなかったものだと解説する。イノベーションを作るための場がCICだという。
「集中させることはインパクトを生むのです。そして、集積というのは一人一人の能力をかなりあげます」。
ロウさんによると、米のベル研究所の違う階にいるだけで、10%が0.3%にまで落ちるという。平場にいる時にコラボレーションが生まれる可能性が10%あるとしたら、別の階にいると3000倍も下がることになるという。
■日本の強みは誠実さ
スタートアップを取り巻く環境として、日本の強みはアジアの中でも誠実さを持つことだという。
「一番大事なのは、誰がその場所にいるかということだ。イノベーションを成功に導くために必要なものはインテグリティ(Integrity、誠実さ、正直さ、品位)なのです。
大きなイノベーションを起こすには資金を持つ人、アイデアを持つ人、才能を持つ人が必要で、その3者を結びつけるのに不可欠なのは誠実さだ。それぞれが、ちゃんと実行するし、まじめで正直だ。
なので日本ではスタートアップの成功の確率は高いと言えると思うのです」
一方で、リスクを取ることに対する意識は低いと言われる日本。このことについては、アメリカも同じ道をたどっており、変えられるという。
「リスクを負うという自信が日本では課題だが、これは変えられるものだと思います。
他の国に比べてということはいいたくないですが、リスクをとる人に変えるのは、数年から数十年でできるが、誠実の文化を作るには、更に多くの時間が必要です。
その点、誠実さがアジア一高い日本には大きなイノベーションの可能性があると思います」という。
また、「アメリカも60年代は、起業家というと結婚したいといっても、相手の両親から反対されるような保守的な文化だったのですから」と笑う。
■日本との縁
ロウ氏は16歳の時に父の仕事を日本で手伝って以来、同志社大への留学や、東京の三菱総合研究所での勤務、ボストンコンサルティンググループでも日本を担当するなど、日本との縁がある。
今後、日本と数ヶ月ごと行き来し、数年以内にCIC日本版を作ることを視野に入れて活動を続けていくという。
*ティモシー・ロウ氏
Timothy Rowe
Timothy Rowe is the Founder and CEO of Cambridge Innovation Center
ケンブリッジイノベーションセンター(CIC)はマサチューセッツ州ケンブリッジ市に本拠地を構えるが、2014年にボストンとミズーリ州セントルイスに新施設を開き、2015年にオランダのロッテルダムにも海外進出した。
2015年12月には、マイアミ大学と協働してマイアミに最新のサイトを開設した。ロウ氏はニューイングラ ンドベンチャーキャピタル連盟の役員、そしてニューアトランティックベンチャーのベンチャーパートナーでもある。
日本に到着直後の早朝、インタビューに答えたロウさん=東京都港区で