「鳥獣戯画」は誰がどこで描いた? 東京国立博物館に現存作品が集結(画像)

相撲に興じる蛙や兎。誰もが一度は目にしたことがある国宝の絵巻「鳥獣人物戯画」が4年がかりの修復を終え、東京国立博物館(台東区)で4月28日に開幕した「鳥獣戯画展」にお目見えしている。今から800年あまり前に製作された「鳥獣人物戯画」は、京都北西部にある世界遺産、栂尾(とがのお)高山寺に伝えられている絵巻で、現存する作品全てが展示されるのは今回が初めてという。
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京都・高山寺

相撲に興じる蛙や兎。誰もが一度は目にしたことがある国宝の絵巻「鳥獣戯画」が4年がかりの修復を終え、東京国立博物館(台東区)で4月28日に開幕した「鳥獣戯画展」にお目見えしている。今から800年あまり前に製作された「鳥獣人物戯画」は、京都北西部にある世界遺産、栂尾(とがのお)高山寺に伝えられている絵巻で、現存する作品全てが展示されるのは今回が初めてという。また、展覧会では「鳥獣人物戯画」以外にも鎌倉時代に高山寺を再興した明恵(みょうえ)上人の信仰や人生に関わる美術作品も紹介される。

■国宝「鳥獣戯画」の見どころは? 誰が描いたの?

「鳥獣人物戯画」は、「甲巻」「乙巻」「丙巻」「丁巻」の4巻から構成され、この4巻から分かれた「断簡」5幅も今回の展覧会に集結する。担当する東京国立博物館の土屋貴裕(たかひろ)研究員は、その見どころをこう語る。

「国宝の鳥獣戯画は、兎や蛙、猿が描かれていることで知られ、皆さんどこかで一度は目にしているものです。修復を終えて、去年の秋に京都国立博物館でお披露目の展覧会がありましたが、続いて東京でも公開する機会になっています。今回の見どころは数々ありますが、一つは鳥獣戯画4巻が一堂に展示されることです。京都国立博物館では見られなかった、『断簡』と呼ばれる作品も集まっています。つまり、現存する鳥獣戯画を全てご覧いただける初の機会になると思います」

それぞれ四巻には特徴がある。「甲巻」(平安時代・12世紀)は、さまざまな遊戯や儀礼に行う動物たちが描かれている。蛙と兎の相撲などのシーンは最も知名度が高い。この巻では11種類の動物が登場している。

「乙巻」(平安時代・12世紀)では、16種類の動物が描かれている。前半は馬や牛、鷹、鶏といった日本で見られる動物。後半は、想像上の動物や海外の動物である犀(さい)や麒麟(きりん)、獅子、龍などが見える。

「丙巻」(鎌倉時代・13世紀)は、前半が「人物戯画」、後半が「動物戯画」。「鳥獣戯画」では動物だけでなく、こうした人間が囲碁やすごろくといった遊びに興じている姿も活写されている。修復によって、料紙の表裏に人物と動物が描かれていることが判明した。

「丁巻」(鎌倉時代・13世紀)は人物が主体となっている。「甲巻」や「丙巻」で用いられているモチーフを踏まえ、法会(ほうえ)や流鏑馬(やぶさめ)、木遣りといったシーンがユーモアたっぷりに描かれている。

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全巻が揃う「鳥獣戯画展」

それぞれの巻は前半部分が前期(5月17日まで)、後半部分が後期(5月19日〜6月7日)に展示される。「断簡」についても前期と後期で展示替えが行われる。

「鳥獣人物戯画」は、どこで誰によって描かれたのか。「甲巻」については、平安時代後期の天台僧、鳥羽僧正覚猷(とばそうじょうかくゆう)の筆と伝えられてきたが、いまだ確証はないという。他にも、寺院の絵仏師であるという説と世俗画を描いた宮廷絵所(えどころ)師であるという説がある。今回の展覧会でも、比較作例を展示しているが、土屋研究員は、甲乙丙丁の4巻の料紙が、通常の絵画作品に用いられることがない紙であることを指摘。書き損じた反故紙(ほごがみ)を漉いて、寺院の文書などで日常的に使っていたものであったことから、「作画環境に関しては寺院の可能性が高い」としている(詳細は図録を参照)。

■国宝「明恵上人像」にはどうしてリスが描かれた?

高山寺は「鳥獣人物戯画」で知られると同時に、「明恵上人の寺」でもある。明恵上人は平安時代の末期、承安3(1173)年に紀州で生まれた。両親を8歳で亡くした後、京都の神護寺に入山、密教を始めとする顕密諸宗を学ぶ。建永元(1206)年には、後鳥羽院から栂尾の地を賜り、「高山寺」を開いた。

明恵上人は厳しい求法者である一方、高僧のイメージの枠にはまらない自由闊達な人物であった。たとえば、19歳から晩年まで、40年あまりにわたって見た夢を記録した「夢記」からは、ユニークなエピソードが伝えられており、作家の白洲正子さんや心理学者の河合隼雄さんがその人生について著作を残すなど、現代でも魅了される人が後を絶たない。

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「国宝 明恵上人像(樹上坐禅像)」

(京都・高山寺)(展示は5月17日まで)

今回の展覧会では、そんな明恵上人ゆかりの品々が多く出展されている。中でも、国宝である「明恵上人像(樹上坐禅像)」(鎌倉時代・13世紀)はきわめて異例でありながら、明恵上人の人柄を伝えるような作品だ。土屋研究員はこう解説する。

「この作品は、高僧の肖像画としてはかなり型破りです。普通、高僧の肖像画は絹に描かれますが、これは4枚の紙をつないだ料紙に描かれています。それから、最も異例なのは、主人公である明恵上人の肖像がきわめて小さいということ。明恵上人の姿を隠してみると、完全に山水画になる。明恵上人は自然との一体を唱えていたので、自然と調和している画像として描かれたのでしょう」

さらに、珍しい生き物が絵の中に描かれている。長い尻尾をたらし、首をかしげて明恵上人を見つけているのは、栗鼠(りす)だ。なぜ栗鼠が描かれたのかというヒントは、同じ部屋に展示されている4点の「十六羅漢像」にある。羅漢とは、インドにおいて修行者のことを示す言葉で、後に修行者の最高位、釈迦の教えを伝える存在として信仰を集めている。これらの羅漢像には、同様に樹間に栗鼠が見える。この羅漢像の手本となったオリジナルにも、栗鼠が描かれていたと見られ、明恵上人も羅漢信仰を持った一人だったことから、「明恵上人像(樹上坐禅像)」の構想に影響を与えたのではないかと推察されるという。

明恵上人は24歳の若き日に、仏に自らの身体を投げ打つという求道から、右耳を切り落としている。この肖像画は、右耳が見えないように描かれているのも特徴だ。

「他は切った右耳を見せている肖像画が多く、ある意味、明恵上人のトレードマークでもありました。しかし、ここではあえて右耳を描かないという選択をしています。明恵上人とインドの聖者を重ねる意味があって、欠けた右耳を描かなかったのではないかと思われます。数多い鎌倉時代の肖像画の中でも一番の傑作である作品。明恵上人の生き様が表現されています。じっくりと栗鼠の姿も探してください」と土屋研究員は話している。

■鳥獣戯画ならぬ「超10ギガ」のUSBメモリが当たるクイズも

「鳥獣戯画展」は6月7日まで。月曜日休館だが、5月4日は開館、5月7日は休館となる。当日の状況は、「混雑状況お知らせ」のTwitterアカウントで知ることができる。また、展覧会以外でも、公式サイトの「web絵巻」で全巻を堪能できる。

また、日本橋タカシマヤのFacebookでは、展覧会との連動企画で、鳥獣人物戯画のオリジナルUSBメモリが当たるキャンペーンを実施している(6月7日まで)。鳥獣戯画と「超10(ちょうじゅう)GB(ギガ)」をもじり、クイズに答えると16GBのメモリが100人に当たるという。

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