総勢180名の財界訪中団が汪洋副首相と会談。だがトップ2との会談は実現せず
安倍政権発足後、最大規模となる財界訪中団は11月19日、北京市内において汪洋副首相と会談した。日本側は、習近平国家主席や李克強首相など党と政府の最高指導者との会談を希望していたが実現しなかった。
今回訪中したのは、張富士夫トヨタ自動車名誉会長や米倉弘昌日本経団連会長以下、日中経済協会のメンバー約180名。中国の経済貿易促進団体である中国国際貿易促進委員会の招待で訪中が実現した。
一行は18日に中国入りし、汪洋副首相との会談のほか、商務部(商務省)、工業・情報化部(工業・情報化省)など各省幹部との会談や各都市の視察などが予定されている。滞在は24日までの予定。
中国では、党の今後の方針を決定する3中全会が終了し、経済改革の重点項目が発表されたばかりである。投資や貿易に関する交渉を行うには非常によいタイミングであり、訪中団もそのあたりを見込んでいたかもしれない。
実際、同じ18日には米国のクリントン元大統領が北京を訪問し、人民大会堂において習近平国家主席と会談。クリントン氏は3中全会が無事終了したことに対する祝辞を述べている。
日本側は、習近平国家主席もしくは李克強首相との会談を強く望んでいたが実現しなかった。中国の外交スタイルは、誰にどこで会うのか、またホテルをどこに指定するのかで、はっきりと相手をランク付けするという明快なものである。中国側がこのところ態度を軟化させているとの情報もあったが、少なくとも表面上は、冷え切った日中関係を象徴する形に終わった。
もっとも今回、訪中団が会談した汪洋副首相は、改革派のホープといわれており、李克強首相からの信頼も厚い。経済やビジネスに関する卓越した見識を持った政治家であり、今後の日本とのパイプ役としてはふさわしい人物といえるだろう。
ただ中国内部の政治的な動きという面では不安材料も多い。中国の経済改革は李克強首相を中心に国務院(政府)主導で進められているが、李氏は胡錦濤前国家主席の派閥に属しており、保守的な派閥とは対立関係にある。党の保守派の中には経済改革そのものに反発している人も多く、経済改革が順調に進むのかは不透明だ。汪洋副首相は前回の党大会で政治局常務委員入りが噂されていたが、保守派の猛反発によって常務委員入りを阻まれたという経緯がある。
中国が本音では日本との経済関係の縮小を望んでいないのは明らかだが、政治を含めた最終的な方向性がどうなるのかは、すべて米国との交渉にかかっている。米中交渉の過程で、米国が日中の関係修復を強く望めば、国内世論を無視してでも、中国が態度を軟化させる可能性は高い。
だが、安全保障問題を含めた米中関係の行方がはっきりしないうちは、日中関係だけが先行して進んでいくとは考えにくい。その意味で、今回の訪中はまだタイミングが早すぎたかもしれない。
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