7月8日、世界のマーケットに衝撃が走った。中国市場を代表する上海総合指数が急落し、日経平均株価も今年最大の下落幅に見舞われた。
中国の金融当局は証券市場に資金を出すなど、株価を下支えし、株式市場はいったんは落ち着きを取り戻している。しかし、上海株式市場では多くの上場企業が取引を停止するという、市場原理を否定するような事態も起きた。
本当に中国の株安に歯止めはかかったのか−−。
中国経済を専門とするキヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之・研究主幹は13日、ハフポスト日本版のインタビューに応じ、今回の中国株の急落について「中国経済のバブルの崩壊というよりは、株式市場だけのミニバブルの崩壊」と指摘した。そのうえで、中国当局が株式市場に露骨に介入し、株価を下支えしているため、まだまだ下げ圧力が残っているとの見方を示した。
キヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之・研究主幹
■「株だけ上がるのは異常に不自然」
――中国株が6月中旬ごろから下落基調に入り、7月8日には急落しました。背景について、どのようにご覧になっていますか?
6月15日から下がったのは、「自然の結果」ということが大きいと思います。問題はあそこまで株価が上がってしまったことにあります。中国企業の業績をみていても、最近そんなに良くなっている状況ではなく、むしろ今年の第1四半期は前年比で収益の伸び率がマイナスになりました。企業業績の面では、株価が上がる要因があまりありません。
加えて、マクロ経済をみても、去年は7.4%成長で、今年は7.0%成長となっています。しかも、(中低速ながらも安定した成長を目指す)「ニューノーマル(新常態)」という政策をかなりしっかりと運営していますので、以前のようにどんどんと成長するような可能性はほとんどないというのが、今の習近平政権の経済運営です。安定はしても、バリバリ景気が良くなっているという感じではありません。
また、景気が縮小しているので、あまり嬉しくないなと思っている中国の人たちが多くなっています。特に地方政府、国有企業などです。
こういう状況を総合的に勘案すれば、去年の11月からどんどん株だけ上がるのは異常に不自然でした。
――その異常な株高となった背景には何があったのでしょうか?
単純にお金が不動産市場から株式市場に流れ込んでしまったという見方が今のところ、一般的な理由です。一昨年にシャドーバンキング(影の銀行)で猛烈に信用創造でお金が増えて、流動性が増えてしまった。その増えた流動性が、不動産市場に流れ込んで、北京や上海を中心に値段が上がりました。
中国の中央政府は2013年の春から秋以降、どんどんシャドーバンキングに対する管理を強化して、社会全体の流動性を抑制してきました。その結果として、昨年は不動産市場からお金がどんどんと流れ出て、不動産価格が下がりました。
そして、去年の後半からお金がどこに行ったらいいのか、と模索をしている時に、ちょうど金融緩和がありました。昨年11月に利下げが行われ、少し株式市場にお金が向かうようになりました。それで株価が上がってきたので、みんなが株を買い始めました。
株価に関しては、政府も株高を歓迎しています。1つは景気がそれで良くなるかもしれないという要因があります。それから、国有企業改革を進めていけない時に、株が高いと、国有企業の株を売りやすい。株が悪い時に売れば、売り浴びせになって、株価が暴落してしまいます。株が上がっていれば、国有企業の民営化をする際の、株式の売却がしやすくなります。そういう意味では、国有企業改革にとっても株高は都合がいい、という政府の判断があったと思います。
どのレベルの指示かは分からないのですが、人民日報で今年の4月になって株高を歓迎するような記事が出ました。これが株式市場にとっては、さらに支援材料になりました。
いずれにしても、全部真っ当な要因ではない訳です。非常に不自然な要因で(株価は)上がってきましたので、崩れるのは、時間の問題でした。実態のない株高でした。そういう状況で、みんながいつ崩れるのかな、と思って、不安が募っていた時に、6月15日に信用取引の規制が強化されるという噂が流れて、一気に売りに転じました。
もともとみんな儲け切っていたので、早く益出しをしようという人たちが、こぞって売りに走りました。そうなってくると、今度は暴落になってしまい、これは危ないという形で、みんなが慌てふためいて売ったという状況です。これが株の下落の背景です。つまり、もともとは上がり過ぎが要因で、その後、まともな水準に戻っていったというのが今回の株安です。
ところが、本当はそこでまともな水準に戻れば良かったのですが、そもそも上海総合指数が2500ぐらいから始まって、いきなり5000まで上がってしまいました。その上がる理由があまりなかった訳です。そういう意味では、2500ぐらいまで下がってくれれば、株でこれ以上、ドタバタする必要はなくなるのですが、政府が3500ぐらいのところで、止めてしまったので、先行き分からない不安材料が残ったままになりました。 例えば、市場に上場している企業が勝手に株を取引停止にできるということが分かってきました。
■「まともな投資家が投資できるマーケットではない」
――びっくりしましたね。あんなことをしていいのでしょうか。
あれは売り圧力が強いから、取引を停止にしました。取引停止にして、もう一回オープンにしたら、売り圧力は残っているはずです。しかも、今度は売り方向が一色で決まっていますので、開けたら、どーんと落ちていくという不安定材料になるはずです。
こういう本当はやってはいけないことをやって、株安を止めました。まともな投資家が投資できるマーケットではないね、というのが、今回の一連の政府の介入でよく分かったと思います。
――そうすると、中国当局の株式市場の介入自体が、状況を悪化させていると言えるのでしょうか?
表面的には一応、(パニックは)収まっていますので、当局は安心をしたと思っています。
――6月から株の買い支え策を実施してきて、効かないときがありましたね?
それは中途半端だったからです。ただ、徹底した介入策がマーケットにとって、プラスとは限らないです。もっと自然に下げた方が良かったです。
――ハードランディングですか?
ハードランディングにはならないです。そんなに長い期間、上昇してきたのではないです。半年間でぐんと上がってきたものを元に戻すだけです。行って来いのだけです。ハードランディングというひどい状況にはならないです。だから、やってしまった方が良かったです。
――そうすると、まだ下げ圧力は残っていると?
残っているはずです。
――IMF(国際通貨基金)のオリビエ・ブランシャール調査局長が9日に「中国株式市場のバブルは崩壊した」とはっきり述べました。今回の事態は「バブルの崩壊」と言えますか?
株式市場だけのミニバブルの崩壊だと思います。不動産市場は今、回復プロセスに入ったところです。「中国バブルが崩壊した」というと、不動産も崩壊した、と皆さんは考えると思います。もしそう思っていると、大きな間違いです。
――株式市場のミニバブルの崩壊と言いますと、株価の調整局面ということですか?
調整です。バブルの崩壊というよりは、適切なミニ調整が行われたと言っていいと思います。5000から2500までなので、ミニとは言えないかもしれませんが、適切な株価の調整が行われたと言っていいと思います。本来起こるべきして起きた。これが起きなかったら、危ないです。
――単なる調整局面だとすると、中国人観光客が東京の繁華街で家電やブランド品などを大量購入する、いわゆる「爆買い(ばくがい)」もまだまだ続くとみた方がよいのでしょうか?
まだまだ続くと思います。2020年までは大丈夫です。東京オリンピックのときはものすごい中国人観光客が来ると思います。
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