中国では春節(旧暦の正月)を家族と祝うため帰省する習慣があるが、7年前に一人っ子の娘を失くした母親のXieさん(60)にとって、同国最大の祝日は、経済的支援もほとんどないまま歳を重ねたことを実感する日でしかない。
Xieさんの娘Juanjuanさんは29歳で他界。一人っ子を亡くした親は「失独者」と呼ばれており、Xieさんもその1人となった。同国では、「失独家庭」の数が100万を超えているとされている。
南東部江西省に住む元上級技師のXieさんは、「われわれ中国人は常に子どもを第一に考える。その子どもがいなくなれば、家族が崩壊してしまう」と肩を落とした。Xieさんは家族のプライバシー保護を理由にフルネームを明かさなかった。
失独者の多くが、1970年代に導入された子どもを1人に制限する「一人っ子政策」の犠牲者だ。彼らは、補償金の引き上げを訴え続けてきた。中国では伝統的に、両親が年老いた際の世話は子供に依存しており、一人っ子が亡くなると親は老後に困難な状態に陥る。
中国政府は一人っ子政策によって、4億人の人口増を回避したと主張。ところが同政府は現在、経済成長減速の恐れや高齢化への対処を理由に、その政策の緩和を計画している。
また国家衛生・計画生育委員会は26日、一人っ子を亡くした両親に対する補償金を増額する方針を発表。それでも、1月下旬の春節を控え、彼らを十分満足させるには至らなかった。
<補償>
新たな制度では、都市部在住で妻が49歳以上の夫婦が一人っ子と死別した場合、政府から月額で1人当たり340元(約6000円)が支給され、都市部以外の支給額は月額170元。失独者らは1人当たり月額3150元の支給を求めていた。
2012年に開始した現行制度では、月額135元の支給が認められている。ただ、省によってはその額が1000元に達するケースもあるという。
しかし、中国は福祉や健康保険制度が整備されておらず、補償金額は失独者の望みからはかけ離れているのが実情だ。さらなる支援を訴える失独者も目立つ。
「私たちは同じ境遇の高齢者とともに老人ホームで暮らしたい」。一人っ子の息子が昨年1月にがんで亡くなったShi Huiさん(50)はこう打ち明け、「普通の老人ホームには入りたくない。別の家族の子どもたちが訪れるのを見るような場所は耐えられない」と本音を漏らした。
中国当局に事態改善を訴えるため、北京に足を運ぶ失独者がますます増えている。5月には国家衛生・計画生育委員会の本部前で、約400人が座り込みを行った。
彼らは、一人っ子政策の違反者が支払う罰金の額が、補償金額に比べてはるかに高いことも問題視している。2012年には、その罰金の額が24の地域で計200億元に上った。
Xieさんは出産当時、第2子を持つことは考えなかったという。それは、Xieさん自身も夫も国営の工場で働いており、2人ともその職を失うと思ったからだ。
「当時のスローガンに『産児制限はいいこと。老後は政府が面倒をみる』というのがあった。政府はその言葉を実行に移してもらいたい」
Xieさんは、この先最も恐れていることについて、「いつか私が亡くなり、誰もそれに気付かないこと」だと語った。
失独者となった両親は、不利な立場に置かれている他の人々との違いについて、国家の政策が直接影響している点を挙げる。
北東部遼寧省出身のXuさん(53)は、「私の唯一の望みは、病気になったときに誰かに来てもらうこと。援助などは望んでいない。ただ、政府は責任を取るべきだ」と力を込めた。
[香港 27日 ロイター]
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