中国でも広がるか? 開発金融での環境社会配慮 (北京・アモイの会議から)

中国社会が変化するスピードは想像を絶するものがある。

 森林文化協会が発行している月刊「グリーン・パワー」9月号の「時評」で、インフラ投資が急激に増えている中国において開発金融機関に欠如していた環境社会的配慮をどう向上させるかについて、京都大学名誉教授の松下和夫さんが論じています。

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 中国社会が変化するスピードは想像を絶するものがある。

 筆者は、去る6月に北京とアモイで開催された「開発金融における環境社会配慮のワークショップ」に国際協力機構(JICA)を代表して参加した。これは、アジア開発銀行(ADB)と中国銀行保険監督管理委員会・生態環境省・中国銀行協会が主催し、アジアインフラ投資銀行(AIIB)や中国の19の主要金融機関・銀行の幹部30人余り、中央アジア諸国など16カ国が出席し、世界銀行、ヨーロッパ投資銀行(EIB)、国際NGOなどの代表もスピーカーとして加わっていた。

 中国では一帯一路構想などでインフラ投資が急激に増えており、投資に伴う環境破壊や、住民の生活への影響なども懸念される。一方、世銀、ADB、EIB、JICAなどの国際開発金融機関では、事業活動に際しての環境アセスメントや異議申立制度が整備されている。したがって、これらの経験から学ぶことによって、投資による環境破壊を防ぎ地域住民への悪影響を軽減するため、AIIBや中国の金融機関の環境社会配慮を国際水準に引き上げることが今回の会議の狙いであった。

 これまで、たとえば東南アジアのメコン川流域開発などでは、中国系の開発金融機関の環境社会配慮の欠如あるいは不十分なことが課題となっていた。その意味で今回のイニシアティブは、グローバルな開発金融機関の環境社会配慮の向上という観点から歓迎される。とりわけ印象深かったのは、中国銀行保険監督管理委員会や財務省の代表など中国金融当局高官が、その演説の中で明快に金融機関における環境社会配慮とアカウンタビリティー向上の必要性を述べていたことである。環境社会配慮には情報公開と市民社会の関与が鍵である。今後中国の開発金融に環境社会配慮がどのように制度化されるか、大いに注目される。

 この会議でJICAの環境社会配慮・異議申立制度とその事例紹介を行ったことは、これから同様の制度を導入しようとする中国やADBの開発途上加盟国の金融機関にも有益な示唆を与えたものと考える。

 中国では国の確固たる方針の下、環境対策や再生可能エネルギーの分野では、世界の最新の知見や経験を大胆に取り入れて改革を進めている。北京の空は大気汚染のせいか、どんよりと曇っていたが、空港から都心へ向かう道路沿いや滞在した金融街周辺での植樹と緑化はかなり進んでいた。

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アモイ・コロンス島の旧日本領事館(筆者撮影)
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 一方、アモイは台湾の対岸に位置し、明の時代から対外貿易港として栄えた奇麗な町で、ワークショップ会場の国家会計学院は、中国で最も美しいキャンパスである。会議後、私たちはアモイからフェリーで約10分のコロンス島を訪ねた。ここは南京条約で租界となり、かつての欧米列強の領事館など歴史的建造物がたくさん残り、それらが生い茂った樹木や草花と調和し、自動車の喧騒(けんそう)のない観光地(電気自動車のみ使われる)となっていた。