南シナ海での中国支配が進んでいる。例えば、南沙で飛行場を作っている云々といった話がある。これは、日本にとって危険な話だろうか?
■ 日本にとっての問題はない
結論から言えば、日本にとってはさしたる問題ではない。
別に中国が南シナ海の資源を確保し、軍事的に内海化しても日本は一向に構わない。
日本は南シナ海の資源に興味はなく、自由航行で充分である。
そして、中国も南シナ海での航行の自由と上空飛行の自由は保証しており、今後も保障するといっている。内海化されても問題はない。
日中の戦争を想像した場合のシーレーン、海上輸送云々にしても、南シナ海は迂回で解決する。
このあたりは発売中の『軍事研究』(2015.3号)での拙記事「南シナ海は果たして日本の生命線か?」にその仔細は示しているので、ご覧になっていただけるとありがたい。
■ 中国は南シナ海に拘束される
むしろ、南シナ海での強引な中国海洋進出は、日本にとって悪くない話である。中国の力が南シナ海に吸い取られるためだ。
南シナ海の問題は、中国は強くなればなるほど泥沼化する。
強くなった中国が海洋支配で大きく出れば、周辺国の反発に行き当たる。すでにベトナム、フィリピンは、海洋権益については対中強硬である。静観しているマレーシアやインドネシアも、いずれはマイルドな形だが対中対峙を選ぶ。
もちろん、海洋権益の争奪では、最終的には周辺国は中国に負ける。だが、中国もその過程で南シナ海での対立に雁字搦めになる。そして、確保した海洋権益を守るためにも力を注がざるを得なくなる。
これは、日本にとっての利益である。南シナ海が泥沼化すれば、東シナ海方面への押し出しは弱くなり、対日関係でも強く出られなくなるためだ。実際に、ナショナリズムの問題でしかない尖閣に比較して南沙西沙の権益は大きい。この場合、日本が尖閣で現状維持をすれば、対日圧力は間違いなく減る。
■ 中国との対立は他国に任せるべき
経済関係を考慮すれば、損でしかない中国との対立は外国にアウトソーシングしたほうがよい。日本としては、率先して実施すべきではなく、南シナ海周辺国にしてもらったほうがよい。
この意味で、日本は中国に恨まれない程度に、南シナ海周辺国を勇気づけてもよい。日本は援助や、自衛隊のプレゼンス、あるいは言質を取られない程度のリップサービスを行い、周辺国に「日本が背後にいる」と、そう信じて貰えればよい。
■ インドはそうしている
そのようなことができるのか?
できる。実際に、インドはそれを日本にやっている。言い方は悪いがインドは日本の使嗾に成功した。インドは観念的で実効性のない安全保障のダイヤモンド構想に、好意的反応を示すだけで、日本を勇気づけた。加えて新型飛行艇US-2への興味表明と、いくつかの日印共同演習程度で、日本に「インドと同盟関係にある」と想像させ、日本に強硬な対中対立を選ばせることに成功した。
もちろん、インドの対中対峙のレベルは従前どおりである。日本のような強硬なものではない。そもそも、中国の警戒を東シナ海に向けさせた結果、自分たちの方面を安泰とした。
そして、インドは中国の恨みを買わず、中国との経済交流の拡大にも成功している。インドは、中国との対峙や、中国からの反発を日本に肩代わりさせ、自国は中国との交易拡大で空前の利益をあげている。
日本も、インドを真似ることは可能である。