長期化するシリアの紛争。トルコのコミュニティセンターを存続し、1,000人のシリア難民の子どもたちに安心して学べる場を提供したい
現在、シリア難民の数は500万人以上にも上ります
先日の化学兵器による民間人の被害と、アメリカによるシリア攻撃を報道で目にした方も多いのではないでしょうか。2011年春に始まったシリアの紛争は長期化し、昨年末に停戦の合意が発表されたものの、7年目を迎えた今も、収束の目途が立っていません。
隣国のトルコに逃れてきたシリア難民たちは、困窮した生活を強いられています。2014年7月にAAR Japan[難民を助ける会]はシリア難民の子どもたちと、その家族が安心して過ごせる場所を提供するためにトルコの南東部シャンルウルファ県にコミュニティセンターを開設しました。
センターでは、トルコでの生活に必要な語学やスキル、情報の提供やイベントの開催のほか、学校に行けない子どもや学校の授業についていけない子どもに対して教育支援を行っています。
AARは、今後もコミュニティセンターでの活動を続けていくために、現在クラウドファンディングを実施しています。
今回の目標金額を達成することができれば、1,000人の子どもたちへ教育の機会を提供することができます。このコミュニティセンターをこれからも運営し、次の世代を担う子どもたちへの教育支援活動を継続するために、是非皆さまからのお力添えをいただければ幸いです。
コミュニティセンターに通う子どもたちとAARトルコ駐在員の五味さおり(手前左)
「今世紀最大の人道危機」
2011年3月にシリアで紛争が勃発してから、6年以上が経ちました。
「今世紀最大の人道危機」とも呼ばれるこの紛争によって、約500万人が国外に逃れ、中でも最大の受け入れ国であるトルコでは、国連によると2017年4月時点で296万人のシリア難民が避難生活を送っています。親や兄弟などの家族を失ったり、自らも爆撃による怪我や障がいを負った子どもたちは、安全なトルコに逃れてからも不安な日々を送っています。
隣国のトルコに逃れてきた難民たちの多くは、困窮した生活を強いられています。シリア難民の避難生活が長引くにつれ、受け入れ側であるトルコ人の感情にも変化が現れ始めています。「シリア難民が大量にトルコに入ってきたことで物価が上がった」「多くのシリア難民が病院に来るから、診察までの待ち時間が長くなった」などの不満の声も聞かれるようになってきました。
シリア難民は隣国のトルコでも困窮した生活を強いられています
そんな状況下において、シリア難民の子どもたがの抱える問題はますます深刻化しています。子どもたちの多くはシリア国内で受けた心の傷やトラウマを抱え、必要な物も足りず、精神的にも、さまざまな場面で抑圧されながら避難生活を送っています。
母語のアラビア語と避難先で話されるトルコ語の間にある言語の壁や、トルコ行政が公立学校受け入れサービスを提供しているにもかかわらず、「トルコ語がわからない」、「入学手続きの方法がわからない」、「そもそもトルコの公立学校に通えることを知らない」などの理由から、避難先で教育を受けられずにいる子どもも少なくありません。
そんなシリア難民の方々をサポートするために、2014年7月、AARはトルコの南東部シャンルウルファ県にコミュニティセンターを開設しました。トルコ語講座や、トルコでの生活に必要なスキルや情報の提供、シリア難民が抱える苦しみや悲しみをトルコ人に理解してもらうための交流イベントの開催などを行っており、現在シリア難民および地元のトルコ人約1,300人が利用しています。
コミュニティセンターに通うハムザ君(仮名)の場合
13歳のハムザ君も、トルコで避難生活を送る一人です。2年前に爆撃を逃れるため、家族とともにシリアのアレッポからトルコに避難しましたが、そのときに父親とはぐれてしまい、今でも行方が分かっていません。現在は母親と祖母、兄弟姉妹と暮らしています。
アレッポにいたころは小学5年生。勉強が大好きで成績も優秀、進んで生徒会長も務めていました。でも今は、慣れないトルコ語で授業を受けないといけないため、小学3年生のクラスに編入して、トルコの学校に通っています。
センターで学ぶ子どもたち
周りが自分より幼い中、遅れを取り戻そうと必死に勉強し、学校の授業に加えてコミュニティセンターでも大好きな算数を学んでいます。コミュニティセンターまでバスを2回乗り継いで通っている彼は、こう話します。
遠くて大変だけど、算数の講座が好きだし、講座がないときでも、コミュニティセンターでパズルやおもちゃで友達と遊ぶのがいつも楽しみ。最初は13歳にもなっておもちゃで遊ぶことが恥ずかしかったけど、周りの目を気にすることなく、ここでは気兼ねなく遊べる。昔はパソコンの戦争ゲームが大好きだったけど、シリアの状況、家族や友達のことを考えると今はもう戦争ゲームをする気はしない。
将来の夢はアレッポにいたときから変わらず医者になること。もともとは病気の人を治療したいと思っていましたが、シリアでの経験から、今は紛争によって怪我を負った人たちの治療やリハビリをしたい、と語ってくれました。
難民の子どもたちが、教育に専念できる環境・安心できる環境は少なく、このセンターのような施設でサポートを行うことで、こうして夢をもてるような子どもが増えることを願っています。
今回のプロジェクトの内容といただいた資金の使い道
今回いただいた寄付金は、コミュニティセンターを運営するために必要な支援金として大切に使わせていただきます。
さまざまな理由で学校に行けない、または学校の授業についていけない子どもたちに対して、トルコ語や算数の授業を提供しています。また、トルコ語だけではなく、シリアの母語であるアラビア語講座も提供します。
子どもたちは一生懸命コミュニティセンターで勉強しています。
そのほかにも、現地のトルコ人の子どもたちを交えた、スポーツ大会や映画上映会などのイベントを実施することで、トルコ人とシリア難民の子どもたちの相互理解を深めていきます。
また、子どもたちの中にはシリア国内で受けた精神的ショックにより大きなトラウマを抱えている、慣れない土地での避難生活が深刻なストレスになっている、などのケースがあります。専門家による対応が必要な子どもに対しても、心理サポートに関する専門性の高い他団体などに繋げることで、当会だけでは解決しきれない問題にも、的確な支援を届けています。
ほかにも、父母など保護者に対する支援や、国連機関による無料予防接種サービスの提供など国際機関や他団体との共同活動も実施しています。コミュニティセンター外でも、家庭訪問等を通じて、それぞれの家庭のニーズに合った必要な情報や支援を届けています。
シリアの紛争はいまだ収束の兆しが見えません。トルコでの難民の方々の生活を少しでも改善するために
絵画教室で子どもたちにも笑顔が
難民生活が長引くにつれ、シリア難民の方々のニーズも多様化しています。食糧や衛生用品といった物資を配付するだけではなく、シリア難民の方々のトルコでの生活を少しでも改善するために、安心して生活できる環境づくりを目指す必要があります。
地域住民のトルコ人を巻き込んだ活動や、心身ともに健康でいられるためのサポートなど、複合的かつそれぞれのニーズにあった支援を届けてまいります。
シリア難民の子どもたち、家族に支援を行うためには、このセンターを継続的に運営していくことが不可欠です。
センター運営のために、AARはクラウドファンディングに挑戦しています。6月15日(木)23時までの挑戦です。
支援方法等の詳細はこちらのページをご覧ください。
AARトルコ事務所 五味さおり
2017年2月よりトルコ事務所駐在し、シリア難民支援に従事。アメリカで育ち、大学卒業後に日本へ。大手広告代理店で3年半働いたのち、AARへ。