母子家庭への養育費、8割が不払い どうすれば防げる?

離婚した母子世帯の2割しか、元夫から養育費の支払いを受けていません。どうすればきちんと支払われるようになるのか、集まった意見をもとに考えます。

母子家庭への養育費、不払い防ぐためには 子どもと貧困

離婚した母子世帯の2割しか、元夫から養育費の支払いを受けていません。昨年12月に連載した「子どもと貧困 シングルマザー」の中でこうした現状を取り上げたところ、多くのご意見をいただきました。どうすればきちんと支払われるようになるのか、集まった意見をもとに考えます。

■受け取りは子の権利 兵庫県明石市・泉房穂市長

兵庫県明石市は離婚後の子どもの養育を支援するため、離婚届を取りに来た人に養育費の額や支払期間など夫婦の取り決めを記入する独自の「合意書」を2014年4月から配っています。政府も、子どもの貧困対策として、新年度中に全市町村で同様の取り組みを始めることを昨年末に決めました。明石市の泉房穂(ふさほ)市長に話を聞きました。

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養育費や面会交流について取り決める合意書作成は任意で、どこかに提出しなければならないものではない。けれど、調停をするときや公正証書を作るときの資料になります。ほかにも市役所での専門相談や離婚前講座、親の離婚を経験した子ども対象のキャンプをしてきました。

原点は弁護士時代にあります。なったばかりのころ、離婚する夫婦の子どもの代弁者がいないことにがくぜんとしました。他国は少なくとも離婚に際し、子どものことを考える行政もしくは司法のシステムがあるのに、日本にはない。子どもが、心と人格をもった人として扱われていない。親の代理人として小学生のお子さんと話したとき、「なぜ離婚の応援をするんですか」と言われたんです。傷つく理由のない子どもの気持ちに向き合う人がいませんでした。

たとえ親が別れても、子どもは栄養(養育費)と愛情(面会交流)を受ける権利があります。親権者が「いらない」と言っても、それらは子どもの権利。社会の仕組みとして関与する必要があると思いました。その後、国会議員になり、養育費の立て替え払い制度を提案しようとしましたが、議員もマスコミも相手にしてくれませんでした。

明石での取り組みは、誰が市長でも続けられることを意識しています。他の自治体にも広がってほしいのでお金をあまりかけていません。ただ、現状は、望ましい状態の1割程度。次の段階は、子どもの気持ちを学ぶ親のプログラムをつくったり、離婚と親子関係について中学生に学んでもらったりして、市民にこの問題の重要さを認識してもらうことだと思っています。

最後は法律や離婚の仕組みを変える必要があります。子どもがいても紙一枚で離婚できる日本の仕組みは、子どもにとって乱暴です。親は自分のことで精いっぱいなので、行政でも司法でも子どもに目配りするシステムがいる。

明石では、公証役場や家裁での手続きのワンストップ化や、養育費立て替え払い制度も視野に入れています。まずは今年8月、児童扶養手当の受給者全員を対象にした相談会をする予定です。希望者への親教育プログラム、交流会の提供や当事者グループの設立、面会交流の仲介を始めます。養育費支払いのきっかけ作りも考えています。

決して離婚をすすめているわけではありません。でも、真正面から向き合い、子どもの目線で子どもの不利益をなくしたいのです。(聞き手・中塚久美子)

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■体験者は

シングルマザーの方々からは養育費をめぐる体験や思いが寄せられました。受け取り続けている人、支払いが不安定な人、支払われなくなった人に聞きました。

○支払われている熊本県の50代

9年前に離婚したとき、子どもは中学生と小学生でした。自営業の元夫が1人月4万円ずつ20歳まで養育費を払うことになりましたが、途絶えるだろうなと疑心暗鬼だったんです。彼の収入が不安定でしたから。いま長男は成人し、次男は高校3年生ですが、1回も滞りなく振り込まれ続けています。

私の父の立ち会いの下で法的効力がある公正証書を作ったこともありますが、別れる時いがみあわなかったことも大きいかな。DVに苦しんだのですが、最後は子どもの将来のため、感情的にこじれないようにしました。

長男は志望する遠方の高校へ行き、下宿しました。私はパートで年収150万円ほどなので、県の奨学金を得ました。それも卒業後にすぐ完済できたし、下宿させてやれたのも養育費のおかげです。

目指す大工になった長男が「オヤジがいなくても一人前になれた」と言うので、思わず声が出ました。「なんば言いよっと。お父さんが養育費ば払(はろ)うてくれたおかげばい」

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社会人5年目の長男にも話を聞きました。

(父は)律義な人だったんだなと思います。感謝です。小さいころ、僕をひざに抱いてヒゲをこすりつけてきたオヤジ。愛情表現がへたくそだったオヤジ。その後、一度も会っていません。会えるのなら、会いたいです。

△不安定な大阪市の26歳

子どもは2歳。約1年前の離婚時に、月額4万円の養育費の取り決めをしました。でも彼はフリーター。3カ月や半年に1回、彼のお母さんが入金し、額も足りないです。本当は催促したかった。でも連絡を取ると未練が残り、自立できなくなる自分が怖い。だから泣き寝入りです。

昨年4月から、ひとり親支援のための国の職業訓練制度で看護学校に通っています。月額10万円、2年間支給されますが、生活は苦しい。

住まいは家賃6万6500円の1DKのアパート。児童扶養手当4万2千円、児童手当1万5千円はいただいていますが、学費は年間55万円。他に教科書代、制服代などを合わせると計80万円は必要です。資格を取って安定した仕事につきたいので、実家から借りてしのいでいます。養育費がないから、貯金はできません。

彼は親です。本来なら必ず支払ってもらえるような法律が必要だと思います。でも現実は難しいと思う。わずかなお金を支払われ、面会権だけ要求されて、育児のおいしいとこ取りをされるのも困る。支払い能力のない人も多いと思うから。

国は女性が自立するための資格制度をもっと充実させて欲しい。その方が現実的な解決策だと思います。

×途絶えた三重県の33歳

8年前に離婚し、小学5年の長男と暮らしています。元夫は給料をパチンコにつぎ込み、借金まみれで生活費は枯渇しました。離婚時に養育費は慰謝料込みで月10万~12万円と取り決め、半年ほど支払いがありましたが、その後、消息不明になって支払いも途絶えました。

私はホームヘルパー2級を持っていたので、離婚後は介護の仕事を始めました。発達障害のある長男を1人にできないためフルタイムで働けず、月10万円程度の収入で暮らしました。冬は家でもコートをはおり、風呂もできるだけ我慢。うつを発症して一昨年12月に退職しました。

役所で生活保護を相談しても「まだ働ける」と。児童扶養手当は子ども1人の場合、年収130万円を超えると減額されます。私もその額を超えてしまい、減額されました。たいして収入が増えたわけではないのに減額なんて厳しすぎないでしょうか。2月に失業保険が切れますが、働き先は見つかりません。元夫とはかかわりたくないので、養育費はあきらめました。給料から天引きするとか、強制徴収する制度があればいいのにと思います。

■寄せられた意見は

養育費の支払い義務化や国・自治体による取り立てを望む意見が複数ありました。

25年前に離婚した大阪市のパート女性(46)は「当時は養育費を知らず、もらえませんでした。支払いが義務化されれば、受け取る側も楽。無職や収入減のため支払えない場合は国が肩代わりし、収入が増えたら回収するという流れが望ましい。裁判や調停で使われる養育費の算定表の額は生活する上では安く、改定してほしい。支払っている人に対しては税の控除があればいい」と話します。

京都市の無職男性(78)は「離婚では感情のもつれもあるだろうから、個人対個人で取り立てるのは難しいと思う」として、国か自治体が取り立てられる法整備を要望しています。名古屋市の主婦(66)は国による立て替え・取り立てが必要だとする一方で、「まっとうに働いても食べるのが精いっぱいという給料も大問題。安すぎる最低賃金を改善すべきです」と指摘します。

養育費を受け取っても苦しい生活を送っているとの声も寄せられました。新潟県に住む非常勤職員の女性(50)は3年前に離婚。高1の娘と中1の息子への養育費は1人につき月4万円で、給料や児童扶養手当などと合わせると平均月20万円ほど。それでも学校の副教材や研修、自宅の除雪や庭木の管理、仕事・生活に不可欠な自家用車などに費用がかかり、貯金はなくなったそうです。養育費の支払いは高校卒業までで、「悩みは娘の大学進学。昨年の苦しい時に元夫に援助を頼みましたが返事はなく、進学への援助は娘と元夫の間で直接話してもらうしかないと思う」と話しました。

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大人が1人の家庭の子どもの貧困率は、日本で5割を超えます。特に母子家庭の年収は父子家庭の3分の2に満たない状況です。しかし、養育費を取り決める段階でも、不払いの場合でも、親任せになっています。子どもにどんな影響を与えるか、という視点が社会の中で軽んじられているのではないでしょうか。

次回(3月7日)は外国の取り組みを中心に紹介し、日本の養育費について考えていきます。

◆中塚と足立耕作、丑田滋、河合真美江、山内深紗子が担当しました。

(朝日新聞デジタル 2016年2月1日05時17分)

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(朝日新聞社提供)