南スーダン:子ども兵士の恐るべき日常

何千人もの子どもが、政府軍および反政府勢力の指揮下で南スーダン内戦の戦闘に参加している。
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2015 Sebastian Rich/Corbis/AP Images

(ニューヨーク)-- 南スーダン政府幹部は、子どもを徴兵した指揮官たちを職務停止にしたうえで捜査を行い、まん延する子ども兵の動員廃絶に動くべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは12月15日発表の報告書内で述べた。何千人もの子どもが、政府軍および反政府勢力の指揮下で南スーダン内戦の戦闘に参加している。

報告書「『僕たちも死ぬんだ』:南スーダンにおける子ども兵の徴募と動員」(全65ページ)は、子ども兵を動員している政府軍「南スーダン人民解放軍(SPLA)」、そして反政府勢力「反政府南スーダン人民解放軍 (SPLA-in-Opposition)」及びその同盟勢力の指揮官・幹部総勢15人以上の氏名を挙げている。

本報告書は、強制徴募された子ども兵と、家族やコミュニティをまもるために志願した子ども兵の合計101人に行った聞き取り調査を基にしている。子どもたちは、家族から遠く離れ、何カ月も十分な食べものを与えられなかったことや、恐ろしい銃撃戦に参加させられて負傷したり、友人が目の前で殺された経験などを証言。また、学校に通うべき時期を無駄にしてしまったことへのくやしさの念を語っている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアフリカ局ダニエル・ベケレ局長は、「指揮官たちは子どもの安全や南スーダン国内法を全く顧みず、意図的かつ残虐に子どもを徴兵し、戦闘へとかり出している」と指摘する。「南スーダン当局は、内戦における大規模な子ども兵の徴募・使用の停止を呼びかけるべきだ。何十年も続く人権の悲劇をさらに悪化させているのだから。」

国連児童基金(UNICEF)の推定によれば、この内戦で約1万5,000人〜1万6,000人の子どもが軍や武装組織に兵士として動員されている。南スーダン内戦は2013年12月、キール大統領及び現在では反政府勢力を率いているマシャール前副大統領に、それぞれ忠誠を誓う兵士たちが首都ジュバで衝突したことがきっかけで勃発した。戦闘が拡大するにつれ、両陣営とも一般市民を標的にするようになり、しばしば民族を理由にした凄惨な殺りくが発生。220万人あまりが避難民化しており、その大半は焼き討ちや略奪にあった村や町の住民だ。

2015年8月の和平協定はあやういもので、戦闘を終わらせるには至らなかった。国連安全保障理事会は2015年中盤から制裁をはじめているが、子どもを徴兵している指揮官及び重大な人権侵害の犯人であるとの信頼性の高い証拠がある個人に対し、制裁を科すべきだ。また、武器についても人権侵害に利用される可能性があるため、武器流用を止めるために両陣営に対し武器禁輸措置を発動すべきである。聞き取り調査に応じた子どものなかには、銃の入手がととのった段階で入隊したと証言した子どももいた。

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© 2015 Human Rights Watch/Skye Wheeler

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、マシュー・プルヤン(Matthew Puljang)氏及びジョンソン・オロニー(Johnson Olony)氏による、子ども兵の徴兵・使用ケース(しばしば強制的に行われている)を数多く明らかにしている。マシュー・プルヤン(Matthew Puljang)指揮官及び彼の率いる政府軍は、ユニティ州の戦闘に参加して、子ども兵士を徴兵・使用した。

そして、政府軍および反政府勢力とともに上ナイル州での戦闘に参加していたジョンソン・オロニー(Johnson Olony)氏は、少年たちを国連平和維持部隊が警備する国連基地の近隣地域やマラカル(Malakal)の町から徴兵していた。戦闘がおきると軍役を担う政府のコミッショナーたちもまた、ユニティ州のベンティウ(Bentiu)の町で子ども兵を動員していた。

少年たちは、反政府勢力のジェームス・コアン(James Koang)氏、ピーター・ガデ(Peter Gadet)氏、マカル・クオル(Makal Kuol)氏などの指揮下でも戦闘に参加した。もうひとりの反政府指揮官は内戦開始直後に、ユニティ州の町ルブコナの2校から数百人もの少年を連れ去っている。

15歳のある少年は、ユニティ州における政府軍の徴兵の様子について次のように証言している。「軍隊に参加しなくちゃだめだと言われた。従わなければ殴るって。拒否した同級生ふたりはぼこぼこにされた。」反政府勢力として戦った別の15歳の少年も「僕も他の子たちも、銃をたくさん撃った。怖かったけどやるよりほかなかったんだ」と話した。

武力紛争法下では、紛争当事者による15歳未満の子ども兵のリクルート及び使用は戦争犯罪に該当し、指揮官は刑事責任を問われうる。国際人権基準は、18歳未満の子どもを兵士として徴集・使用してはならないと定めている。南スーダンはこの内戦が始まる前に、子ども兵問題に終止符を打つ極めて重要な前進を果たしていた。子ども兵を解放し、兵舎を監視するとともに、2008年児童法にて、軍や武装組織への徴兵または志願入隊を18歳以上と規定していた。

しかしながら、現在は南スーダンとなった地域で過去数十年にわたって子ども兵が使用されてきたにもかかわらず、子ども兵士の使用を理由に指揮官が厳罰に処されたケースをヒューマン・ライツ・ウォッチは確認できていない。逆に、昇進したり、政府との和平協定に署名後に事実上の恩赦を与えられた個人もいる。たとえばかつてジョングレイ州で反政府勢力を率い、1,700人超の子ども兵を動員していたデイビッド・ヤウヤウ氏は、これまで何らその責任を問われることもなく、大ピボール行政地区の行政長官となっている。

前出のベケレ局長は、「子どもをまもる土台が崩れてしまった」と指摘する。「犯罪の代償が支払われないために、ふたたび何千もの子どもたちが戦闘に駆り出される現実を目の当たりにすることになった。」

政府軍および反政府勢力双方で、子ども兵を徴募・使用したとされる確かな証拠のある指揮官たちは、職務停止の処分に付されるべきだ。文民捜査官とSPLAはこの問題を捜査せねばならない。その上で、被疑者を訴追のため文民当局に引き渡すべきだろう。

アフリカ連合委員会は、南スーダンの和平合意で想定されていた国内外の専門家からなるハイブリッド(混成)法廷を設置すべきであり、また国連および国際的なドナーは同法廷を全面的に支援すべきだ。ハイブリッド法廷はもっとも重大な犯罪、たとえば子どもを戦闘員として採用・使用することに対して管轄権を有すべきであり、かつ訴追対象者の決定をめぐり完全なる権限と独立性も付与されねばならない。

南スーダン当局が子ども兵を速やかに解放して市民生活に再統合させることや、教育サービス、および必要に応じてパリ原則(子ども兵解放のための国際ガイドライン)に即した心理社会的サポートを提供することなどを保障できるよう、国際的なドナーは支援すべきだ。

学校の軍事利用(多くの場合避難場所となっている)は、南スーダンで長年、子どもの教育の機会を奪う要因となってきた。そして現在の紛争で状況は急激に悪化している。政府軍だけでも少なくとも45校を使用してきた。2015年はじめにSPLAが約20校から兵士を撤収させたが、それ以外は占領したままだ。南スーダン政府は6月23日、学校保護宣言への支持を表明した。同宣言は国際的な政治コミットメントで、学校に対する攻撃や軍事利用の阻止・対応を強化するために、各国がとるべき行動が示されている。

ベケレ局長は、「少年たちの人生の傷を消すことはできない。しかし、南スーダン政府当局は子ども兵と学校の軍事利用を終わらせる責任がある」と指摘する。「これが意味するのは、行動だ。子ども兵士の採用・使用に手を染めた加害者たちに法の裁きを下すことからまず始めなければならない。」

(2015年12月15日「Human Rights Watch」より転載)