「子どもと眠り」の話になると必ず出るのが成長ホルモンの話です。成長ホルモンが分泌されるタイミングはいつなのでしょうか。また、大人には成長ホルモンは必要ないのでしょうか。
「子どもに眠りは大切ですか?」と伺ってNOとおっしゃる方はほとんどいません。「ではなぜですか?」と伺うと、これに答えてくださる方もほとんどいません。実はこれが分かったらノーベル賞ものです。次に「大人に眠りは大切ですか?」と伺うと、やはり多くの方がYESに手を挙げます。そして最後から2番目の質問ですが、「あなたは眠りを大切にしていますか?」 実はこれにも結構な数の方が手を挙げます。そして最後の質問。「昨夜は何時にお休みになりましたか?」 21時前、21時、22時、......2時、3時、4時。皆さん苦笑いしながら、結構正直に?手をあげてくださいます。さてあなたはいかがですか?
「子どもと眠り」の話になると必ず成長ホルモンの話が出ます。「成長」は子どもに大切。「成長ホルモン」が出るのは寝ている時。だから眠りは子どもに大切。だから大人は眠りをいい加減にしてもよい、という話です。確かに成長ホルモンは思春期に一番多く出ますが、成長ホルモンは新陳代謝を促す物質で、抗加齢作用もあります。だから眠りそして成長ホルモンは大人にも重要です。
「成長ホルモンは寝入って最初の深い眠りに一致して分泌」されます。時刻によって分泌が決められているわけではありません。寝る時刻が早まっても、遅れても、また途中で目が覚めた後にもう一度眠るときでも、成長ホルモンは睡眠の開始が引き金となって出るのです。ですから「成長ホルモンは○〜○時に最も多く分泌される」などということはありません。
でもこのような文章を今もよく見かけます。なぜこのような誤解が生まれたのでしょうか? 推測ですが、1983年に発行された『生体リズムと医療』という本のせいではないかと考えています。この本では身体に生じるさまざまな事柄が時刻に大いに影響されている、という重要な指摘をしています。たとえば脳梗塞は明け方に多く、心筋梗塞は午前中に多い、といったことが、詳しく説明されているのです。そのなかに、24時間を円グラフにして、何時頃に身体に何が起きるのかを示した図があるのですが、その図では午前1〜3時に血中成長ホルモンが最高になっているのです。 この記載は今となっては正しいとはいえません。成長ホルモンの分泌には時刻は大きくは影響せず、睡眠開始が引き金となるのです。
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プロフィール
神山 潤(こうやま じゅん)
公益社団法人地域医療振興協会東京ベイ浦安市川医療センター CEO(管理者)
昭和56年東京医科歯科大学医学部卒、平成12年同大学大学院助教授(小児科)、平成16年東京北社会保険病院副院長、平成20年同院長、平成21年4月現職。公益社団法人地域医療振興協会理事、日本子ども健康科学会理事、日本小児神経学会評議員、日本睡眠学会理事。主な著書「睡眠の生理と臨床」(診断と治療社)、「子どもの睡眠」(芽ばえ社)、「夜ふかしの脳科学」(中公ラクレ新書)、「ねむりのはなし」(共訳、福音館)、「ねむり学入門」(新曜社)、睡眠関連病態(監修、中山書店)、小児科Wisdom Books子どもの睡眠外来(中山書店)「四快(よんかい)のすすめ」(編、新曜社)、「赤ちゃんにもママにも優しい安眠ガイド」(監修、かんき出版)、「イラストでわかる! 赤ちゃんにもママにも優しい安眠ガイド 」(監修、かんき出版)、「しらべよう!実行しよう!よいすいみん1-3」(監修、岩崎書店、こどもくらぶ編集)等。