先進国で最悪になっている「子どもの貧困」をめぐる報道がこの数日めまぐるしい。
貧困問題に取り組むめざましい報道活動を表彰する「貧困ジャーナリズム大賞2014」が昨夜(9月4日)発表されて、子どもの貧困問題について連載を続けている栃木県の下野新聞やネット上で生活保護問題を発信しているフリー記者みわよしこさん、生活保護について国の政策決定の不可解さを検証した東京新聞などが入賞した。
表彰式に続くシンポジウムでは、なかなか貧困問題に社会の関心が向かない現状で、いま過去最高の割合になっている「子どもの貧困」(6人に1人の子どもが貧困状態)の問題にいかに光を当てるか、などの記者たちの問題意識が率直に語られた。
さて、昨年「子どもの貧困対策推進法」が国会で成立。それを受けてつい1週間ほど前に政府は「子どもの貧困対策大綱」を閣議決定した。
しかし、それはかつてのイギリスのように数値目標を伴うものではなく、支援団体などからは具体的な内容がないと批判される内容だった。
それを批判した東京新聞(9月1日)の社説。
平均的な所得の半分(年百二十二万円)を下回る世帯で暮らす子どもの割合である「子どもの貧困率」は二〇一二年、16・3%と過去最高だった。ひとり親世帯での貧困率は54・6%。ともに先進国の中で最悪の水準だ。
(中略)
当事者や有識者が参加する政府の検討会は四回開かれた。当事者らが求めていたのは、貧困率削減の数値目標の設定のほか、ひとり親世帯への児童扶養手当、遺族年金の支給期間の延長や増額、返済の必要のない給付型奨学金の充実などだった。
政府は、貧困率のデータには、資産などが勘案されておらず、実態を反映していない、などの理由で数値目標の導入を見送った。児童扶養手当や給付型奨学金の拡充は財源確保の問題に加え、「施策の効果をよく検討しなければいけない」として退けた。
経済的に苦しい家庭の子どもに給食費や学用品代を補助する「就学援助」は、生活保護が引き下げられたことに連動し、一四年度、七十余の自治体が支給対象の所得基準を下げた。子どもの貧困対策に逆行している。
「私が死んで保険金でももらった方が、子どもはお金の心配をすることなく大学に行ける」。民間支援団体のアンケートに、栃木県に住む四十代シングルマザーはつづった。
英国では、一九九九年、当時のブレア首相が、子どもの貧困撲滅を打ち出した。数値目標を掲げて、多くの施策を打った結果、貧困率の削減に成功した。
日本の政府は熱意に欠ける。政治主導で最優先に取り組むべき課題だ。
こうした批判もあるなか、各報道機関が「子どもの貧困」の特集をするようになってきた。
NHKも一昨日(9月3日)、朝のニュース番組「おはよう日本」で「生活支援で 子どもの貧困対策」という特集を放送した。
その報道の中心になった貧困対策に「無料学習塾」があった。
埼玉県が、生活保護世帯の中学生と高校生を対象に開いている無料の学習教室です。
4年前から始まり、24の教室に600人余りが通っています。
学生ボランティア
「代入して、-(マイナス)4じゃん。
これyだよね。
じゃあ4xはそのままだよね。」
「学習支援員」と呼ばれる教員経験者や、学生ボランティアが、1対1で、習熟度に合わせて指導します。
ここで学んだ中学生の98%が高校に進学しています。
生活保護受給家庭の子どもらが意欲をもって高校に進学し、さらに上の教育機関などに進んで大人になった時に貧困階層から抜け出すことが出来れば、将来的に子どもの貧困率は下がっていくはずだ。
NHKは大綱ができたことでこうした無料塾のような取り組みが今後広がることを期待する伝え方をしていた。
私自身もテレビ局の制作者だった頃にこの取り組みを長期にわたって取材したが、不登校だった子どもが励まされて自信を取り戻すうちに再び学校に通うようになるなど、「勉強が分かること」がその子の人生における自信につながっていく様を目撃して、その効果を確信した。
そんななか、今朝(9月5日)になって、琉球新報の報道が目を引いた。
「無料塾」継続困難に 来年度から国の補助減
琉球新報 9月5日(金)9時32分配信
県内11市町で実施されている生活保護世帯の児童・生徒への無料塾が来年度以降は事業を縮小したり、実施できなくなる懸念が自治体関係者の間で広がっている。国の制度変更で補助率が全額補助から2分の1補助に引き下げられ、自治体負担が増えるためだ。関係者は「(貧困の連鎖を断ち切る)事業として着実に効果を上げている。続けるためにも国が財源確保をすべきだ」と指摘する。
琉球新報は事業を実施している県内7市と4町を所管する県に、来年度の事業の見通しを質問した。名護市が補助率の低下を理由に「縮小せざるを得ない」と回答したほか、6市と県は予算編成作業がこれからのため「検討中」「実施に向けて調整」などとしたが、事業実施には「財源確保が課題」などと答えた。
琉球新報が沖縄県内の自治体を取材したところ、「来年度から継続困難」と答えた自治体が多いことが分かったという、地域での特ダネだ。
これが事実なら、せっかく大綱を作って「子どもの貧困の解消に取り組みます」と政府が言っても、実際にはそれに逆行する政策が行われていることになる。
実は、先のNHKの「おはよう日本」でも、VTRの後のスタジオで記者は以下のように問題点を指摘している。
寺門(アナ)
「大綱ができて、今後、こうした取り組みが全国的に広がっていくわけですよね。」
野田記者
「そのためには、十分な財政措置がとられることが必要です。
例えば先ほどご覧いただいた埼玉県の事業は、一時的な雇用対策を名目とした国の交付金が活用されているんですが、この交付金は来年度廃止される見込みです。
今後も同じような財政支援が受けられるか見通しは立たず、事業のあり方を見直さざるをえない可能性もあります。
また大綱では、子どもの貧困率や進学率などさまざまな指標が設定されていて、この指標を改善していくことを目指すとされていますが、具体的な数値目標は盛り込まれていませんでした。
大綱は『すべての子どもたちが夢と希望を持って、成長していける社会の実現を目指す』とうたっています。
貧困から抜け出す力をつけてあげられるかどうか、今後の取り組みが問われています。」
出典:NHKニュース 「おはよう日本」公式サイト
先進国で最悪といわれる日本の子どもの貧困。
今回、大綱が出来たことは「総論」としては前進と言えるだろう。
でも「各論」ではどうか。
子どもの貧困を解消するという「お題目」を立てておきながら、せっかく各地に芽生え始めた無料塾を継続できなくするなら、それは貧困を増やしてしまうことにつながってしまう。
それなら元も子もない。
見かけ倒しだ。
今朝の琉球新報のような、地域ごとに実態をみつめる報道。
国の政策が、末端ではどう反映されていくのかをチェックする報道。
それを高く評価したい。
(2014年9月5日「yahoo!個人」より転載)