12才の女の子の結婚ブログが、ノルウェー市民の逆鱗に触れる
Photo: Asaki Abumi
ノルウェーの一組の結婚式が、市民の逆鱗に触れ、その衝撃のニュースは世界中へ広まることとなりました。花嫁は、なんと12才のテアちゃん。花婿は37歳の男性ゲイル。まだ小学生のテアちゃんはお母さんに言いくるめられ、無理矢理結婚させられることになったのです。これはノルウェーを舞台にした児童婚のお話です。
テアちゃんのブログがネットユーザーの間で拡散
事の発端は9月12日に立ち上がった「テアのウェディングブログ」(ノルウェー語)。「あなたは結婚するのよ」とお母さんに突如言われ、お父さんの年代に近い年上の男性と籍を入れることになりました。結婚式の準備が進む中、テアちゃんは毎日の様子をブログにつづります。指輪やウェディングドレスを買ってもらい、最初はうきうきしていましたが、ブログからは彼女の戸惑いも少しずつ伝わってきます。
(テアちゃんのノルウェー語のブログから一部抜粋)
9月13日
はじめまして、わたしはテア!12才です。一ヶ月後に結婚します。このブログはわたしの結婚日記です。今日ね、ママに「あなたは結婚するのよ」って言われたの。未来のだんなさまの名前は、ゲイル。あまりゲイルのことは知らないんだけどね。でも「結婚」って、かっこいいでしょ?
「結婚式」と聞いて楽しみにするテアちゃんは自分撮りの写真をブログにアップ Photo:Plan Norway
9月14日
ゲイルはヒゲがもじゃもじゃ生えていて、おじさんみたい。どうして結婚するのかわからないんだけど、ママがすごく喜んでいるわ。
テアとゲイルの結婚前の写真 Photo: Plan Norway
9月16日
今日はママとウェディングドレスを選びに行ったの!大きいサイズばかりだったからわたしに合うサイズを選ぶのも大変だったわ。どうして大きいサイズばかりだったのかしら?
9月18日
すごい!結婚したら、学校にもう行かなくていいんだって!数学の宿題をしなくていいのよ!仕事もしなくていいんだって。きっとクラスメートはうらやましがるわ。
う〜ん、でもちょっと考えてみたんだけど、学校に行けなくなったらつまんないかも。友達にも会えなくなるし、大好きな国語の授業も受けられなくなるのよね?
9月25日
結婚式の後は、私もママもゲイルと一緒に住むから、いまの家からは引っ越さないといけないんだって。そんなのいやだ。
10月1日
結婚したら、ゲイルと「セックス」しないといけないの!?
ネットで調べてみたら、結婚式の夜は、花よめは、花むこのためにセクシーな格好をしないといけないんだって。一緒にハダカになって、おたがいの体をさわるってこと?きもちわるい。ゲイルはおじいちゃんみたいよ。わたしはいやだわ。
10月6日
ママに「これから家庭をもつんだから、こどもっぽくするのはやめなさい」って言われたの。それってどういうこと?わたしにも、すぐにこどもができるの?
ブログに実際に掲載されていた写真。元気のないテアちゃん Photo: Plan Norway
10月7日
今日は結婚式をあげる教会をみにいったの。すごく大きいんだけど、わたしはママに友だちを招待しちゃいけないって言われたから、だれもきてくれないんじゃないかな。ゲイルって友だちいなさそうだし。だからブログを読んでいる人でこれたら、ぜひきてね
10月8日
私の夢は動物のお医者さんになることなの。でもゲイルと結婚したら、私は家にいるだけでよくて、勉強も仕事もしなくていいんだって。それって、なんだかつまらない。みんな働くのに、どうしてわたしはだめなの?
10月10日
結婚式まであと1日だけど、なんかやだな。
10月11日
今日わたしは結婚します!朝は泣いちゃったの。ママに化粧がおちちゃうから、泣くなっておこられた。イヤでも笑わないといけないって、変なの。みんな、結婚式にはぜひ来てね。
ノルウェー人、激怒。警察に通報
ここまで読んだら、あなたならどう行動しますか?
ブログを読み始めたノルウェー人読者は、この内容に驚き、一部の人は警察や児童保護センターに通報の電話をかけました。
実は、児童婚撲滅キャンペーン
この女の子のブログがネットで話題になり始めた頃、ブログが本物ではなく、国際NGOプラン・ノルウェーによる児童婚撲滅キャンペーンだったことが明らかになります。その後もブログの更新は毎日続き、10月11日には首都オスロのヤコブ教会で、結婚式は予定通りおこなわれました。
結婚式は幸せなものなのに、テアちゃんの顔に笑顔はありません Photo: Asaki Abumi
SNSフェイスブックのページでは8千人以上もの人が「出席」することで、児童婚反対の意思を表示しました。挙式当日、教会前には若い女の子をはじめとする約400人もの人々が「児童婚NO」の看板を手にしてデモに参加。
「ストップ、結婚式」の看板を持つ人々 Photo: Asaki Abumi
結婚式は開催、けれど?
結婚式は、はたから見るとまるで恋人たちの普通の結婚式のように見えました。しかし、テアちゃんの顔に笑顔はありません。
異議のある者は申し出よ
牧師が「この結婚に異議のある者は申し出よ」と述べたとき、ひとりの少女が立ち上がります。バングラデシュからきたシャビタ・アクタール・シャルナちゃんは、実際に児童婚を強制させられそうになった1人です。
実際に児童婚をさせられそうになったバングラデシュ出身の女の子が異議をとなえます Photo: Asaki Abumi
「私はシャビタです。私は14才の時、児童花嫁になりかけました。私はNOと言いました。怖くて、どうしていいかわからなかった。私は勉強して、先生になることが夢でした。両親を説得して、私は結婚せずにすみました。テア、お願いだから結婚なんてしないで!あなたはまだこどもなのよ。誰にもあなたを結婚させる権利はないわ」
400人の出席者は立ち上がり、大きな声で「児童婚、反対!」の声を挙げます。
結婚式は中止に
結果、テアちゃんの結婚式は中止となりました。
出席者がNOの声をあげ、テアちゃんは式場を去ります Photo: Asaki Abumi
今回のテアちゃんの結婚式はキャンペーンの一環、シャビタちゃんも両親を説得して結婚を逃れることができました。しかし、現実は強制的に結婚させられるこどもは世界中にいます。
プラン・ノルウェーによると、毎日約3万9千人の18才未満の女児が児童婚を強制させられています。この三分の一は15才未満で、中には8才の子もいるそうです。
物議を醸すキャンペーンをあえて選んだ
「ノルウェーでは海外でおきている児童婚の実状がこれまであまり知られていませんでした。今日までは。国際ガールズ・デーに向けてなにかしらのキャンペーンを毎年おこなっていますが、今回は最も物議を醸すものでした。市民が警察に通報することも想定内で、まさにそれが目的でもありました。ネガティブな反応はほとんどなく、今回のキャンペーンには賛同してくれる声が大多数でした」と語るのは団体代表のオーラフ・トンメセンさん。
テアちゃんを「演じた」のは、スウェーデン出身のマヤちゃん(12)でした。「スウェーデンでも児童婚のことはあまり知られていません。今回のキャンペーンにテアとして関わることで、声をだせない女の子たちの存在を少しでも多くの人に知ってもらえれば」と話してくれました。
ブログは世界中で話題に
テアちゃんのブログは100万人以上もの人に読まれ、一時はノルウェーで最も読まれるブログとなり、CNNやBBCをはじめとする海外メディアでも大きく取り上げられました。
ノルウェー人の女の子が書く生々しいブログという設定が、多くの市民を本気で怒らせ、警察まで巻き込むこととなった今回のキャンペーン。経済的にも豊かなノルウェーでは、今回の騒動なしでは、「児童婚」は身近に感じることのできない問題のままだったかもしれません。
女子児童の支援者が続々と
ブログ、フェイスブック、スナップチャット、ツイッターなどのSNSを使いこなした結果、テアの結婚式はネットユーザーの間で爆発的に拡散され、ノルウェー市民に大きな問題提起をすることとなりました。プラン・ノルウェーによると、ブログ開始後、女子児童の支援者になりたいと希望する申し込みが殺到しているそうです。