「こども保険」に期待すること-社会全体で子どもを支える:研究員の眼

「こども保険」構想が、持続可能社会をつくるために子どもを社会共通財産とし、子どもの有無に関わらず社会全体で子どもを支える契機になることを期待したい。

今年3月末、小泉進次郎さんなど自民党若手議員がつくる「2020年以降の経済財政構想小委員会」が「こども保険」の創設を提言した。

これは現在の年金・医療・介護といった高齢者に重点が置かれた社会保障制度を全世代型に転換し、少子化対策として幼児教育の無償化を図る新たな社会保険制度の導入を目指したものだ。政府が6月にまとめる「骨太の方針」にも盛り込むよう求めている。

提言では、第一歩として勤労者と事業者の厚生年金保険料を0.1%引き上げ、国民年金加入者からは月額160円程度を徴収し、新たに得られる財源約3,400億円を元に未就学児一人当たり月額5千円を児童手当に加算給付する。

さらに保険料率を段階的に0.5%まで引き上げると財源は約1.7兆円にのぼり、加算支給額も2万5千円になり、幼児教育費の実質無償化が実現するというのだ。

教育費の無償化に向けては、「教育国債」の発行、「消費税」の引き上げ、「所得税」の累進課税強化等の選択肢が考えられる。

「こども保険」については、高齢世代の負担がなく世代間の公平性を欠くこと、子どもがいない人など受益者と負担者が一致しないことから「保険制度」になじまないという声もある。また、すでに年金特別会計には「子ども・子育て支援勘定」があり、「事業主拠出金制度」が存在する。

ソーシャル・キャピタル研究の第一人者であるロバート・D・パットナムは、近著『われらの子ども~米国における機会格差の拡大』(2017年3月、創元社、原題"OUR KIDS:The American Dream in Crisis")の中で、『かつての米国の子どもには、その出自によらずアメリカンドリームを体現する一定の機会があった。

しかし、今日では所得格差が拡大し、居住地域や教育や結婚などによる階級分離が進展し、人々は大きな不平等の世界で暮らしている』という主旨のことを述べている。

これまで米国が「結果の平等」にあまりこだわらず自己責任社会を受け入れてきた背景には、だれもが「機会の平等」のもとに人生の公平なスタートを保証されていたからではないだろうか。

パットナムは、格差拡大を解消するためには、自分の子ども以外にも「われらの子ども」に投資を行うことなど、社会全体で子どもを支えることが重要だと主張する。

最近の小学校の運動会では、親は必死にわが子の姿をビデオカメラで追っているが、ファインダーの中にはわが子以外の姿はない。

今回の「こども保険」構想が、持続可能社会をつくるために子どもを社会共通財産とし、子どもの有無に関わらず社会全体で子どもを支える契機になることを期待したい。われわれ一人ひとりがファインダーに「われらの子ども」の姿を映すことが求められている。

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(2017年4月25日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

社会研究部 主任研究員