このまま東京など都市圏への若者流出と若年女性の減少が進めば、2040年には全国896の市区町村が「消滅可能性都市」に−−。元総務相の増田寛也氏が座長を務める民間研究機関「日本創成会議」が2014年5月に公表した試算は、全国の地方自治体に衝撃を与えた。
衆議院総選挙では、少子高齢化や地方活性化といった問題をどうするか、各党や立候補者はそれぞれ公約を掲げている。果たして実現には何が必要なのか。12月14日の投開票日を前に、増田氏が9月、東京・内幸町のフォーリン・プレス・センターで行った講演の様子を振り返り、あらためて「地方創生」と「少子化対策」を考えるきっかけとしたい。
■「消滅可能性」を免れている自治体の特徴は「若い人の雇用の場」
「2010年の国勢調査の実績値をもとに推計して、このままでは2040年には896自治体が消滅する可能性を持っているという大変、衝撃的な結果になりました」と語る増田氏。「この896自治体の中には、人口が20万人、30万人の都市が入っていますが、全体の3割である人口がわずか1万人未満の523自治体も多いです。こうした自治体はあっという間に人口が減っていって、消滅するさらに可能性が高いです」
「47都道府県に見ると、秋田県は大潟村を除いたすべての自治体が消滅可能性都市になっています。その後、青森県(87.5%)、島根県(84.2%)が続きます。最も割合が低いのは愛知県(10.1%)です」
「消滅可能性都市を免れている自治体は、いずれも若い人の雇用の場がきちんと確保しているという特徴があります。たとえば、米軍も利用している三沢飛行場がある青森県三沢市、原発施設がある青森県六ヶ所村です。それぞれ自治体ごとに理由はありますが、共通するのは所得の高い、若い人たちの雇用の場があるということです」
■第三次ベビーブーム世代が現れず、一貫して減り続ける
日本の人口減少の深刻さとその要因を増田氏はこう指摘する。
「今、日本の総人口は2008年のピークを過ぎて、少し下がったところです。推計では、100年後にはまた再び、100年前と同じ水準にまで戻ってしまうぐらいの急激な現象を招くのではないかと考えています。子供の出生数がどこかで横ばいになればよいのですが、今のところ下げ止まりがみえません。
少子化がいかに深刻かを申し上げますと、合計特殊出生率は1.43で、とても低いことが分かると思います。これでも改善された方です。2005年には1.26にまで下がった。そこまで、日本の出生率は低下していたわけです。しかし、出生率がこの8年、確かに上がって改善されたのですが、生まれてくる子供の数、出生数は一貫して下がっています。大事なのは生まれてくる子供たちの数ですから、事態はさらに悪化、深刻化していることがわかります」
「出生率が上がったにも関わらず、生まれてくる子供の数が減っているのは、20代、30代の女性の数が毎年、激減しているからです。ここに一番の問題があります。人口の多い第一次ベビーブーム世代、その子供が第二次ベビーブーム世代。本来であれば、1990年から2000年ぐらいまでの間に、第三次ベビーブーム世代が現れていたはずなのですが、それがなかった。日本ではこれから山がないまま、一貫して減り続ける事態になっています。
第二次ベビーブームの最後が1974年生まれで、今年40歳。出産の可能性から外れていく年齢です。10年前にいろいろ対策をとっていたら、事態はずっと改善して生まれていたかもしれませんが、もはや手遅れです」
■「2割の子供が35歳以上の母親から」という晩産化
「消滅可能性都市」の要因について増田氏が指摘するのは、9割以上の子供を出産している20歳から39歳の若年女性の減少だ。さらに、晩産化が拍車をかけている。
「通常、人口減少については出生率が下がっているという見方をしていました。ただ、出生率だけで見ていると本当の姿が見えません。むしろ、出産の可能性のある若年女性の数そのものをとらえるべきだと思いました。第二次ベビーブーム世代はすでに40歳。それ以下の世代の人数は急減しています。
また、ここまで出生率が下がっている原因は、晩産化です。生まれてくる子の年間100万人ですが、そのうち2割が35歳以上の母親から生まれています。そこまで晩産化が進んでいます」
このまま現在の30代前半以下の出生率が下落すれば、少子化は一気に加速するという。
「他の国と比較すると、フランスやスウェーデンは少子化対策のほか、移民などで出生率を回復しましたが、日本はずっと低い出生率です。したがって、もっと少子化対策の予算を増やすことも必要だと思いますが、移民や婚外子(結婚していない男女から生まれた子供)にもっと権利を与えるといったことをどう考えていくのか。日本ではなかなか受け入れられないことかもしれませんが、そういった課題が突きつけられています」
■出生率が最悪の東京に地方の若者が流入
では、都道府県別で出生率をみるとどうなるのか。最低は東京都で、1.13だった。その背景を増田氏はこう説明する。
「地域で子育てを支援することが慣習として根付いているといわれている沖縄県は出生率が最も高い。それに比べて、東京はいかに低いのかがわかります。大都市部であるということが大きな要因です。東京には保育所が少なく、家も狭い。子供たちを3人、4人と住まわせることが難しいです。それから、出産、子育て、教育のコストがきわめて高い。さらには若い人たちは都心から遠くにしか家を持てず、長時間通勤。残業で長時間勤務も多い。家庭を持って出産、子育てをするコンディションが非常に悪い地域が東京なのです」
「その東京圏に、1960年代から一貫して人が集まってきている。高度成長期、バブル経済、そして2000年代以降と、戦後3度の大都市圏への人口移動を通じて、地方から累計で1147万人の若年人口が東京圏へ流出しています。
2011年の東日本大震災以後、転入超過数は減少して東京一極集中の傾向が少し変わったのではないかと言われました。しかし、2013年に東京五輪の誘致に成功し、2020年の開催が決まったことの影響だと思いますが、2013年からは震災前よりも一層、東京に人が集まるという結果になっています」
「そして、その東京に流入している年齢層を見ると、一番多いのが20歳から24歳の層、次が15歳から19歳、そして25歳から29歳となっています。これは、大学を卒業して就職のため、あるいは大学進学のために高校卒業後に東京に出てくる層です。東京に来る人たちの9割が、高い15歳〜29歳の若い人たちで占められていることがわかります。
出産をするはずの若い人たちを集めている東京が、いかに結婚、出産、子育てに向いていない地域なのかということはデータで出ています。昔から東京の出生率が低いという傾向はありました。ただ、他の県が高い出生率で日本の人口を支えていた。長男が地元で農家を継いで、次男以下が東京に出て労働力を提供していました。しかし、地方部の出生率が下がり、東京はさらに下がる。これが今日の事態をもたらしたということです。東京一極集中が人口減少を加速させている。人口を増やすことは難しいが、減少を緩やかにしていくためには、これを解決しなければなりません」
■懸念される東京の高齢化
さらに懸念されるのが、人口が集中している東京の高齢化だ。
「東京への一極集中は、首都直下地震などの危険があると言われてきましたが、さらにリスクが高いのは、超高齢化問題だと私は考えています。75歳以上の後期高齢者の数が、2040年にかけて東京では今よりも2倍になります。一方で、15歳から64歳の生産年齢人口は今よりも40%減ります。年齢層が高齢者が非常に厚くなって、若い人がぐっと少なることで、これから医療、介護の社会保障を東京でどう運営していくのか、大変厳しくなってくると思います。
現時点で、東京で介護を待機している高齢者が4万3000人いると東京都は言っています。
本来であれば、施設に入ってもらうべき高齢者ですが、施設が足りない。東京は地価が高いので、そう簡単に施設を増やせない。このような高齢者が2030年、2040年には爆発的に増えていくのではないかと思っています。東京都も対策を考えて施設を増やすと言っていますが、これはなかなか容易ではないと思います」
一方、地方では医療や介護に余力が生まれているという。
「北海道、北陸、中国、四国、九州では高齢者すら減り始めて、医療や介護に余力がある。従って、これからやらなければならないことは、あまりにも人が集まりすぎている東京から、地方へもっと人が移住することを積極的に取り組む。それから、そもそも若い人が東京に出てこなくても、それぞれの地域で学べる、働けるようにしていくということがあります。
そして、もうひとつは、国全体としていかに低い出生率をいかにあげていくのか。結婚、出産して、子育てしていく環境をいかにととのえていくのか。これは日本全体にいえることですが、この2つのことをきちんと実行していくことだと思います」
■女性のキャリア形成期の出産が不利にならないような社会を
安倍政権は2014年6月の「経済財政運営と改革の基本方針2014」(骨太の方針)で、50年後の人口を1億人程度として安定的に保持することを目指すとした。果たして、日本の人口減少を食い止めるためには、何が必要なのだろうか? 増田氏はこう語った。
「この対策について私は2つだけ申し上げます。たとえば、『希望出生率』という概念です。若い人たちの意向を聞く。いずれも結婚した男女は2人以上の子供を持ちたい、独身の人も90%が結婚したいと答えていますので、若い彼らの希望をきちんと国が叶えてあげれば、間違いなく出生率は1.8までにはなる。
これは、いかに結婚年齢を早めていくのかであり、仕事のやり方を相当、変えないといけません。大学を卒業して、女性がキャリア形成する上で大事なのが20歳代後半です。その時に出産することが、その後、働き続けることに対して不利にならないような、そういう社会を作っていく。これは、企業経営者や政府にとっても大きな改革で、働き方のみならず、意識まで含めて変えないといけませんが、必ず成し遂げなけれなりません」
さらに、増田氏は2つ目としてこう語る。
「もうひとつは、東京に何でも集中させていること、それにともなって、日本の地方部から一貫して東京に人が移っていくことに、歯止めをかけること。それは、地方部に若い人にとって魅力的な学ぶ場、働く場を作るということだと思います。
その時に、どうするのか。地方の中で拠点となるような都市があります。そこに新たに国できちんとした投資を行って、その地域、地域できちんとした拠点都市を作って、それを周辺都市を支えるということです。
それから、企業が東京に集まり過ぎていて、あえて東京に置かなくてもいいような機能、たとえば研修する場所などは積極的に地方に移していく。これは企業の協力、努力がないとできないので、税制で支援するといったことを国は考えなければならないと思います」
そして、増田氏はこう締めくくった。
「地方創生の試みは始まったばかりです。過去、何度かこうした取り組みが行われましたが、十分な効果を挙げてきませんでした。私は今回が最後のチャンスだと思います。不退転の決意で、危機感を持って取り組まないといけません」
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