【東京オリンピック】トランスジェンダーの自転車選手が、アメリカ代表補欠に「子どもたちの希望になりたい」

選ばれたのはチェルシー・ウルフ選手。トランスジェンダーを公表しているアスリートが、アメリカ代表チームに加わるのは、初めてです
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チェルシー・ウルフ選手
Instagram

東京オリンピックで開催される自転車競技、BMXフリースタイル女子のアメリカ代表補欠に、トランスジェンダーのチェルシー・ウルフ選手が選ばれた。

ウルフ選手は、代表に確定したハンナ・ロバーツ選手とペリス・ベネガス選手とともに東京オリンピックに参加し、万が一どちらかが不参加になった場合は試合に出場する。

トランスジェンダーを公表しているアスリートがアメリカ代表チームに加わるのは、ウルフ選手が初めてだ。

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2019年に広島で開催されたBMXフリースタイルの大会に出場したウルフ選手(2019年4月21日)
Atsushi Tomura via Getty Images

アウトスポーツによると、ウルフ選手は6月にフランスで開かれた世界選手権でBMXフリースタイル5位に入り、代表チーム補欠の座を手にした。 

ウルフ選手はInstagramで、「東京オリンピックに向けて練習を続け、必要な場合に備えることをとても嬉しく光栄に思っている」とつづっている。

<世界選手権に出場したウルフ選手>

トランスジェンダーの子どもたちのために、オリンピックを目指した

アメリカ自転車競技連盟のウェブサイトによると、ウルフ選手は6歳の時にBMXを始めた。

2014年にフロリダ州のフリースタイル競技に初めて参加し、2019年にはアメリカ国内選手権とパンアメリカン選手権で3位になった。

東京オリンピックでBMXが正式種目になると発表されてから、ウルフ選手は自分のためだけではなく、トランスジェンダーの子どもたちの希望になりたいと出場を目指してきた。

子どもの頃に感じていた孤独感や、何度も壁にぶつかりながらもオリンピックを目指した理由を、ウルフ選手はInstagramで次のように振り返っている。

子どもの頃、私の夢はプロスポーツ選手になることでした。BMXフリースタイルを始めた時に、私はこの世界で歓迎されていない女性アスリートたちが、自分たちの場所を手に入れるために闘っているのを雑誌で見て、夢中になりました。

幼い女の子だった私は、彼女達のようになりたいと思いました。かっこいいトリックや大きなジャンプをきめて、世界を旅し、平等な機会のために闘う。BMX選手以外でも、とにかくかっこいい女性達のようになりたかった。

しかしトランスジェンダーの女の子だった私は、自分は彼らの一員として迎えてもらえないんじゃないかという恐怖を感じました。私のような女の子は、プロのアスリートになれないのではないか、BMX選手として受け入れてもらえないのではないかと思いました。

自分と同じようなトランスジェンダーのBMX選手がいないのだろうかと調べてみたものの、みつけられなかった。そのことで、自分の居場所を探すのに苦しんだという。

しかし成長するにつれて素晴らしい女性たちに出会い、「自分は女性であり、世界には自分の居場所がある」と感じられるようになった。

さらに、子どもの頃にトランスジェンダーアスリートのロールモデルがみつけられなかったため、自分がロールモデルになるべきではないかとも考えるようになった。

そして2016年にBMXフリースタイルが東京オリンピックの競技種目になることが発表されると、ウルフ選手は偏見にさらされる恐怖を感じつつも、トランスジェンダーの子どもたちのためにもオリンピックに出たいと思うようになった。

そして、オリンピック出場のために、ありとあらゆる努力を重ねた。

もうダメだと思う時が何度もありました。困難に直面して、本当に前に進むことができるのだろうか、自分はこれ以上前に進みたいと望んでいるのだろうかと思ったことも何度もあります。だけど私は耐え続けました。

なぜなら、オリンピックに出たいという理由は色々ありますが、何よりも、世界に自分の居場所がないと思って恐怖を感じている、小さな女の子達のために代表に選ばれたかったのです。

私自身、苦しさを耐え抜いて、自分が子どもの頃に必要としていたヒーローになることで、子どもの頃に感じていた「自分の場所はここにない」という痛みを癒すことができました。

でも何より重要なのは、次の世代の私のような女の子たちが、同じように傷つかないようにしたいと思ったのです。

ウルフ選手はまた、「世界を変えたかった」とも述べている。

どんな人でも、そしてどんな夢であっても、私はすべての人に機会が与えられ、すべての人の夢が祝福され、サポートされる世界を作りたかった。

そして何より、恐怖を感じている小さな女の子達が、世界に自分たちの居場所があると知り、安心できる世界を作りたかった。

だから私はこの5年間、オリンピックの夢を叶えるために必死になって努力を続けてきました。

そしてウルフ選手は、アメリカ代表チームの補欠に選ばれた。

「補欠だけれど、めちゃくちゃ素晴らしいことなんです。これはまだ始まりにすぎないかもしれないけれど、自分のことを誇りに思う」と喜びを表現している。

活躍するLGBTQのアスリートたち

アメリカでは現在、共和党の政治家が主導する一部の州で若いトランスジェンダー女性のスポーツ競技参加を禁じる法律が成立するなど、トランスジェンダーの人たちへの差別的な動きが起きている。

恐怖や絶望を感じているであろう多くのトランスジェンダーの子どもたちにとって、ウルフ選手がオリンピックの代表チームに加わったことは、希望になるはずだ。

また、ウルフ選手だけではなく、代表に選ばれたロバーツ選手とベネガス選手もLGBTQの当事者だ。ロバーツ選手は2021年初めに女性との結婚を発表し、ベネガス選手は5月に同性愛者であることを公表した

ウルフ選手は「ロバーツ選手とベネガス選手の活躍と、二人を応援することを楽しみにしている」とも述べている。

東京オリンピックにはこれまで、トランスジェンダー女性のローレル・ハバード選手が、重量挙げのニュージーランド代表として参加することが決まっている。

ハフポストUS版の記事を翻訳・加筆しました。