■著名アーティストの逮捕劇
先週末に驚きのニュースがありました。人気アーティストの「CHAGE and ASKA」のASKA氏の覚醒剤取締法違反による逮捕です。
17日に覚醒剤取締法違反(所持)の疑いで逮捕された人気デュオ「CHAGE and ASKA」のASKA(本名・宮崎重明)容疑者(56)が所属するユニバーサルミュージックは19日、ASKA容疑者との契約解除を発表した。さらに音楽、映像作品の出荷停止と、これまで市場に流通した74作品の回収と配信の取りやめも決定。多くのヒット曲を抱えるヤマハミュージックコミュニケーションズも同様の措置をとることを決め、「チャゲアス」の歌が世間から姿を消す事態になった。
すでに多方面で話題になっており、ご存知の方も多いかと思います。ハフィントンポストでも、いくつか記事が上がっていました。
本稿では、コンテンツ・ビジネスにおける企業のCSR(企業の社会的責任)についてまとめてみたいと思います。
ちなみに、皮肉な事に、大きな話題となったからか、音楽配信サイトのランキングではトップ10位中4曲が「CHAGE and ASKA」が占める(5月20日12時現在、iTunes調べ)という事態になっています。
■各社の対応状況
問題はコンテンツにおける社会的責任です。今回は、CD回収やデジタルコンテンツの回収をコンテンツ・ホルダーの皆様が早々に決めた模様。逮捕報道から週末を挟んだ2日間での各社スピーディーな対応です。
○ロックダムアーティスツ(所属事務所)の対応
ASKA関連商品の取り扱いについて(2014年5月19日)
このたびは、皆さまに多大なるご迷惑とご心配をおかけしたことを改めて心よりお詫び申し上げます。弊社は、今回のASKA本人に対する容疑、またその社会的影響の大きさに鑑み、ASKA、CHAGE and ASKAの音楽・映像および関連商品の販売を中止することといたしました。ファンの皆さま、関係各社の皆さまには、ご迷惑をおかけいたしますが、何卒ご理解をいただきますようお願い申し上げます。
○ユニバーサルミュージックの対応
CHAGE and ASKA、及びASKAと当社との間の専属契約は既に終了しており、当社は、CHAGE and ASKA、及びASKAの商品に対して、商品ごとに製造権、販売権、或いは非独占的な配信権のみを有する状態ですが、今回の逮捕はその容疑内容、反社会的性質等、その影響の大きさに鑑みて、決して看過できるものではなく、厳正な措置を以って臨むべきとの判断に至りました。
■当社取扱のCHAGE and ASKA、及びASKAのソロ名義の作品について
・ 関連契約の解約または停止
・ CD/映像商品 全タイトルの出荷停止
・ CD/映像商品の回収(契約上、当社において回収可能なもの)
・ 全楽曲・映像のデジタル配信停止
○ヤマハミュージックコミュニケーションズの対応
アーティスト「ASKA」が覚せい剤取締法違反の疑いで逮捕されたことを受けまして、その逮捕容疑と社会的影響の大きさを鑑み、過去に弊社からリリースされましたCHAGE and ASKA ならびにASKA関連の商品につきまして、出荷停止・店頭からの回収・楽曲配信の停止を決定いたしました。
○フジテレビの対応
「CHAGE and ASKA」の曲を主題歌に使ったドラマ動画サイト「フジテレビオンデマンド」で配信中のフジテレビは19日、作品の配信を継続することを明らかにした。同局広報は「楽曲はドラマの作品の一部。コンテンツとドラマの価値を総合的に判断して配信を継続する方針となりました」と説明した。現在、「101回目のプロポーズ」(91年・主題歌「SAY YES」)、「振り返れば奴がいる」(93年・同「YAH YAH YAH」)、「妹よ」(94年・同「めぐり逢い」)の3作品を配信している。
■企業のリスクヘッジと社会的責任
"反社会性のある行動"をとった人を容認するのは、現代の企業経営にとって大きなリスクであります。
著名人の"反社会性のある行動"で思い出すのは、「ペニーオークション詐欺事件」や「反社会勢力との関与疑惑」などでしょうか。この手の話はあまり詳しくなのですが、テレビなどのマスメディアや今回のコンテンツ所有企業などは、リスクを考慮し行動を取っているように思います。
企業の社会的責任(CSR)のそもそもの定義は、"企業が社会に与える影響に責任を持つこと"とされ、環境、社会、経済へのマイナス影響を最小化し、良い影響を最大化するものとしています。つまりCSR=「企業が自らの事業活動により環境や社会に及ぼす影響への責任」というわけです。
企業のコンプライアンス的な側面については、『あれから半年、カネボウ「白斑」問題から学ぶコンプライアンス』、『半沢直樹にはなれないっしょ! コンプライアンス違反を密告できないわけとは?』という記事もご参照下さい。
今回で言えば、影響力のある人気アーティストが逮捕されたことにより、企業として容疑者をビジネスとして支援してはならないと考えたのでしょう。この被害額がどれだけ大きいのかわかりませんが、僕も以前よく聞いていたアーティストでもありますし、1人のファンとして残念でなりません。
今後、各社に期待されることとしては、コンテンツの回収等で終わらせることではなく、今後も同様のことが起きないように、社内監視体制の強化(ガバナンス領域)などの対策案でしょう。
著名人の社会への影響は計り知れません。リスクヘッジを含めて、超有名アーティストであっても、最低限の監視などが必要な時代かもしれません。
拙著『この数字で世界経済のことが10倍わかる--経済のモノサシと社会のモノサシ』でも書いたのですが、企業として一番怖いのは、事件・事故などの適切な初期対応を行わず(私たちは悪くない的なヤツ)、二次不祥事(不祥事・ミスの初期対応をミスって更なるバッシングを受けること)が起きる事です。
これは当事者だけではなく、企業のブランド価値を著しく毀損する可能性があります。1人のアーティストが犯した行動で、企業全体のイメージダウンになってしまってはたまったものではないですよね。
そう考えれば、今回の各社の対応は非常にスピディーかつ厳格な対応だったと評価できると思われます。
コンテンツ・ビジネスをしている皆様は今回の事例を参考にしつつ、日々のビジネスをしていただければ幸いかと思います。
『チャゲアスCD回収に"SAY YES"とは言えない社会的責任』より、修正・加筆し転載