「残業」は努力ではない ~ブラック企業と騒ぐ前に~ (川合雅寛 クロスリバーCEO)

会社側が本当に悪意を持って搾取しようとしているのならば、労働基準法に則り裁かれるべきだと思いますが、実際はその前の段階で止まっているのではないでしょうか?
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3月26日の朝、私の師匠で哲学者の芦田宏直先生がラジオに出演されました。別所哲也さんがMCをされている「J-WAVE TOKYO MORNING RADIO」にて、昨年出版された「努力する人間になってはいけない」について語られていました。

■努力する人間になってはいけない

昨年9月にロゼッタストーン社から出版された「努力する人間にはなってはいけない〜学校と仕事と社会の新人論」で非常に重要なポイントなっているのが努力の定義です。一般に頑張ること=努力なのですが、芦田先生はこれだけではダメだとお話されています。一つの例えとして努力の定義で最もダメなものはどれでしょうか?

1:努力して、結果も出す

2:努力しなくても、そこそこの結果が出ている

3:努力したが、結果は出ていない

4:努力もせず、結果も出ていない

答えは3「努力したが、結果が出ていない」です。何故ならば、労働時間と成果という観点で評価した時3だけがコストが最も掛かり、組織に対するリターンが全くない状態になるからです。むしろ、4の方がコストは最小限だけど結果も出ていない。本人もどうしてダメなのか理解しているわけですが、3の場合は本人は行動プロセスの間違いに気がついていない可能性が非常に高く、次のフェーズでも結果は出ないでしょう。

これは組織のとっては最悪な状態です。そして、こういう人がブラックだ!と騒ぐわけです。

■「即戦力」を求める企業はブラック企業なのか

さて、ラジオの中で芦田先生はこの様にお話をされていました。

「即戦力を求める企業は所詮その程度の企業でしか無い。教える余裕がどこにもないから」

これは一理あります。芦田先生の論理からすると、一般的な教育を受けた人ならばまずは大企業を目指しなさい、10年程度勤めてから次を考えなさいという事になります。確かに大多数の人にとっては合っているのではないかと私は思います。

また、この「その程度」という部分をどの様に解釈するかによって扇情的になりやすいのですが、ベンチャーのような今直ぐ成長したい企業であれば、会社を成長させてくれる能力の高く成長意欲の高いか一緒に成長してくれるような社員を欲しがるはずですから当然です。むしろ口を開けて教えてくれないから出来ませんと言ってしまう様な人は成長企業では務まらないわけです。

ところが、ここを勘違いして成長企業等に入社し、残業が多い事、先輩からのパワハラ的な指導等が話題に上がる事が多いわけですが、言われている企業すべてが本当にそうなのかというと違うのではないかと私は思います。

■大企業でも部署や時期によってはブラック企業化する

もし仮に、残業が多いパワハラがあると言うことでブラック企業と認定されるのであれば、私が働いていた頃の日立製作所もすさまじいブラック企業となってしまいます。当時私も含め事業所全体が電子政府構築計画に湧いていて、不夜城と呼ばれるぐらい12時を回ってもフロアの電気は消えることがありません。会社のビルの前にはタクシーが長蛇の列を成し深夜帰宅組を待ち構えているのが当たり前でした。

これは日立製作所に限らず、他のメーカー系SIerも同様だと思います。SIerとはシステムインテグレーターの略でエスアイヤーと発音します。建築業界でいうところの「ゼネコン」に相当し、主に大規模なコンピュータシステムを作る仕事を一括受注し、関連企業へタスクを割り振り進捗を管理するのが仕事です。

夜遅くまで残って仕事をこなすことが武勇伝のように語られていましたし、同期同士で夜中未来を語り合っていたりもしてました。このような事が当たり前の会社ですし、SIerは当たり前でしたから、産業医面談などで他社の2倍以上働いているのにみんな生き生きしていると聞いて当たり前だと思っていました。

もちろん、体調を崩す人も居たことは事実としてありますので、すべてが前向きな話ばかりではありませんが残業代も深夜帰宅タクシー代も支払われているのならばトレードオフと考えて良いと思います。ワークライフバランスの問題も有りますが、やらねばならぬ時はあるので、それが全てでは無いと思います。

■努力とはあなたが勝手にやった残業の事ではない

会社側が本当に悪意を持って搾取しようとしているのならば、労働基準法に則り裁かれるべきだと思いますが、実際はその前の段階で止まっているのではないでしょうか?

つまり「努力したけど、結果が出なかったので、もっと「努力」します」という人がたくさんいるのではないでしょうか、と言うことなのです。一見当たり前のように見えますが、最初にも書いたとおり、努力を残業に置き換えてみるとおかしいと思いませんか?

なぜ、努力=残業すれば、結果が出ると仮定できるのでしょうか?そして、このセルフ長時間残業というものが最も厄介な存在で、私頑張りましたと主張され、まわりの社員も「○○さんは頑張って仕事してましたよ(何をしていたのかは知らないけど)」となり、非常に同情を生むという負のスパイラルに陥りやすいのです。

本当の頑張るというのは、結果から逆算し行動プロセスを常に見直し最終的に目に見える行動結果をアウトプットするというものではないかと私は思います。労働集約的に働いたから評価して欲しいというのは、働いているわけではなくただ、そこに居た事にしかなりません。知識労働者にとって労働とは、常にアウトプットされるものに紐付けられるわけで、時間を消費することではないのです。

■ブラック企業と言う前に、その職場はあなたに合っているのか

楽天、リクルート、光通信の営業はブラックだ!と言うのはとても簡単です。しかし、部署の強制移動等ではなく自分で選んだのにも関わらず、ブラックだと騒いでいるのでしたらお門違いです。新卒なり中途採用なりで入社してきた時に十分にリサーチしたのではないでしょうか?給料だけで選んだ、福利厚生が良かったから理由は様々あるかもしれませんが、確認せずに入っておきながら、不平不満を言うのは違うのでは無いでしょうか?

少し前に、元楽天のECコンサルタントの方が書いたブログで、楽天という会社が無茶苦茶なノルマを出してクリアができないという事が話題になりました。ですが、結果が出ている人と出ていない人では捉え方が違ったのではないかと私は思います。会社のせい、部署のせい上司のせいにする前に、どうすれば要求された結果に対してアウトプットが出せるのかを最大限考えて実行してからにしましょう。同じ部門で成果の出ている方の話も聞いてみたいです。

以下の記事も参考にして下さい。

働いている会社が合っていないと感じたならば、辞めるという選択肢も法律で保証されているわけですから、さっさと決断してもよいのだと思います。ホワイトカラーの仕事は時間を切り売りするものではなく、自身の持つノウハウや知識を120%使って社会に価値を提供していくということを忘れてはいけません。

クロスリバーCEO 川合雅寛