中央アフリカ共和国の今回の抗争で最も見過ごされていることの1つが、障がい者の孤立、置き去り、ネグレクトだ。今回の安保理の決定は、障がい者のニーズの可視化に役立つだろう。
(ナイロビ)中央アフリカ共和国の多くの障がい者たちは、2013年から始まった武装組織による村落襲撃のなかで置き去りにされ、生き延びるために大変な苦労をしたと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。国内避難民のキャンプに何とかたどり着いた場合でも、衛生設備、食料や医療支援を利用しにくい。ヒューマン・ライツ・ウォッチが今回公開した動画では、この紛争の中で苦闘する実態を障がい者自身が語っている。
国連安全保障理事会は2015年4月28日、中央アフリカ共和国への国連平和維持ミッションを更新する予定だ。本PKOの任務には、障がい者のニーズに特に配慮するとともに、障がい者への人権侵害を報告してその発生を防ぐことが初めて盛り込まれる。
「中央アフリカ共和国の今回の抗争で最も見過ごされていることの1つが、障がい者の孤立、置き去り、ネグレクトだ」とヒューマン・ライツ・ウォッチの障がい者の権利調査員クリティ・シャルマは述べる。「今回の安保理の決定は、障がい者のニーズの可視化に役立つだろう。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは調査結果を安保理理事国、国連機関、人道団体向けに何度もブリーフィングしてきた。中央アフリカ共和国の緊急対応に詳しいある国連当局者はヒューマン・ライツ・ウォッチにこう述べた。「国連は障がい者問題に十分な注意を払っていない。今すぐ取り組みを強化すべきだ。人道援助に差別があってはならない。」
中央アフリカ共和国は2013年の初めから深刻な危機に見舞われている。ムスリム主体の反政府勢力「セレカ」が、民間人の広範な殺害、家屋への放火や略奪などの重大犯罪を犯しながら軍事作戦を展開し、権力を掌握したためだ。2013年半ばには「アンチバラカ」を名乗る勢力が組織され、セレカとの抗争が始まった。アンチバラカは、首都バンギなど西部でムスリム住民への大規模な報復攻撃を行った。この紛争で数千人が死亡し、障がい者を含む数十万人が住むところを離れざるをえなくなった。
「抗争の結果、障がい者はすべてを失いました。車いすも、家も、生計を立てる手段もすべてです」と、バンギにあるムポコ国内避難民キャンプの障がい者団体代表シンプリス・レンギ氏はヒューマン・ライツ・ウォッチに述べた。「人道団体の全面的な支援がなければ、元の場所に戻ることは不可能です。」
さらにレンギ氏は「障がい者は自宅を建て直し、食糧を確保し、医療を受け、生計を立てる手段を作り出すための支援を必要とします」と指摘した。ムポコ・キャンプでの自発的帰還は4月24日には始まる予定だ。暫定政権が避難民キャンプ閉鎖と帰還支援に着手する現在、障がい者向けの支援や援助はさらに重要性が増す。
1月13日から20日と4月2日から14日にかけて、ヒューマン・ライツ・ウォッチはバンギ、ボヤリ、ヤロケ、ボッセンプテレ、カガ・バンドロで49人に聞き取りを行った。うち30人は身体、感覚、心理社会または発達に関する障がいを持つ人びと、その家族、政府当局者や外交官、援助機関や地元の障がい者団体の代表者だ。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査により、少なくとも96人の障がい者が置き去りにされるか、避難できない状態にあったこと、また11人がボヤリ、ヤロケ、ボッセンプテレ、カガ・バンドロで殺害されたことが明らかになった。これらは氷山の一角とみられる。障がい者のほとんどが、人気のなくなった地区や村で、食料や水がほぼない中で数日から数週間を過ごしている。期間が1ヶ月に及ぶケースもいくつかあった。インタビューの対象となった、身体または感覚に障がいのある人びと、とくに置き去りされた人びとは、馴染みのないでこぼこの土地で暮らしていけない場合が多かった。
小児麻痺を患った中央アフリカ共和国南西部の町グエン出身のハママトウさん(13)はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、村が襲撃されたときに兄の背におぶられて避難した。しかし兄は途中で疲れて動けなくなった。「兄に言いました。『スレイマン、私を置いてあなたは逃げて』と。殺されなかったら戻ってくると兄は言いました。しかし二度と戻ってきませんでした。 」
2週間後にアンチバラカの部隊に発見されたハママトウさんは、そのときの出来事をこう語った。「兵士たちは言いました。『動物がいるぞ。ここで殺してしまえ。』」しかしある兵士がそれを止めさせたためにハママトウさんは助かった。
バンギから北西300kmにあるボッセンプテレ・カトリック病院長のベルナール・キンヴィ神父は、司祭たちとともに、アンチバラカにより約80名が犠牲となった2014年1月の虐殺の生存者を何日もかけて探したが、ボッサンテレで置き去りにされた50人のうち17人が障がい者だったと述べた。たとえば、死んだと勘違いされて置き去りにされ、川床で複数の遺体のあいだで5日間横たわっていた視覚障がい者の高齢女性や、虐殺から5日間隠れていたところを発見された小児麻痺の子どももいた。ハンセン病で両手両足を失った高齢男性が、虐殺後何日もしてから自宅で置き去りなっているのを見つけられたケースもある。
中央アフリカ共和国は極めて深刻な危機に見舞われているものの、現在世界各地で様々な人道危機が多発しているために、人道支援機関は多大な負担を抱えている。そのため、国連は中央アフリカ共和国の状況を最悪級に分類しているものの、同国への人道支援の金額は不十分だ。国連人道問題調整事務所(UNOCHA)によると、2015年に入ってから中央アフリカ共和国は1億2,600万米ドル(127億円)を受け取った。しかしこの金額は、同国の戦略的対応プランに必要な6億1,300万米ドル(736億円)の20%に満たない。
援助資金の制約の結果、人道支援機関は障がい者特有の問題に対処することができていないことが多い。ヒューマン・ライツ・ウォッチが国連と非政府の人道支援機関8組織に話を聞いたところ、障がい者関連データを組織的に収集しているところは1つもなかった。また、組織の計画に障がい者のニーズがしっかり組み込まれていることもなかった。
国連と非政府の人道支援機関、および暫定政権は、危機対応にあたり障がい者のニーズを考慮に入れるべきであり、計画策定と意志決定プロセスに障がい者自身を参加させるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。こうしたきわめて重要な作業が実行されるためにドナー側は、障がい者をインクルージョンした人道事業に対して、資金提供をすべきだ。
人道支援機関と暫定政権は、障がい者関連のデータを体系的に収集し、政策決定と援助計画に障がい者をしっかり位置づけるべきだ。全国的な対話の場として5月4日から10日の予定で開かれるバンギ・フォーラムには、障がい者も参加するべきだ。また政府は、8月に予定されている選挙に障がい者が完全参加できるよう、措置を取るべきである。
「障がい者は、紛争被害者の支援に取り組む援助機関やPKOミッションから見過ごされることが多かった」と、前出のシャルマ調査員は述べた。「国連と支援機関は職員に研修を行い、障がい者が避難先のキャンプで、そして、帰還後は地元で、すべてのサービスを平等に利用できるようにすべきである。」
(2015年4月28日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)