フランス、パリで起きた風刺週刊紙シャルリー・エブド本社襲撃事件で殺害された12人の中には著名な風刺漫画家4人が含まれていた。
亡くなったのは、同紙編集長で、「シャルブ」のペンネームで知られていたステファヌ・シャルボニエ氏(47)、「カビュー」のペンネームで広く知られていたジャン・カビュ氏(76)、「ティニュー」として知られるベルナール・ベラク氏(57)、そして、ジョルジュ・ウォランスキ氏(80)の4人だ。
風刺漫画家の山井教雄さんによると、4人は山井さんと共に2006年に設立された漫画家達による平和貢献活動を目的としたNGO「CARTOONING FOR PEACE」のメンバーで、これまでに世界20都市で表現の自由や各国の文化の尊重などをテーマにした展覧会やシンポジウムを開いてきた。
パリ出身のジャーナリストで現在は日本で活動するエチエンヌ・バラールさんは、そのうちの1人、ティニュー氏とは古くからの知人。1992年にティニュー氏らフランスの風刺漫画家達が文化交流のため日本を訪れた際、福岡県で共に温泉に入るなどして知り合ったという。
ティニュー氏らは翌年の1993年、日仏の文化交流を目的とした画集を出版。日本を訪れた際に触れた、和の文化、風習などについて繊細なタッチで見事に表現していた。
20年前に出版されたその画集を大切に保管していたというエチエンヌさんが、今回、 8bitNewsの取材に対し画集を見ながら当時の思い出やフランス人漫画家達の人物像について教えてくれた。
あまり語られていない風刺画家達と日本の関わりについて関心を持ってもらえたらと思う。動画と合わせてインタビューの全文を掲載する。
(※ぜひ動画で確認を)
■風刺漫画家達が観察した日本
(バラール)今見れば、涙が出るくらい...。この人が射殺されたティニューさんと、真ん中は「オバタリアン」の漫画家の堀田先生。3人で1992年に福岡温泉に行って、それの記念写真ですね。
(堀)その時にはどんなお話を?
(バラール)この画集がフランスと日本の共同企画。9人のフランス人の風刺漫画家が日本に来てそれぞれの地域に滞在したんですよ。で、ティニューが福岡に3週間ほど滞在して、その時に僕もちょっと付き合ってたりとか、1週間くらい一緒にいて、その時に書いた、青い目で見た日本みたいな感じの作品です。だからまあ当時の日本の第一印象ですね。日本人の素顔というかその姿を描いてとても繊細なんですよ。
(堀)これはティニューさんが描いた?
(バラール)これはティニューさんの日本に関する印象ですね。
(堀)エチエンヌさんが見てとくに印象に残っている絵はありますか?
(バラール)僕は彼の絵の中でこういうのが(お城や日本風の建物の絵を描いたものを指差しながら)けっこう好きですし、こういう感じのもの。なんかね、描いている姿を見ると漫画家ってすごいもんだなって改めて思って、僕たち素人が目で見ているんだけれどもその、彼の場合は目に入ったものをその場でぱぱぱぱぱっと絵にしちゃってるんですよね、もう写真のようにっていう感じで。こういう才能すごいなって、すごい羨ましかったんですよね。
(堀)(絵のタッチが)繊細ですね。
(バラール)当時、やっぱりまぁ、ティニューさんは温かい人で、いい思い出になりましたね。
(堀)その時にはどんな話をしたか覚えていますか?
(バラール)まぁ一応日本のことはもちろん話題になっていましたし、漫画家としてのことも話していたんだけれども、残念ながら23年前のことだったんでちょっと細かい話は覚えていないんだけれども。
(堀)日本には興味があったんですか?
(バラール)やっぱり興味はありましたね。世界中に、日本だけじゃない、好奇心がけっこう強かったんですよ。だから世界中に興味を持って、旅もしていたんですけれども。ただまぁ漫画家としてかなり忙しかったので、そういう休みの時間もなかなかとれなかったようです。この10年、会っていなかったので、かなり大分ご無沙汰だったんだけれども、彼の絵を見ることを通じて元気でやってるんだなというのを、一応安心して見守っていたのですが、昨日編集部に射殺事件があったと聞いた時に、「え?」という、ちょっと変な違和感というか、もしかすると?ってちょっと気になってたんですが、数時間後に犠牲者のリストが出た時ね、中に入っていたねっていうのは、より虚しくなったんですね。もう1人亡くなったカビューさんが、彼もね日本にね2ヶ月間くらいだったかな、滞在して...
(堀)表紙を見せてください。「CABU AU JAPON」と表紙に書いてある。
(バラール)そうそうそうそう。彼もまぁ日本で滞在して、その時の印象を描いています。
(堀)どんな絵を書いているのか見せていただいていいですか? これはどういう?
(バラール)一言でなかなか言えないんですが、満員電車の中でみんなヴィトンバッグを持っているとか、またあのフランスのパンが、フランスよりおいしくなってるとか、まぁいろんな影響、日本にはフランスからいろんな影響あったなあという、1990年代の様子を描いたものですね。
(堀)日本にゆかりのあるお二人だったんですね。
(バラール)3人目に亡くなったウォリンスキーも日本に来ていて、彼はけっこうエロいものが好きで、こういうようなものを一応、ストリップ劇場に行ってね。描いていた。
■フランスにおける「風刺漫画」とは何か
(堀)日本の文化をフランスに紹介していたんですね。これを見ると必ずしもどきつい風刺というよなものでは...
(バラール)ではないですよ。だから1つだけね、シャルリー・エブドに関して理解してほしいのが、決して別にイスラム教とかばっかりを指摘してたわけじゃ、刺激してたわけじゃないんですよ。シャルリー・エブドはいわゆる普通の風刺漫画週刊誌であって、時事ネタを毎週、文章よりは漫画を通じて報道してたんですね。中にはかなり、それぞれの漫画家のスタイルとかによって変わってきてたんですけども、グロテスクなものとか、過激な漫画も描いていたんですが、あらゆるテーマに関してけっこう毒の入っていたものを入れてたんですね。フランスではまぁこういうのが当たり前で、ファンも多いんですよね、こういうスタイルの漫画とか報道に関して。ただしやっぱり最近よくフランスで言われるのが、例えばキリスト教絡みの風刺漫画もいっぱい描いたのに、イスラム教の漫画を数枚描いただけでもうここまでテロ事件に結ばれたのが、ちょっとおかしいんじゃないかというか。シャルリー・エブドの持っている文化は全く無視されたんですよね。全く自粛を知らないメディアだったんです。
(堀)自粛しないというというのは、やはりどういう想いからそういうスタンスを貫いてきたメディアであり、風刺漫画家の皆さんだったんでしょう?
(バラール)それがね、今の世の中のメディアってかなりコントロールされてるじゃないですか? ありとあらゆるところで。スポンサーの言いなりになったりとか、それぞれの権力の言いなりになったりとか。(襲撃された)シャルリー・エブド紙だけじゃないんですよフランスでは、彼らにはとにかく、思いのままのニュースとか、報道の仕方とか漫画とかを、書かせてくれよと。そういう検閲が大嫌い。自粛はしない。これがおもしろいと思ったものはとにかく、書かせて!というスタンスですね。賛否両論なんですよね。毎週の特集とかネタによって、やっぱり行き過ぎなんだなとか、そういうのやっぱりよくないなって思ってる人ももちろんいるし、怒ってた人ももちろんいるでしょう。それでも自由にそれを掲載できたのが強いメディアの証だったんじゃないかなと思うんですよね。で、僕がシャルリー・エブドではないんだけど、100年以上歴史のあるカナール紙という、それも週刊誌なんですが、僕の愛読新聞で、日本で50人くらいしか購読してないらしいんだけど、ここ23年前くらいからカブがずっと連載をしてたんですね。これがカブの絵で。
(堀)どんな絵ですか?
(バラール)これがあのフランスの財政改革についての風刺漫画なんですね。「軍の予算にあたって、新しい...」と書いてありますが、日本語でなんて言うかな...スノーキャノンというか...、説明しにくいんですけれども。スキー場に雪が足りない時に、雪を噴き出すような装置があるじゃないですか。人工雪のやつ。フランス語で人工雪の機械と、タンク(戦車)が同じ言葉なんですよ。だからそういう人工雪のタンクにも、新しい税金をつくろうじゃないか、今冬だし、というような吹き出しとか、まぁあんまり必ずしもこれは絶対おもしろいとは思わないんだけど、でもカブがね、こういうのを毎週各ページにね1番描いていた人なんですよ、1番貢献していた人なんですよ。
(堀)これは(違う風刺画を見ながら)イスラムのことを?
(バラール)これは「ジハド系の秘密の大晦日」というタイトルで「どうやってシャンパンのコルクを抜くかを見せてあげる」と、シャンパンを左手で持って、こっちは刀でコルクを開けるやり方を見せてあげる、というようなやつですね。このカナール紙にもかなり影響が出てくるんだと思います。今回の事件によってカビューが亡くなって、もう来週から見られなくなる。もう、寂しくなるんですよね。
(堀)かなり中核だった漫画家の皆さんが今回のテロで犠牲になったということなんですね。
(バラール)日本で言えば、カビューとかウォリンスキーとか伝説の風刺漫画家だったんですよね。で、亡くなったことによって、文化的な意味ではすごくロスが大きいんですよね。
(堀)損失ですよね。そういった意味でいうと、こういった形で銃撃されて殺される、メディアに対してそうした攻撃を仕掛けるというのは、も許されることではないと。
(バラール)もちろんあの時間の問題ですね犯人たちが捕まるのが。1人は既に自首してたんですね。他の2人は今日明日中にはもう逮捕されるんではないかなと。しっかりと逮捕して、罰するしかないんですよね。
(堀)こうした言論弾圧に対してはエチエンヌさんご自身もジャーナリスト活動続けている1人ですが改めてどう思いますか?
(バラール)や、まぁ普段からジャーナリスト活動がなんともない平凡な職業だと思われたらまぁ間違いだなというのもあって、やはり言論の自由を尊重するのに、日々の戦いでもあるんですね。特にこういう自粛しないメディアまたはしないジャーナリストにはもうその「ツケ」がいずれ回ってくるという危険性もあるんだなっていう。でも必ずしもそういうような射殺とかだけじゃなくて、殺されるということだけじゃなくて、抑圧されたりとか、そういうことも違う意味で言論の自由を抑圧してるとこだなって思いますよね。
(堀)今回その彼らがですね、自分たちの信じる神、そして預言者を冒涜されたんだと主張するわけですね。非常に宗教的でセンシティブな問題に対してこうした弾圧を加えたということですが。
■宗教とテロ集団、過激派を分けて考えるリテラシーを
(バラール)宗教の中で、誰かを殺すということは誰が許してるの? それはあの、お互い意見が合わない時に、それなりの主張をするのは構わないけども、それもお互い発言の自由を持っているので、口喧嘩というとあれですけども、それに近い形で言い返せば別にいいんですよ。ただしこれは明らかに犯罪ですね。誰が見ても。こういうようなことは、何か宗教の名でこういうことをしていいの? そういう宗教は本来ないじゃないですか。宗教とテロ集団を一緒にしないでほしいんですね。イスラム教だとかどうのこうのと、宗教は片方あって、テロ集団とか過激派はテロ集団として違う存在として扱うべきですよね。一緒にしたらまずいんですよね。
(堀)フランス国内でもイスラム教の皆さんへの差別であったりとか、宗教そのものの問題かのように捉えられてしまうようなこともあるのではないですか?
(バラール)ただね、その辺のリテラシーは多少みんな持ってるんですよ。極端な右翼などを除けば、一般の国民が宗教そのものとそういう過激テロの区別は充分わかっています。中にはそれをごちゃごちゃ一緒にしたい少数派もいるんですけれども、これが決してメインではないんですよ。一般の人はちゃんと区別してるし、今回怒りの元になっているのはこのテロ集団による射殺ですね。イスラムそのものは別にいいと思うんですよ。
■暴力による圧力で言論の萎縮につながるか?
(堀)今回のことで言論が萎縮することにつながりそうでしょうか?
(バラール)それもね...ないのではないかと思うんですよ。逆に、今団結して、テロとかに負けないぞっていうスタンスで、フランス、又は世界中のメディアがそれをアピールしようとしているんですよ。今朝の、ちょっと印象に残った写真なんだけど、今朝の世界中のメディアが、60何紙がシャルリー・エブドのオマージュとして、それを表紙にしてるんですよ。(iPhoneの画面を見せながら)ちっちゃくてわかりづらいですが、もう世界中のメディアがこうやって表紙にしてるんですよ。ザ・ナショナルとか、フランスの地方新聞とかももろそれをずっとやってるし、海外ではこれがベルリンの新聞。ドイツの雑誌ですよね。これがPravda、これが一応ロシアのメディアですね。Starはイギリスでしょ。もうありとあらゆる雑誌が。Courier Mail。もう全部。
(堀)一斉に各メディアで、萎縮しない、戦うんだという姿勢をある種、団結して示したという。
(バラール)そうです。
(堀)こういう動きを見ると勇気付けられますね。
(バラール)そうですね。ただまぁ1日限りのことじゃなくてこれからもやはりみんなこういうテロを、あらゆるテロを許さない体制にしてほしいですね。
(堀)先ほどおっしゃった風刺の権威役であった方々が亡くなられたというのは、もうフランスにとっても非常に大きな損失ですね。
(バラール)正直言ってそうなんです。他の才能が育つ他ないし、幸い才能があるのはこの4人だけではないので、まだまだ現役でやっている人たちがいるし、彼らはもう決して負けないと思いますので、そのへんはあまり心配していません。
■弾圧の前に、メディアの自主規制についても問題
(堀)日本でもよくね、メディアの弾圧以前に、メディアの自主規制。これがだんだんと指摘されるようになりましたね、ここのところ特に。
(バラール)シャルリー・エブドの編集長だった人で、シャーブというんだけれども、彼が1、2年前のインタビューで名言というか、今回の事件でも思い出してもいいような言葉を残したんですが、「膝間づいて生きるより、立ったまま死んでもいい」と「死んだほうがマシ」というようなことを言ったんですね。だからまぁ、負けないことがプライドであると。だからそういうような自粛とかは彼らの場合はあり得ないですね。この話に入るとかなり長くなっちゃうんですけども、フランスに関してそういう自粛しないメディアは残ってます。このカナール紙はね100年の歴史を持って広告は一切入ってないんです。全部読者の購読によって生きてるんですよ。で、スポンサーが広告一切ないというのは、もう今1番問題になっているのが、権力による抑圧というよりは、スポンサーによる抑圧ですね。またはコントロールですか、それが一切ないんです。インディースです。そういうような雑誌とかメディアが残ってる限りはまぁ大丈夫でしょう。うん。と、期待しています。
(堀)改めてジャーナリストの1人として今回の事件、直面して思うことはなんでしょうか?
(バラール)頑張るしかない。うん。頑張るしかないね。ただ一言、僕はそんなに危険なことをやっているわけではないので、あんまりね大げさに言いたくないところがあるんですよ。ただし、一般的に言えるのが、一見楽に見えるジャーナリストの仕事は、時と場合によっては決してそうではないときもあると。で、今回は大きな代償を払ってしまったんですよね。
(堀)亡くなった漫画家のみなさんに向かってはどのような言葉をかけますか?
(バラール)「もし天国があったら、天国でもその様子を面白くおかしく描いてください、その才能を活かして。神様を笑わせてくれ」という感じ。でも、無駄にならないような死にもなってほしいなと、生き残っている人たちにとってね、世界中の人たちにとってね、改めて言論の自由を大切にしてほしいなということですね。