サイボウズ式:「キャリアブランクがあってごめんなさい」なんて謝らなくていい──再就職するママへ、あなたは自信を持って踏み出せる

アメリカでは、離職期間はキャリア"ブランク"(空白期間)ではなく、キャリア"ブレイク"(休憩・中断期)です。
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日本女性の年齢別就業者率を示すグラフは「M字曲線」と呼ばれ、特に30〜40歳で著しく落ち込みます。その"谷"の原因は、出産育児による離職であると伝えられてきました。

女性特有の"キャリアブランク"を経て、また職場へ戻りたいと願うプロ人材の女性たちをサポートし、これまでに多くの人材を一流企業へ専門職として送り込んできたのが米iRelaunchという会社です。

TED Talkのスピーチが世界中で1200万回再生されたiRelaunch CEOのキャロル・コーエンさんに、サイボウズ事業支援本部長・中根弓佳と株式会社Waris代表取締役・田中美和さんが、キャリアママの再就職について聞きました。

1度離職した高学歴女性たちは、どうやって"キャリアブランク"から復帰したのか

中根:わたしはいま39歳ですが、周囲の友人には子どもを産んだあと、残念ながらキャリアを中断してしまうケースを度々ききます。消極的選択の結果、そうせざるを得なかった優秀な女性もいて残念だなと思っていました。日本では、高学歴の女性ほど離職する可能性が高い、つまりM字カーブの谷が深いというデータも出ています。

出産育児をきっかけに退職した子育て中のママは、多少なりともキャリアブレイクがあります。ですが職場、つまりチームで働く経験のある人材に活躍してもらえる環境があれば、結果としてブレイク期間を経た人材の確保にもにつながり、よりよい職場やチームが実現するのではないかと思っています。

サイボウズには、多様な人材を受け入れる土壌があると考え、何度かキャリアにブランクのある女性を採用しようと考えました。ですが、そういう女性がいることはわかっていながらも、なかなか労働市場で出会うことができずにいました。そこで、優秀な女性のマッチングについて実績のあるWarisさんにご紹介をお願いしました。

田中:1度キャリアを中断すると、なかなか自分から一歩を踏み出して働くのが難しいんです。優秀な女性たちが育児で仕事を辞めて家庭に入ってしまうのが、日本の問題になっています。

日本の就業人口の年齢別・学歴別統計を見ると、学歴に男女差はないのに、高学歴の女性ほど離職率が高い。これが日本の現状なんです。

コーエン:アメリカでも多くの女性が離職します。女性に限らず男性もですが。その理由は育児や介護、自分のやりたいことの追求など、さまざまです。アメリカで顕著なのは、25歳から54歳の大卒女性のうち、ゆうに260万人が労働人口外にいるということ、つまり働いていないのです。

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iRelaunch CEOのキャロル・コーエンさん。アメリカのインターンシップ採用について、「2008年にゴールドマン・サックス(GS)や、今はなくなってしまったサラ・リーによる再就職インターンシップが始まり、2013ー2014年にはGS、JPモルガン、モルガン・スタンレー、メットライフ、クレディ・スイスというグローバルな最大手金融5社が、キャリア中断期のある再就職希望者に向けてインターンシップを導入するようになりました。エンジニアリング企業でも、IBMやGM、キャタピラー社など、多くの国民的な一流企業で広く導入されています」

コーエン:富裕層や中産階級では、22%の女性が専業主婦です。2007年に起業したiRelaunchでは、キャリアを中断していたプロフェッショナル人材の復職をサポートし、インターンシップ採用から、直接その企業で正社員を雇用できる人材教育プログラムを提供してきました。

これまでサポートした4500人は100%大卒者で、93%が女性、70%が修士号取得者です。アメリカでは、キャリアの中断期がある人材を対象としたインターンシッププログラムが2008年ごろから見られるようになりました。

プログラムの特徴は、インターンから正社員へと雇用される割合が50〜90%ととても高いことです。エンジニアリング分野の企業はさらに高くなります。

日本は1度の離職でキャリアがゼロに、米国ではなぜ再就職率が高いのか?

田中:日本では、1度離職するとキャリアはゼロになり、人材として評価されなくなってしまいます。アメリカでは、インターンから正社員への雇用率がそれほどまでに高いのは、なぜでしょうか。

コーエン:アメリカでは事情が違うからだと思います。離職期間はキャリア"ブランク"(空白期間)ではなく、キャリア"ブレイク"(休憩・中断期)です。

企業側は再就職者のキャリアブレイク前の仕事について、詳しく知りたがります。そして再就職を希望する人は、これまでの職業経験を詳細に文書化しておき、キャリアブレイク後も「自分は何をしてきたか、何ができるか」を説明できるようにしています。

インターンシッププログラムの競争率は大変高く、数百人の応募者の中から25人が選ばれるといった具合です。ハイスキルでモチベーションも高い人々が集まっているんです。

田中:なるほど。

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田中美和さん。日経ホーム出版社・日経BP社で10年以上にわたり編集記者を経験。特に雑誌「日経ウーマン」では女性の生き方・働き方を多数取材。調査・取材で触れてきた女性の声はのべ3万人以上。その後、フリーランスを経て女性に「フレキシブルなプロの仕事」を紹介するWarisを共同創業。

コーエン:採用側にも高いプロフェッショナルスキルが求められるのですが、採用マネージャーには3タイプいます。

1つ目は、すぐに手を上げて、試験的にプログラムを実行する人。自分の友人や、女性の家族──母や姉妹、妻──の実例から、女性の人生にはキャリアブレイクがあることを理解している人が多いです。2つ目は、当初は懐疑的でも、他社の例を見てから次の機会に実行してみる人。そして3つ目は、初めからかかわりを持とうとしない人。

3つ目のマネージャーに対しては、社内のハイスキルで影響力のある人が自分の経験を話したり、キャリアブレイクから戻ってきた人を推薦して説得したりするケースもあります。

中根:ということは、わたしは1つ目のタイプだったということですね。ラッキーなことに周囲にいたと。そういうインターンシップにはもろ手をあげて賛成します。

家族の理解を得るためのアプローチ、いくつかの秘訣とは

田中:女性にとって、キャリアブレイク後にそれまでの暮らしのサイクルを変えて働き始めるのは、決して簡単ではありません。家族や社会に向けて、どうアプローチすべきでしょうか?

コーエン:著書にも書きましたが、まずはパートナーや子ども、さまざまな年齢層の人と積極的に会話することです。

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コーエン:再就職活動を始める前から、例えば"職探し"にも人々を巻き込み、意見を聞く。面接で落ちてしまった場合の失敗体験も共有し、明暗の両方を正直に見せていくのです。

再就職で家族といっしょに過ごす時間が短くなるのは、家族を"拒否"しているのでなはいと認識することも必要です。わたしはむしろ「これまで使ってこなかった自分の時間を使っていると強調しましょう」とアドバイスしています。

中根:うん、なるほど。

コーエン:妻の再就職には、パートナーの仕事状況や職業人生の段階が大きくかかわってきますね。順調に仕事をしているか、業績の悪化や解雇の恐れなどで将来に不安があるかを夫婦で共有するといいでしょう。

田中:そうですね。

コーエン:第2の収入源ができることは、それまで大黒柱として1人で家計収入を担ってきたパートナーのプレッシャーをやわらげます。これは朗報です。

一方で、これまでにはなかった家事分担の心配も生じさせます。子どもの保育が代表例ですが、新たに生じる保育コストを、母親1人分の収入と比べてためらってはいけません。2人の合算収入から、将来への投資として考えるべきです。

田中:家族の理解をどう得るのがベストなのか、難しいポイントですね。

サイボウズ×Warisのキャリアママインターンの期間中、インターン生のお子さんが「ママ、私のこと好き?」 と尋ねたことがありましたが、インターン期間を経て家族の理解が育っていくのだと思いました。

中根:インターンシップは本人と会社だけの問題ではなくて、家族にとってもインターン(就業体験)なのですよね。かかわるみんなが新たな環境や生活スタイルにチャレンジしているのだと深く実感しました。

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子どもにとって、見えない時間に母親が何をしているかはミステリー

コーエン:私自身は、4人の子育てでフルタイム勤務から離れ、キャリアブレイクは11年間におよびました。職場に戻った変化期はチャレンジングでしたよ。

子どもは自分が生まれついた環境に慣れるものですから、仕事をしている親のもとに生まれた子どもにとっては、それが当たり前。親が家にいるなら、それが当たり前なんです。

再就職者が自分自身や生活を大きく変える時、家族にとっても環境が大きく変わるのだと理解してあげたいですね。

中根:はい。

コーエン:例えば小さな子どもにとって、それまで家にいた母親が自分を保育所に預けて離れている間、母親が何をしているのかはまったくのミステリーです。子どもの理解を得るには、それを解いてあげなければなりません。

中根:「幼児にとって、見えない時間に母親が何をしているのかはミステリー」とは、確かにその通りなんだろうなと。

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中根弓佳。サイボウズ株式会社 執行役員 事業支援本部長。「サイボウズは、私たちの製品を世界中に使ってもらいたいという夢を持っていて、たくさんの優秀な仲間が必要です。しかし日本は少子化で労働人口が減少しており、能力の高い人材をいかに確保するかが課題です。「同じ場所で同じ時間労働することだけが"働く"ということではない」と考え、多様な働き方を可能にする人事制度を作り、働き方改革に取り組んできました」

コーエン:会社にいっしょに行って職場を見せてあげるのはよいですね。働いているビルの写真を見せながら話してあげるのもいいでしょう。

保育園(昼間の子どもの居場所)と職場のビル(昼間の母親の居場所)の写真と、その日に保育所と職場で起こったことを書き込むボードを作ってもいいですね。

中根:それはいいアイデアですね。わたしは子どもが幼児期を終えてしまいましたが、ハッとしました。

コーエン:ただ、母親が「子どものためにやっている」と思っていることが、実は母親自身のためでしかないのではないかと、気をつける必要もあります。

田中:といいますと?

コーエン:3人の男の子をもつあるママの例を話します。その家庭は、帰宅後に全員でその日にあったことを話すルールを決めました。

ですが、実は子どもはそんなことにあまり興味がなく、庭でキャッチボールがしたくて、お互いのニーズに食い違いが生じてしまったんです。そこで、親が決めたルールを1度取り下げて、やりたいことをさせるという方針に変えてみたら、成功しました。

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そのほかの事例

コーエン:これらの例のように、子どもを母親の仕事の領域から除外せずに、むしろ参加させてともに作業することで、母親の仕事への理解は育ちます。

田中:インターンに家族を巻き込むわけですね。

コーエン:そうです。もう少し具体例を話しますと、夏休みや冬休みが明けて学校が始まる前日に、子どもの持ち物をバッグに詰めて確認すると思いますが、もしお母さんが復職をするのならば、同じようにやってみるのもいいでしょう。子どもといっしょに「ママの仕事バッグの持ち物確認」をしてみるのです。

年長の子どもがいる場合は、自分の就活に巻き込んで、職務経歴書がうまく正しく書けているかを見てもらったり、自分の10の長所を子どもの視点から挙げてもらったりしてもいいでしょう。

中根:「再就職は家族にとっても大事なことであって、家族のことを忘れているわけではない。いっしょに挑戦したい」という気持ちを、言葉や態度で表すのが大切というわけですね。

コーエン:子どもは、お母さんが家にいなかったらどうしようと心配します。

母親が新しい変化をいっしょに解決しようと誘い、子ども自身がその変化の一部となることで、子どもは安心感を得られるのです。

仕事を始めるからこそ積極的に家族と交流を持ち、パートナーにも頼る時間をもつことが秘訣ですね。

最近は若いお父さんや専門職の男性の方が、理解があります。妻が再就職した夫の話を聞くと、「これまでは子どもといっしょに日々のことをしてこなかったが、妻の再就職以来、子どもの送り迎えの時に、車の中で子どもと会話する時間が持てるようになった」なんてポジティブな感想が出ます。

中根:確かに。

コーエン:インターン同期の友人関係も大切です。同時に同じプログラムを開始するわけですが、同じような境遇の人同士だと"戦友"のような感覚で、1週間に1回はランチをするような大の仲良しになります。

インターン同士、新卒でもなくミドルキャリアでもない、いわば"ハイブリッド"のユニークな立場ですから、悩みも打ち明けられるんです。

田中:サイボウズのキャリアママインターンでも、インターン生同士の横のつながりができていましたね。

日本の人事部にも知ってほしい──再就職者は、熟成した感覚とやる気をもつ、魅力的な就業者なんです

中根:日本企業の人事部は、長いブランクのある人材に対して「スキルが陳腐化してはいないか?」と懐疑的な姿勢を取りがちなのではないかと感じます。

コーエン:アメリカの人事部も同じ心配をしますが、テクニカルなスキルはあくまでもその時代の流行りに過ぎないので、個人的にアップデートが可能です。

テック系企業の再雇用では、自分の責任で、自分の時間とお金を使ってスキルをアップデートしておくことが大切ですね。その人が今の時代に合わせてアップデートされていて、スキルが可視化されていれば、企業はその人の採用を決めますから。

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「パニックになる必要はありません。基本的なITスキルは就職活動の段階で持っておくべきですが、ほかのスキルはキャリアブレイクの最後の方でキャッチアップすれば十分なんです。オンラインコースと取ってみたり、高校生に教えてもらったりしてもいいですし、Microsoftならお店で教えてくれる講習もあります」(コーエン氏)

中根:日本はいままで終身雇用の根強い社会でしたが、今後はキャリアブレイクがあってもなくても、新たな分野やさらなる知識を学び直しできるようになるとよいと感じます。一本道ではないキャリアに対してもオープンで受容的な社会になれば、より個人の活躍と幸せにつながるのではないかと思っています。

コーエン:そういう意味では、企業に対しては、「あなたたちの再就職者への認識は事実と逆ですよ」「再就職者は人生の中で非常にいいタイミングで会社と出会っている」と言っているんです。

再就職者は、育児休暇が終わって、ライフステージも安定している。夫の転勤も少ない。個人的にも熟成した感覚を持っていて、やる気のある魅力的な就業者ですから。

中根:これからの世代は75歳まで働くかもしれませんし、学び直しや再チャレンジは不可欠なのかもしれません。これが受け入れられるようになるといいですね。

田中:再就職希望者を、1人1人プロフェッショナルとして扱っていますね。キャリアブレイクのあるひとが"かわいそう"という扱いではなく、個人がスキルアップしてバージョンアップしてまた職場に戻ってきてね、という姿勢が素晴らしいと思います。

コーエン:そうですね。そして、再就職者には「ブランクがあってごめんなさいと謝らなくていい。あなたはいまからもっと幅広い職業生活へと飛び立とうとしているのですよ」と伝えたいです。

面接でも、自分が一番素晴らしく、適している候補者であると自信を持ち、自分の仕事がまるで昨日やっていたことのように生き生きと詳細に話してもらいます。

日本とは価値観の違いがあるかもしれませんが、日本の企業も、キャリアブレイクを経た再就職者が優秀で使える人材であることを知ってほしい。これは女性だけでなく、男性の再就職者も同じです。

中根:コーエンさんのお話を伺て、非常に勇気をいただきました。私たちのチャレンジは間違っていないんだと。おそらくキャリアママの再就職について、これだけ真剣に取り組んでいるのは日本では初めてではないでしょうか。

個人に自立を求め、再就職者だからと特別視しない。どういう状況であっても働くことや自分の能力を磨くことに責任があることを認識する、そんな社会になっていってほしいです。

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文:河崎 環/撮影:谷川 真紀子

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本記事は、2016年8月10日のサイボウズ式掲載記事「キャリアブランクがあってごめんなさい」なんて謝らなくていい──再就職するママへ、あなたは自信を持って踏み出せるより転載しました。