「殺されていく命」―国家に翻弄される命の軽さ

昨年末、裁判員裁判で死刑判決が下された事件で、初の死刑執行がなされた。
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釈放後、姉のひで子さん(左)と静かな毎日を送る袴田巖さん(写真:寺澤暢紘)

昨年末、裁判員裁判で死刑判決が下された事件で、初の死刑執行がなされた。裁判員制度が作られてから約6年、突然の執行のニュースは驚きをもって受け止められた。

法曹ではない、一般の市民感覚を取り入れるための裁判員裁判である。くじ引きで選ばれた市民が、人を殺めた重大事件に向き合い、裁判に関係する人たちの人生を左右する。重圧を感じる人は多く、特に死刑判決は裁判員の精神的負担が大きいと言われている。今回の執行後、多くのメディアが元裁判員を取材し、その心情を問う記事が複数出された。

元裁判員の一人は執行のニュースにふれ、ついに来たかという気持ちだと率直に語った。その一方で、死刑制度がある以上執行は当然という冷静なコメントを出した人もいた。裁判員には守秘義務が課されるために、元裁判員らは事件についての思いを身近な人に相談することはできない。死刑制度の情報はほとんど公開されていないため、自分の判断を社会は本当に理解できるのかと元裁判員は孤立してしまうかもしれない。自分が裁判員であれば死刑執行に向き合う覚悟はできるのか、裁判員ではない者にとっては、その心情をあくまで想像するしかない。

ともすれば、感情論になりがちなのが死刑にまつわる議論である。しかし、忘れてはならないのは、死刑制度の在り方ではないだろうか。死刑制度を有する国であるから当然執行すべきだというのは、そもそも死刑制度を維持することが前提の考え方だ。

死刑制度は、国家が合法的に国民の命を奪うことのできる仕組みである。民主主義国家である日本でその制度を支えているのは、私たち国民であることは、ともすれば忘れられがちである。法を作っていくのは私たちであって、私たちの権利や自由を制約する法は、私たち自身が決定するものなのだ。死刑制度も例外ではない。制度ありきではなく、制度そのものについて考えることが問われるのではないだろうか。

世界に目を向ければ、強権政治・独裁政権のもとで多くの政治囚が処刑されている。独裁国家でなくとも、ある国では死刑にならない犯罪が、他の国では死刑になる。死刑を停止していた国で、国のトップが変わって再開される。あるいは「テロ」に対する怒りの声に押されて再開される。そうしたことが実際に起きている。為政者の独断や政治的な思惑、感情で人の命の行方が決まるような制度は、許されていいものだろうか。

2014年に、死刑確定者である袴田巖さんを釈放する決定が静岡地裁でなされた。袴田さんは4人を殺害したとして逮捕、起訴され、死刑判決を受けた。それから48年たって、静岡地裁は再審開始を決定し、袴田さんを釈放した。しかし、検察側の抵抗により、いまだに再審は開始しておらず、袴田さんは唯一の拘束されていない死刑確定者として、静岡で暮らしている。狭い独居房で過ごしていた名残から、部屋をぐるぐると歩き回るなどしていたという。

同じように獄中から無罪を叫び続け、袴田さんとは正反対の結果が生じたのは、名張毒ぶどう酒事件の奥西勝さんである。

奥西さんは、昨年10月4日に、八王子医療刑務所で亡くなった。司法制度と闘い、病と闘った生涯であった。死刑確定者として何十年も身体を拘束されるという目にあうのも、国家による仕組みの犠牲である。

私たちは、決して殺された被害者の命を軽んじてはいけない。それと同時に、あらゆる人たちの人権を保障するため、国家が一人ひとりの命の重みを受け止めるよう、命を守る仕組みを考えなければならない。

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~第5回死刑映画週間のご案内~

国家の名のもと「殺されていく命」をテーマに、日本、フランス、スペイン、ベルギーから計8本の映画を一挙上映。

前述の袴田さん、奥西さんを題材にした作品の他、活動家女性を次々と処刑するフランコ独裁政権から姉を助けようと奔走する女性を描いた作品、職業訓練校で息子を殺した青年に仕事を教える男の葛藤を通じ"更正"とは?"赦し"とは?を問う作品、ナチス占領下のフランスでドイツ人将校が暗殺された実際の事件を題材に、ヒトラーによる150人報復処刑命令をめぐる緊迫の物語など、国家に翻弄される命を考えさせられる力作揃いです。

■場所:東京・渋谷ユーロスペースにてロードショー

■上映期間:2016年2月13日(土)~2月19日(金)

■前売鑑賞券:5回券 4,500円/3回券 2,800円/1回券 1,000円

※回数券は複数名でご利用できます。

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