待機児童ゼロを実現した横浜方式は「方法論」ではなく「決断」。
横浜市が「保育所に入れない待機児童をゼロにする」目標を達成したことで、「横浜方式」が注目を集めている。横浜市はかつて待機児童の数が最多だったが、企業経営者出身の林文子市長(写真)が株式会社の参入を強力に推進、待機児童を3年間でゼロにした。安倍首相は成長戦略において横浜市の取り組みを高く評価、他の自治体にも「横浜方式」を導入するよう呼びかけていくという。
横浜市の実績については、待機児童が完全にゼロになったわけではないなど批判の声もある。だが林市長の強力なリーダーシップによって、他の自治体ではなかなか実現できなかった待機児童減少を実現した手腕は、素直に評価すべきだろう。
だが横浜市の取り組みを「横浜方式」という、方法論にする論調には疑問の声も聞かれる。横浜市は待機児童を減少させるために、何か特別な方法を用いたわけではないからだ。
待機児童の問題は以前から自治体における重要な政策課題であった。基本的には保育施設の新規参入を増やせば問題は解決するにもかかわらず、これが実現できなかったのは、既存の保育施設を運営する団体(社会福祉法人など)が新規参入に対して猛烈に反対していたからである。
社会福祉法人の多くは、新規参入、特に株式会社の新規参入を認めると保育の質が落ちると主張している。その是非をめぐって結論が出ず、各自治体では長年にわたって待機児童を放置してきたというのが実態である。
林市長は、株式会社の新規参入が促進されるよう、決め細かい対応を行ったといわれているが、基本的に林市長が行ったのは、新規参入を増やすという決断だけである。
今後、各自治体で同じ試みを実施した場合、やはり既存の施設運営者からの強い反対が予想される。だが横浜市の取り組みを方法論にしてしまうと、反対が強くて導入できなかったのか、やり方がよくなかったのか、問題の本質がすり替わってしまう恐れがある。
保育施設の運営に株式会社を参入させることについては、当然メリットとデメリットがある。本来は双方の立場の代表者が堂々と自説を述べ、最終的には住民が判断すべきことである。この問題は政治的マターであり、技術的マターではない。
横浜市の具体的な取り組みを普及させるのは大歓迎だが、技術論、方法論に矮小化してしまい、不透明なまま政策が頓挫するような事態だけは避けて欲しいというのが、各地の住民の本音なはずである。求められているのは「横浜方式」ではなく、林市長が見せた「決断力」である。
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