わが国の貴重な麻(大麻)の伝統を守るために必要なこと

無害な大麻の栽培を禁ずることが、薬物まん延の芽を摘むことになるとは思えません。また、無害なら盗難にはそれほど気をつかわなくてもよいのではないでしょうか?

■残念な三重県の対応

新年早々、各新聞は「神事用大麻栽培不許可」と伝えました。

「神事に必要な麻を確保したいと、伊勢の神社関係者らが栽培免許を申請したが、三重県は許可しなかった」という報道です。このままでは日本の大麻(麻)の栽培が途絶えてしまうという危機感からの申請でした。

皆さんはこの報道をどのように受け取られたでしょうか?

新聞によれば不許可の理由は「薬物まん延の芽を摘むため」と「盗難防止策が不十分」ということです。しかし、申請者は、無害な品種を厳格な管理の下で栽培すると約束しています。無害な大麻の栽培を禁ずることが、薬物まん延の芽を摘むことになるとは思えません。また、無害なら盗難にはそれほど気をつかわなくてもよいのではないでしょうか?

三重県は何を恐れてこの決断をしたのでしょう。

■必要なのは区別をして考えること

大麻栽培の免許は、各都道府県知事が出すことになっています。しかし、その決定に際しては、当然厚労省麻薬対策課の意向が反映されます。今回の三重県の決断もそうした影響によるものと思います。

昨年11月厚労省麻薬対策課は、最近起こった一連の大麻事件を受け、栽培免許審査の厳格化を求める通知を都道府県に出しています。それに伴い「ご注意ください!『大麻』栽培でまちおこし!?」と題したパンフレットも作り、『大麻』に対するネガティブキャンペーンを始めました。

無害な『大麻』も悪と決めつけ、貴重な伝統を守る生産者や、『産業用大麻』による農業活性化の試みさえも、窮地に追い込みかねない内容のパンフレットで、やりすぎではないかと批判する声も聞かれます。

「国民は、無害な『大麻』と有害な『大麻』の区別がつかない。全てをひっくるめて『恐ろしいもの』というイメージを植え付けておくのがよい」との判断による作戦なのかもしれません。しかし、この方針を続ければ、わが国の貴重な麻栽培の文化は更に衰退し近い将来消滅してしまうでしょう。

「『大麻』には有害なものと無害なものがある。元来日本の『大麻』は無害であり大切にされてきた。『有害大麻』とは区別して、健全な『日本の麻』の伝統を守っていこう」という方針に転換すべきではないでしょうか。

区別するには、基準作りなどが必要で、それは大変な手間がかかるかもしれません。ですが、わが国の貴重な多くの伝統文化を支える麻が絶滅の危機に瀕していることに鑑み、厚労省麻薬対策課には緊急の対応を求めます。そのためには、大麻を薬物としてだけでなく農産物としても位置づけ、農林水産省との共同管轄とすることも必要でしょう。

(参考:置き去りにされた作物としての視点 http://medg.jp/mt/?p=6856

■盗難されない、薬物まん延につながらない大麻の栽培は可能

実は、すでに盗難と濫用を防ぐ体制を30年以上前に確立している地域があります。それは、特産品として生産を続けている栃木です。詳しい資料が、栃木県公式Webサイトに掲載されています。それには、以下のようなことが書かれています。

「わが国の麻(大麻)は元来無毒であった。栃木においては、1950年ころ海外の有毒麻と自然交雑し、南押原一号という品種の麻が有毒化した。1974年ころには、ヒッピーブームの影響でマリファナ吸引を目的とした大規模な盗難が相次ぐようになり、生産者は大変に困った。そこで生産者達は、無毒の品種を作るべくプロジェクトを始動。約8年かけて1982年に無毒麻品種『とちぎしろ』を完成。以来、厳格な管理の下、無毒を維持。その甲斐あって盗難はなくなった。」

(参考:栃木県農業試験場 http://www.pref.tochigi.lg.jp/g59/documents/prox06asa.pdf

この事例は、日本でも盗難や濫用につながらない安全な大麻栽培が可能であるということを示していると思うのですがいかがでしょうか?

そしてもう一つ、昨年秋に起こった鳥取県智頭町の事件でも、問題になったのは外から持ち込まれた大麻であったことを忘れてはいけません。現地で許可を受けて栽培された大麻が盗難にあったわけでも、薬物として使われたわけでもないのです。

これはつまり、たとえ関係者が危険な人物であっても管理さえすれば、安全な大麻栽培が維持できるということを示していると思います。大麻そのものは何も悪くない、問題は人物、つまり教育や考え方なのではないでしょうか?

(参考:「大麻は悪」という印象だけ残して思考停止していいのでしょうか? http://medg.jp/mt/?p=7097 )

■マリファナ解禁派に惑わされないためにも区別して考える

有害大麻の吸引を広めたいと考えるいわゆる「マリファナ解禁派」と呼ばれる人たちは、厚労省とは逆に大麻をすべてひっくるめて『良いもの』とするイメージ戦略、いわばポジティブキャンペーンを展開しています。

現在国民の多くは『大麻はすべて恐ろしい薬物』というイメージを信じています。そういう状態で突然、古来より大切にされてきた麻も同じ植物であると知らされると整合性が取れず混乱する場合も見られます。その混乱に乗じて、歪んだ情報を与え仲間を増やそうとしているように見えます。

例えば、「日本では戦前まで大麻を自由に栽培し、吸引も自由にできた。禁止したのは日本文化を弱体化させるためアメリカが仕組んだ陰謀である。だから、大麻は吸引も含め自由にすることが正義だ。」というような理屈です。

もちろんそれは事実に反します。日本では戦前、自由に大麻を栽培していましたが、在来の大麻に限ってです。戦前からちゃんと大麻には有害な品種があると認識し濫用防止に努めていました。

昭和5年に実施された「(旧)麻薬取締規則」でも、外国の有害品種を「インド大麻草」と呼び麻薬に指定し規制しています。アメリカに強制されたから濫用を禁じたのではありません。

このように正しい知識を伝え、区別して考えられるようにすることは、「マリファナ解禁派」への対策になり、薬物まん延の芽を摘む効果もある私は考えています。

■まとめ

一部の国では、薬物乱用防止政策の失敗により、マリファナなどドラッグとしての大麻がまん延してしまいました。例えばアメリカでは4割を超える人がすでに使用経験者です。そのため、合法化して管理するほうが害が少なくなるのではないかと議論されるようになってきました。

(参考:主要な国の薬物別生涯経験率 http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/torikumi/dl/index-05.pdf )

日本は、薬物汚染の少ないクリーンな国。従って教育や取り締まりを徹底し、まん延の芽を断つことが肝腎。大麻の嗜好利用解禁などもってのほかというのが、日本人としての良識だと考えています。

元来日本人は、無毒な大麻を生活に活かし、素晴らしい文化を築きあげてきました。そもそも日本の麻は濫用とは無関係。大麻の嗜好利用解禁とごっちゃにして論ずることは避けるべきです。そのあたりの区別を多くの人が理解できるようになれば、日本の麻の貴重な伝統を守り、麻の良さを活用できる国になっていくと思います。