2人に1人ががんになる時代。先輩患者の体験談は貴重になる。がん患者や家族がいつでもつながれるオンラインコミュニティーを。

現実には、自分と似た状況の先輩患者に出会うのは難しい。

 生涯に2人に1人ががんになる時代。しかし、一口にがんと言っても、がんの種類や進行具合、患者の年齢、性別、職業、家族構成などによって、治療の選択肢や生活上の工夫などが全然違ってくる。たとえば同じ肺がんでも、タイプによって治療法が異なる。

 だからこそ、がん患者(サバイバー)や家族にとっては、先輩患者の体験談が貴重になる。医師に聞けない本音やさまざまなヒントを見つけられる可能性もある。

 しかし、現実には、自分と似た状況の先輩患者に出会うのは難しい。

 そこで、日本対がん協会は、がんサバイバーや家族らが、いつでもどこでもつながれるオンラインコミュニティー「がんサバイバー.net(仮称)」を計画している。同協会が昨年6月に立ち上げた患者・家族支援の事業「がんサバイバー・クラブ」のサイトが入り口で、提携先の医療IT企業のサーバー上に築く。今年度のオープンを目指す。

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がんサバイバー・クラブのサイト

 多くのサバイバーの要望も聞いて固めてきた構想は、こうだ。

●登録制でつながる

 安全性を考えて登録制にする。登録者は、がん種、地域、病院名、使っている薬などによるキーワード検索で、他の登録者とつながれる。どこまで公開するかは、フェイスブックのように「公開」「友達に公開」「非公開」から選べる。ブロックもできる。

 こうして出会った登録者同士で、治療や生活に関する情報交換をしたり、悩みを相談したりできる。誹謗中傷や批判合戦には、事務局で適切な対応をとる。

●個人用の記録にも対応

 マイタイムラインという機能を利用すると、自分の体調や薬の服用状況、検査結果などを記録できる。キーワード検索も可能なので、医療者と話すときなどに有用だ。ほかに、日記やエッセーを書く機能もあり、希望すればサイト内で公開できる。

●患者会やグループの立ち上げ

 共通項が多く親しい登録者が増えてくれば、サイト内で患者会などのグループも立ち上げられる。つながりがより太く、深くなってゆく。

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サバイバーの人たち(写真左側)と日本対がん協会の打ち合わせ=東京・銀座

●ホームページ更新のヘルプ

 すでに活動している患者会にとって悩ましいホームページの更新にも対応する。がんサバイバー.netのサーバー上でホームページをつくれば、ITの知識がなくても簡単に更新できるようにする。また、イベントの通知も容易に行える。

●シンプルな操作

 入院中だったり体調が思わしくなかったりしても利用できるように、がんサバイバー.netの画面はシンプルで簡単な操作にする。寝ながら入力しやすいことを目指す。

 日本対がん協会の横山光恒・がんサバイバー・クラブマネジャーはこう話す。

「日常生活では出会えない患者同士の交流が芽生え、孤独の解消や有用な情報の入手に役立つことを目指します。患者会もできて、5000人、1万人が活発にやりとりしている場にしたい。自分の経験が別の方の役に立つことは、生きがいにもつながるはずです」

 同協会では、朝日新聞社のクラウドファンディング「A-port」で、5月末まで支援を募っている。目標は300万円。支援金は、システムの開発費用などに充てる。詳細は、https://a-port.asahi.com/projects/gsc_walk/

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がんサバイバー支援のウォークで、新潟市内を歩く垣添忠生・日本対がん協会会長(中央)=4月13日

 現在、同協会の垣添忠生会長(77=元国立がんセンター総長)が、がんサバイバー.netの構築も視野に入れた患者支援を訴えて、全国ウォークを展開している。2月5日の福岡市を皮切りに7月下旬の札幌市まで約3500キロを9回に分けて、できるだけ歩いて主な病院を訪ね、患者の声に耳を傾けている。

「お金の切れ目が治療の切れ目になりかねません」

「転移はないが、(高額な免疫系の薬の)オプジーボのやめどきが難しい」

「女性の腎臓がんの患者会がなくて......」

「がん経験者は自分の体験を公表したほうがいいと思います」

 垣添会長が聞いた言葉の一部だ。地方に住んでいたり希少がんだったりすれば、患者会を探すことさえ楽ではない。首尾よく患者会が見つかっても、行ってみたら、境遇の違いから逆に距離感を覚えてしまうこともある。

 患者の人たちの切実な声からも、がんサバイバー.netの必要性が浮かび上がってくる。

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がんサバイバー支援のウォークに立つ前の垣添会長。緑がシンボルカラーだ