CAMPFIREが社会課題のサブブランドを分社化「いいインターネットをつくる」新社長の本音

個人主義に陥らないインターネットの未来とはーー?

インターネットを通じて、不特定多数の人から資金を募る「クラウドファンディング」サービスを提供する「CAMPFIRE」。

3月に、累計流通額(支援資金の総額)が100億円を突破し話題となったが、4月4日に「ソーシャルグッド」に特化した、クラウドファンディングサービス「GoodMorning」(グッドモーニング)を分社化すると発表した。

社長に就任するのは、これまで「GoodMorning」の事業責任者をしていた酒向萌実さんだ。

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株式会社GoodMorningの代表取締役社長に就任した酒向萌実さん

なぜCAMPFIREのブランドを捨てて、新たに株式会社GoodMorningを立ち上げることになったのか。

「社長になりたかったわけではない」と話す酒向さん。クラウドファンディングの明暗を見つめてきた彼女にとって、分社化は「いいインターネットをつくる」挑戦だという。クラウドファンディングを通じて考える、個人主義に陥らないインターネットの未来とはーー?

GoodMorning」:2016年、CAMPFIREのサブブランドとしてスタートした、「ソーシャルグッド」に特化したクラウドファンディングのプラットフォーム。2019年4月4日に株式会社GoodMorningとして分社化。

ーー「GoodMorning」を分社化する理由は?

社会問題に取り組んでいる人たちにクラウドファンディングを使っていただいて、2年半ほど経ったところです。

ただ、クラウドファンディングでプロジェクトを支援する期間は、1回で最大80日なので、どうしても一時的なキャンペーンになります。一度お金を集めただけでは、足りないことがある。

もっと継続的に、クラウドファンディングをやった後、お金をどう使っているかを発信したり、クラウドファンディングを始めたいけれど、まだ賛同者とコミュニケーションを取りきれていないと感じる人には、そこからサポートしたりする必要があると感じていました。

ただ(CAMPFIREの)サブブランドのプラットフォームとしてやっていくよりは、社会問題に取り組む人を一貫してサポートして行けるような体制を作っていきたい、というのが理由です。

ーー1回かぎりのクラウドファンディングに限界を感じる部分もあった?

例えば、「スタディクーポン」のプロジェクトが典型的ですが、市民からお金を毎回集めても、「構造的に」課題を解決できるわけではありません。

 

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お金がなくて塾に通えない目の前の子どもを、100人、200人を助けることは、1回のクラウドファンディングでできると思いますが、そういう子どもをこれ以上増やさないために何ができるか。

課題自体にアプローチして解決するには、クラウドファンディングでは全然足りません。

制度にしないといけない。法律を変えないといけない。そもそも文化を変えていかないといけない。

クラウドファンディングでは課題を構造的に解決できないことを、ある意味(事業者の)私たちも認めないといけない。その上で、ちゃんと課題自体にコミットしていきたいと思って分社化することにしました。

ーー「スタディクーポン」は、クラウドファンディングを実施する段階で、自治体(渋谷区)や事業団体が参画して、課題を構造的に解決する座組みにトライしていたように思いましたが。

あのときは、クラウドファンディングは1回しかやらないつもりで、予算化を目指していました。

 

ーー今後はそんな取り組みを、プラットフォームの枠を超えて、もっと主体的に能動的に仕掛けていくと。分社化の構想はいつから?

社内で「やろう」となったのは、2月です(笑)。

私個人としては、(社会課題のプロジェクトを)「これってクラウドファンディングでお金を集めていいのかな?」という気持ちがありました。

「子ども食堂をやります」となったときに、活動するためにはお金が必要で、それはサポートして一緒に集めたいと思うんですが、そもそも「子どもがおなかをすかせていることが、いかん」と。

子どもや子どもを支援している人だけが解決しなければいけない問題か、といわれたらそうではない。解決するべきは、個人ではなく社会ですよね。

一方で、クラウドファンディングが広がることは、「じゃあ、自分で解決しなよ」という流れを後押ししてしまうことになりかねない。すごく大きなリスクだと思っていました。

ーーたしかに、選択肢として広がったことで「だったら、クラファンやればいいじゃん」と言われかねない。自己責任につながる可能性もありますね。

私は、それは“悪いインターネット”だと思うんです。

個人の問題じゃなくて、社会課題としてみんなで向き合って、社会で解決しよう。そういう見せ方にも、私たちは取り組んでいかなければいけないと感じています。

ーーそれは日々、現場で感じていたことですか?

そうですね。例えば、離島の中学生が部活の遠征費をクラウドファンディングで集めたことがありました。

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離島に住んでいる子たちは遠征に行けない。でも離島で生まれたことは悪いことじゃない。ですから、生まれた場所が離島だから遠征に行けないなら、クラウドファンディングで集めなよ、といいたくはないです。

すぐに制度は変わらないし、制度が変わるには時間がかかるので、一歩を踏み出してほしいと思っているんですけど......それによって、社会に対して「困っているんだったら、自分でクラウドファンディングでもなんでも頑張ればいいじゃん」という発信をしてしまっているのではないか、という不安は常に抱えていました。

だからこそ、なるべく個人の取り組みにはフォーカスするけど、個人的には「そもそもどういう課題があるのか」という発信をするように気をつけていました。

ーー過去に、どんな社会課題解決のプロジェクトがありましたか?

印象的なものだと、2018年のタトゥーの裁判のプロジェクトがあります。日本で初めて裁判費用を集めたクラウドファンディングでした。 

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裁判の内容がタトゥーだったので、タブー視されているなどネガティブな印象からのスタートでしたが、個人が立ち上げたクラウドファンディングで、その逮捕が不当で、職業選択の自由が奪われる、社会にネガティブな影響があることを伝えました。

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タトゥー裁判のプロジェクト紹介より。
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この裁判では、タトゥーのことは詳しく知らないけれど、アーティストの人たちが自分ごと化して捉えてくれました。一審で有罪となり、高裁で逆転無罪になりました。

ーーなぜいま分社化するのでしょうか?  クラウドファンディングはある程度認知されて、各事業者も次の展開を考えているように思います。

CAMPFIREとして、ソーシャルグッド、社会解決に取り組む人たちの分野は強化していくべきだということが、この2年半でわかったのが一番大きい。

クラウドファンディングによって社会課題の解決が加速化できる分野がもっとあるはずだと。だからこそ、全体のサブブランドという位置付けではなく、分社化することで、スピードも上げられて柔軟に動いていけると思っています。

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株式会社GoodMorningの経営メンバー。(左から) 大東洋克さん、酒向萌実さん、家入一真さん、中川峰志さん
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ーー一方で、分社化すると、CAMPFIREの看板を使わずに「GoodMorning」を一から認知してもらうことになります。

看板を使わないのはハードルが高いですが、CAMPFIREと私たちが目指すものは、違う。新たな名前と看板を持っていく覚悟はあります。

CAMPFIREは、小さな火を灯しつづけるという思いから生まれました。前向きな一歩を応援する、クラウドファンディングのサービスです。

GoodMorningは、社会問題に向き合う。怒りにも悲しみにも寄り添いたい。必ずしもポジティブになる必要はないと思っています。

 

ーー「GoodMorning」という名前の由来は?

実は、アメリカ公民権運動の指導者だったキング牧師が言った言葉です。

「I Have a Dream」のスピーチで、100年前の奴隷解放宣言を「彼らの長い夜に終止符を打つ、喜びに満ちた夜明け」(“a joyous daybreak to end the long night of their captivity”)と表現して、次の壁を越えるための戦いの始まりを宣言しました。

最初に、夜明けを迎えた100年後も、彼らはつぎの「夜明け」を諦めませんでした。

一度、夜明けがきたのにまた真っ暗だな。何度でも変えられたと思っても、まだ課題は出てくる。みんな太陽の下に一回集まれば、どうにかして乗り越えられる。

GoodMorningという名前は、どうしても朝にフォーカスされると思いますが、実は夜の暗闇が大事なんです。怒ることしかできない人もいる。そこを置いてきぼりにはしたくないと思っています。

ーー手数料はどうなりますか? CAMFIREとの違いは?

CAMPFIREは、12%と決済手数料(全体で17%)です。GoodMorningは、もともと「社会課題に取り組む人にとってより使いやすく」と考え、14%に設定していました。今後も継続して14%でやっていきます。

GoodMorningでは、金額の規模は関係なく、より安心して支援できるようにしっかりと審査し、より社会を本質的に変えるプロジェクトを多く掲載していくことを目指していきます。

ーー社会課題に声をあげる取り組みとして「change.org」など署名サイトもあります。

署名も大事です。ツイートしたり、友だちに話したりするだけでなく、まず声をあげることができます。

私たちができるのは、お金の流れを作ること。いままでは、クラウドファンディングという1回の資金調達のサポートに限定されてきましたが、活動を継続的にやっていくため、戦略的に取り組んでいきます。

今後は、ソーシャルグッドに特化した会社として独立することで、SNSでのキャンペーンや、政策化に向けたアクションのサポートなどもはじめていく予定です。change.orgさんとも、ゆくゆくは一緒にやっていけたらと話しています。

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ーー酒向さんは「個人主義に陥らないインターネット」と表現されていましたが、現状のインターネットについての課題意識や、今後の抱負を聞かせてください。

インターネットによって、個人が発信しやすくなり、NOといいやすくなりました。またインターネットで、個人が食べていけるようになりました。個人の力で生活できるようになったのは、いいことだと思っています。

個人が頑張らなきゃいけないときもあるし、頑張れる人はやっていけばいい。でも、個人の責任ではどうにもならないこともたくさんあります。

私自身も、社長になりたいと思ったことはない。守られたところにいて働きたいという思いもわかる。個人でできる人とそうでない人、どっちの方がイケてる、どっちが頑張っていて大変という話ではない。

インターネットの使い方を、もう一度考えるときだと思います。だからこそ、GoodMorningは、“いいインターネットの使い方”を模索していきたい。

自分もインターネットが好きで、「インターネットがあってよかった」と思っているので、これからのいいインターネットの使い方を率先して実践していきたい。

だから、家族や友人には、(会社の代表になることについて)「“いいインターネット”にすることにする」と伝えました(笑)。

クラウドファンディングを通じて、社会課題の構造に向き合うこと。

継続的にサポートすること。ちゃんとプロジェクトを審査して、事実に基づいた記述をして、資金の使い方を示すこと。自分ができうる“いいインターネット”を作るために、「守り」のインターネットをする。それが自分が責任を持ってやることです。