カンボジア:野党議員の約半数が逮捕を恐れ国外へ 与党は野党解党を求め提訴

国会議員の間では「いつ自分が逮捕されるのだろうか」という恐怖が広がっています。

カンボジアでは直近1か月で野党議員の約半数が、政府からの逮捕を恐れ、国外へ逃れています。

いったい何が起きていると思いますか。

事の発端は、今年9月に最大野党救国党、党首のケム・ソカ氏が「国家反逆罪」によって逮捕されたことです。国家反逆罪など名目上であり、来年の総選挙に向けてフン・セン首相率いる与党が勝利を収めるために他ならないという疑念が晴れません。

そのため、国会議員の間では「いつ自分が逮捕されるのだろうか」という恐怖が広がっています。

ケム・ソカ氏の逮捕に続き、10月3日、同じく最大野党の副党首であるム・ソクア氏に逮捕勧告が出ました。

彼女は、カンボジアの国会議員でも珍しい女性議員であり、

これまで女性の人権問題や権利向上に尽力してきました。

カンボジアの縫製工場で働く女性をはじめ、国民の間で人気を集めており、

女性のリーダーとして国を引っ張ってきました。

プノンペンポスト紙によると、フン・セン首相は3つの地方都市で失礼なスピーチをした人間がいると言及。その人物が、ム・ソクア氏でした。

そのため、彼女はやむなく国外に退去させられてしまいます。

出国後、日本経済新聞のインタビューで、ム・ソクア氏はこう主張しています。

  • 公正な選挙実施などに向け、日本を含む援助国に「ビザの発給制限や技術援助の休止などの制裁に踏み切るべきだ」
  • 「国際社会が中国にマヒさせられてはならない。日本などが結集し(民主的な政治を求める)声を発してほしい」
  • 「援助国が支援を続けることは政権を後押しするのに等しい」
  • 「援助の休止で民主主義の優先順位の高さがはっきりする」
  • 「国民が投票をあきらめてしまう事態をとても恐れている」

その後、フン・セン政権は6日、政権転覆をはかったとして、野党・救国党の解党を求める訴えを最高裁判所に起こしました。

カンボジア人の政治活動家であるハイワンナー氏は、「フン・セン首相は野党の解党をしないのではないか」と見ています。

その理由について「国際社会のカンボジアに対する目が厳しくなっているからです。様子を見ながら野党を解党するか決めるでしょう。カンボジアの裁判所は、フン・セン首相の一声によって彼の思い通りになります」と分析しています。

これが32年というアジア最長の在任期間を誇るフン・セン独裁政権であり、

汚職ランキングでは東南アジア最低順位の象徴です。

9月29日、日本が議長国として開かれた国連人権理事会において、

「カンボジアの人権状況」に対する話し合いが行われました。

外務大臣である河野太郎氏は、自身のブログでカンボジアを巡る国際社会の状況についてこう綴っています。

9月29日、ジュネーブで日本外交がまた一つ、小さな、しかし、明るい光をともしました。

ジュネーブで開催中の国連人連理事会で、日本はカンボジアの人権状況を改善させるために、対立する欧米諸国とカンボジアの間を調整し、カンボジアも参加した決議案をコンセンサスで採択させました。

日本は、カンボジアにおける人権状況を懸念し、カンボジア政府自身による人権状況改善の取り組みを促すために、国連とカンボジア政府が協力し、来年3月に国連から書面で人権状況の改善について報告させるという決議案を人権理事会に提出しました。

アメリカは、来年7月に予定されているカンボジア国政選挙を前に、カンボジア国内の人権状況が懸念されると、来年3月の人権理事会において国連による口頭の報告とインタラクティブダイアローグを実施すべきと主張し、これらを追加する修正案を提出しました。

これに対してカンボジアは非常に強く反発し、この決議修正案が採択された場合には、決議から離脱すると表明しました。

アメリカ案には英国、スイス、ドイツ、オランダなどヨーロッパ諸国が賛成したものの賛成は12か国にとどまり、日本などアジア、アフリカ、中南米20か国が反対し、サウジアラビア、韓国、ブラジルなど15か国が棄権し、否決されました。

その後、日本提案が無投票で欧米諸国もカンボジアも含めたコンセンサス採択されました。

例年の決議案と比べるとカンボジアの人権状況への懸念を明記し、カンボジア政府からの人権状況を報告させるなどの譲歩引き出しながら、カンボジア政府を決議の中にとどまらせることにも成功しました。

決議に際し、修正案に賛成したアメリカ、EU、スイスからも、日本の調整努力に感謝するとの発言があり、当事国カンボジアからは日本の調整努力への感謝を示したうえで、人権や民主主義にコミットしていくとの発言がありました。

これからも、日本は、アジア、アフリカ、中南米の人権や民主主義の前進に向けて努力する一方、欧米とそれらの国々との対立をやわらげる独自の視点での外交を進めていきます。

来年3月の報告では手遅れになるのではないかと感じていますが、「カンボジアの人権状況」について、

希望をもたらしたと言えるでしょう。

最後に、私は先日、廃刊に追い込まれたカンボジア・デイリーの発行責任者であるデボラ・クリッシャー・スティールさんと約2時間、話し合いをしました。

ポル・ポト政権崩壊後の混乱のさなかからカンボジアのジャーナリズムを創り上げてきた彼女はこのように話していました。

「最大の心配事は、カンボジア人の優秀な若い人たちが自国に絶望し、生きる道を海外で探してしまうことだ」

日本はカンボジア国民の「絶望」に加担していないだろうか。常に自分自身に問い続けていきたい。