睡眠時間の長さは、脳の神経細胞に出入りするカルシウムによって制御されていることを、東京大学と理化学研究所の研究グループがマウスの実験とコンピューター解析を組み合わせた研究で解明し、このほど米科学誌ニューロン電子版に発表した。睡眠障害のほか睡眠に影響するうつ病などの精神疾患の研究に役立つ可能性がある成果だ。
ヒトを含む哺乳類の睡眠や覚醒の時間は一定に保たれているが、詳しいメカニズムは分かっていなかった。例えば体内時計に関係する遺伝子は特定されていたが、体内時計とは別に睡眠時間を直接制御する遺伝子は不明だった。
東京大学大学院医学系研究科の上田泰己(うえだ ひろき)教授らの研究グループは、神経細胞のコンピューターモデルを作製。その解析からカルシウムがイオンの状態になっているカルシウムイオンが睡眠時の脳波に関係しているのではないかと予測した。
次にこの予測を実証するため、神経細胞の細胞膜でカルシウムイオンの出し入れを担うポンプとなっているタンパク質を欠くなどの21種類の遺伝子改変マウスを作った。
マウス実験の結果、神経細胞にカルシウムイオンを取り込むことができないように改変したマウスの睡眠時間は、正常マウスより顕著に短くなった。逆に、カルシウムイオンを排出する働きが弱くなるように改変したマウスは正常マウスより顕著に長く眠った。
さらに、睡眠時間が短くなったマウスの脳を高解像度で観察したところ、カルシウムイオンを取り込めないと、神経細胞は活発に活動して興奮状態が続くことも明らかになった、という。
これらのことから研究グループは、睡眠時には脳の神経細胞内にカルシウムイオンが流入し、起きている時は細胞外へ流出するとみている。
この研究は、科学技術振興機構(JST)の支援事業・研究開発領域(2015年4月から日本医療研究開発機構に移管)の一環として行われた。
関連リンク
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