石破幹事長はなぜ安全保障法制担当相就任を固辞するのか?

石破氏といえば次期総理総裁の最有力者と目されている大物政治家である。そういう人物が何故、ここまで安全保障法制担当相就任を固辞するのか実に興味深い。
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Shinzo Abe (R) chats with Secretary General of the Liberal Democratic Party (LDP) Shigeru Ishiba (L) before voting to elect a new prime minister at the lower house of parliament in Tokyo on December 26, 2012. The powerful lower house named the 58-year-old Abe as the country's new leader following a resounding national election victory for Abe's LDP earlier this month over the booted Democratic Party of Japan (DPJ). AFP PHOTO/Toru YAMANAKA (Photo credit should read TORU YAMANAKA/AFP/Getty Images)
TORU YAMANAKA via Getty Images

朝日新聞の伝えるところでは、9月3日に自民役員人事と内閣改造 石破氏の処遇争点にとの話である。石破氏といえば次期総理総裁の最有力者と目されている大物政治家である。そういう人物が何故、ここまで安全保障法制担当相就任を固辞するのか実に興味深い。

この点にスポットライトを当てて深堀して行けば、安倍政権の此処までの経済運営による歪や、外交・安全保障の危うさが焙りだされるのでは?と推測する。仮に石破氏が安倍政権の進める「アベノミクス」は実質破綻しており、安倍内閣の余命は長くないと判断しておれば、閣僚ポストを固辞する事で、次の総裁選で「ポスト安倍」を目指す事を党内に告知し、党内の反安倍勢力を結集出来るかも知れない。少なくとも次の総裁選を視野に手勢を養う事が可能である。

今回はこういった観点から論考を試みたい。尚、私は政界の裏情報に通じている訳でもない普通の一国民に過ぎない。従って、これから書く文章はネットに公開された情報を基に推論したものに過ぎない事を予め断っておく。

安倍晋三首相は26日の自民党役員会で、9月3日に党役員人事と内閣改造を行う方針を表明した。石破茂幹事長が交代する可能性が高まる中、石破氏の処遇と後任幹事長が焦点になる。首相は党役員会で「現体制で政権を支えてもらい、1年8カ月、様々な成果を出してもらった。まだ道半ばであり、今後もあらゆる立場で支援をしてもらいたい。安全保障、地域創生、日本を取り戻す第2章が始まるので、人心を一新したい」と語った。首相は石破氏に対し、安全保障法制担当相への就任を求める意向だが、石破氏はこれを固辞する構え。2人は党役員会で並んで座ったが突っ込んだやりとりはなく、改めて会談するとみられる。

石破氏は「アベノミクス」の失敗を確信している?

BBCがFrench ministers resign in economy rowと伝えている。記事内容は、オランド大統領が推進する緊縮財政政策を批判して、仲間のアモン国民教育相とフィリペティ文化相を引き連れ、モントブール経済相が辞任した事を報じたものである。

「もって他山の石となす」という諺もある。上記展開は次期総理総裁を目指す石破氏に取っては勿論好ましいものではない。仮に、「アベノミクス」が経済政策として誤ったものであり、一からの見直しが必要である事が明らかになったとしても、それを批判したり、見直しを主張する事は、矢張り閣内にあっては、「無責任」、「反逆」、「造反」などの誹りを受けてしまいがちである。

「アベノミクス」とは結局何だったのか?や、「アベノミクス」とは国民窮乏化施策なのか?で詳細な説明をした通り「アベノミクス」は実質破綻している。日銀の「異次元の金融緩和」により確かに物価は上昇したが景気はちっとも良くなっていない。一方、実質雇用者報酬は減少している。これでは、「アベノミクス」は日本経済、国民生活双方に取っての疫病神というしかない。

石破氏は来年10月の消費増税に反対なのでは?

予定通り、来年10月に消費増税を実施出来るか否かが次期安倍政権の最重要課題である事は間違いない。消費増税に賛成する代表的な意見は、「消費税率引き上げは既に国際公約であり、万が一先送りすれば日本の財政規律回帰が遠のき、その結果、国際的な信用が失墜し、日本国債の暴落、金利の急上昇を招く危険性がある」というものである。この意見は勿論正論であり、否定出来ない。

一方、代表的な反対意見は、「内閣府が公表した、2014(平成26)年4-6 月期GDP速報(1 次速報値)によると、実質国内総生産(GDP)は年率換算マイナス6.8%となり、東日本大震災のあった2011年1-3月期以来の大幅な落ち込みとなっており、この状況で消費増税に踏み切るのは日本経済に取って自殺行為」というもの。

これは、奇しくも上述したフランス、モントブール経済相の主張に等しい。これも又立派な正論である。安倍政権に取って辛いのは、国民の実質雇用者報酬が減少している事実である。既に充分貧しくなってしまった国民に対し新たに課税するという施策に対しては、今後自民党内からですらかなりの慎重意見が出て来ると予想する。

消費増税に突き進むしかない安倍政権

安倍政権に取って辛いのは自民党内にどれ程造反があろうが、野党から厳しく追及されようが消費増税に只管突き進むしかないという、安倍政権がおかれた状況である。そもそも、実質国内総生産(GDP)落ち込みを理由に消費増税を先送りすれば、自ら「アベノミクス」の失敗を認めた事になってしまう。

更にいうと、来年度は、安倍内閣が閣議決定した財政健全化目標の達成が強く求められる。つまり、2015年度の国と地方の基礎的財政収支の赤字(対GDP比)を、2010年度の半分に減額せねばならない。安倍政権が魔法の杖でも持っていない限り、消費増税を先送りしての達成は不可能であろう。

消費増税に向け形振り構わぬ安倍政権

消費増税決定は来年度予算編成のスケジュールから年末までには実行されねばならない。従って、安倍政権としては11月中旬に公表されるであろう2014(平成26)年7-9月期GDP速報(1 次速報値)で何としてもV字回復を達成し、これを根拠として消費増税を決定せねばならない。

一方、Bloombergは日銀担当官の発言を引用しながら0%台のGDP成長を冷徹に予言している。安倍政権は政権維持を望むのであれば、副作用、竹箆返しなどに配慮する事無く、遮二無二GDPV字回復のための施策を実行せねばならない。将来の日本経済や国民生活に禍根を残す事になってもである。

日経新聞の伝える、建材高、背景に公共事業前倒し 景気対策で予算執行加速は分り易い実例である。土地取得を伴わない公共事業は乗数効果が高いので尻に火が付いた安倍政権がこれに飛びつくのは予想通りである。これでは資材価格上昇や人手不足といった局地的なインフレを発生させながら、景気は良くならないといったスタグフレーションの懸念が払拭されない。

政府が公共事業を前倒しで実施していることも、資材需要の拡大につながっている。2014年度予算と13年度補正予算に盛り込んだ公共事業は、6月末時点の契約率が前年度の実績を大きく上回っている。消費増税後の景気を下支えする目的で、政府が予算執行を加速しているためだ。

一方、株式市場にも年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の資産を株式市場で運用するという大義名分の下に暴落予防のため年金資金の投入にも躊躇しない。何度も繰り返して恐縮だが、「アベノミクス」が成功し、その結果、企業収益が改善し、株価が上昇するのであれば勿論何の問題もない。好ましい好循環といえるだろうし、「アベノミクス」成功の果実としての株価上昇と理解して差し支えない。

しかしながら、年金資金で株価を買い支えるのは市場を歪め、副作用の危険がある。具体的には、逃げ足の速い海外投機資金の買い漁った株を高値で掴まされ、買い支えの資金が続かなくなり市場が暴落するという展開である。この場合、東京株式市場のクラッシュに伴う混乱のみならず、多額の年金資金が失われ年金給付に支障が出る展開となる。安倍政権は国民を窮乏化させる事になる「消費増税」実現のために、国民の老後を犠牲にしているといっても過言ではないだろう。

更には、「フラット35」優遇延長も安倍政権による露骨な住宅市場の底上げである。住宅市場の官製バブルといっても良いだろう。広島土砂災害から学ぶべき教訓とは?で説明した通り、多くの日本国民が地球温暖化現象に起因する異常気象以前の前提条件で宅地開発許可を取得した危険な場所に住んでいる。こういった場所に住み続ける事がどれ程危険か?は今回の広島土砂災害が我々に示した通りである。

安倍政権が本来行うべきは危険な住宅地の周知徹底と共に、危険な場所に住む住人の速やかな移住促進のはずである。「フラット35」優遇延長は本来住宅を購入出来ない層に住宅を買わす事で、宅地開発を担当するディベロッパーや住宅メーカーを潤す。しかしながら、広島土砂災害の様な悲劇が拡大する可能性の高い事も今一方の事実である。従って、「フラット35」優遇延長は「消費増税」実現のために国民の生命を犠牲にしているといえるかも知れない。

石破氏は安倍首相の靖国参拝に否定的なのでは?

石破氏は自他共に認める安全保障のエキスパートである。しかしながら、私は以前から安全保障に対する理解や取り組みにおいて、安倍首相と石破氏は微妙に違うと感じていた。もう少し具体的に説明すると、尖閣諸島に対する中国の軍事的挑発に直面し安倍首相も石破氏も、毅然として侵略に立ち向かって戦うことが可能な国家を目標にしている点では一致している。

両者の違いが顕著なのは歴史観と推測する。安倍首相は「美しい日本」というお気に入りの言葉が象徴する様に、日本の戦前の歴史こそが「栄光に満ちた歴史」「輝かしかった時代」という信念を持っている様に思われる。これは、北東アジアの隣国、中国、韓国のみならず、戦勝国であり、日米同盟の相手国であるアメリカに取っても断じて許容出来る思想ではない。

一方、石破氏はというと、未だ一度も靖国神社に参拝した事がないし、これからも参拝しないと確約している。首相は当然として、それに連なる閣僚や公職にある国会議員の靖国神社参拝は外交面で利益にならないという事をしっかり理解しているのであろう。

安倍首相が復古趣味、懐古趣味で、まるで先祖のお墓参りに訪れる様に靖国に参拝するとするならば、石破氏は現実主義者、リアリストであり、「安全保障」と「外交」は車の両輪と理解しており、日本外交を結果として毀損する事になる靖国神社参拝には否定的なのである。

安倍首相は昨年同様今年も年末には靖国神社を参拝すると思う。石破氏が安全保障法制担当相に就任する事はイコール石破氏が安倍首相の軍門に下る事を意味する。自身が安全保障法制再構築に取り組む最中に、閣内に身を置き、閣僚として日本外交を毀損する事が確実な安倍首相の靖国神社参拝に接する事が我慢出来ないのではないだろうか?

先に述べた通り、上記は全て私の推測に過ぎない。しかしながら、仮に石破氏がこの様な信念の下に安全保障法制担当相就任を固辞しているとすれば、自民党内でかなりの議員が同調するのではないだろうか?