バーバリーの売れ残り廃棄中止が高級ブランド業界を揺るがす理由

バーバリー問題の波及に不安を募らせる高級ブランド
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carterdayne via Getty Images

ファッションブランド・バーバリーは、メディアからの非難を受け、売れ残り商品の焼却処分を今後禁止するという声明を発表した。しかしこの英断は、高級ブランド業界に思わぬ波紋を呼びそうだ 

バーバリーの廃棄問題で見えたブランド品の「真の価値」

 9月8日、世界中にファンを持つ英国のファッションブランド・バーバリーは「売れ残り商品の焼却処分を今後直ちに禁止する」という声明を発表した。今年7月、同社が2017年度の1年間で約42億円の売れ残り商品を処分していたことが発覚し、BBCを始め欧州のメディアが強く非難をしていたことに反応した形である。

 同社はなぜ、それほどの商品を処分したのか。なぜ、そのことについて強い批判が起きたのか。そして、今回の声明でいったい何が変わるのか。解説をしてみたい。

 高級ブランドにとって、売れ残り商品の廃棄は重要な経営テーマである。実際、このことは多くの高級ブランドで「公然の秘密」として行われている。理由はブランドの希少価値を高めるためだ。

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本記事は「ダイヤモンド・オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら

 ブランドの方針もさまざまだが、一般的にバーバリーのような高級ブランドは定価で販売を始め、シーズン途中で「40%引き」のように大きく値下げし、バーゲンセールを行う。シーズン終盤では70%も値引きして販売する商品も出てくるが、「7割引きでもまだ利益が出る水準」ということはよく言われている。

 値下げも、直営店で大きくやりすぎるとブランド価値を棄損するので、値下げ品を処分するためのアウトレットのように、別の店舗を用意していることが多い。その後問題になるのは、「それでも売れ残った商品をどうするか」である。

 7割引きした商品をさらに半額で引き取ってくれるような業者は当然存在するのだが、結果として、東南アジアのマーケットなどに転売され、現地の価格を混乱させてしまうといった事態を引き起こすこともある。だから多くの高級ブランドでは、一定のルールの下で、値下げで処分し切れない商品を廃棄処分するほうが、経済的に合理的な結果を生むのである。

 今回の報道で注目された約42億円という数字には、実は問題がある。バーバリーによれば、それはブランド価値としての金額だという。実際に処分された商品の原価は、それよりずっと小さいのだ。

 同時に2017年は、香水ブランドの契約の問題で廃棄せざるを得ない分が結構含まれるという、特殊要因も加わったようだ。それ以前の4年間は処分額はだいたいその半分だったが、今回金額が多くなったことでメディアにことさら注目されたという裏事情もあったようだ。

 高級ブランドであるがゆえに、処分額を原価で公表することはできなかったのだろう。7割引きでも利益が出るということを、あからさまに情報公開はしづらいはずだ。たとえば、実際は10万円を超えるコートであっても、原価はユニクロのコートの数倍程度。仮に1万円と考えても、原価率は1割以下だろう。

 そう考えると、焼却処分した商品は原価で言えば4億円から(例年で言えば)2億円程度。年間の売上高が約4000億円のバーバリーにとっては、かなりエコな水準だったということではなかろうか。

焼却処分取り止めの理由は「毛皮問題」が大きかった?

 にもかかわらず世論が大きく動いた背景には、どうも別の問題があったようだ。この数年、バーバリーはファッションショーを開催するたびに、その毛皮の利用をめぐって会場外で動物愛護団体から抗議を受けてきた。

 処分されるブランド在庫は、定番商品よりもデザイン性に富んだラグジュアリー商品であることが多い。そこに相当数の毛皮商品が含まれていたとしたら、世論の攻撃が強まるのも無理はなかっただろう。

 実際、今回のバーバリーの声明には、焼却処分の即時中止に加えて、これから数年かけて毛皮製品を取り止めていく取り組みが発表されている。どちらかと言えばこちらの方が大きな問題であって、今回の声明でその抗議が収束するかどうかが注目されるわけだ。

 さて、焼却処分を止めた場合、高級ブランドはいったいどのようにして売れ残り商品を処分していくことになるのだろうか。いくつか選択肢があるが、環境的にも経済的にも一番合理的な選択肢は、タグを外した上でアウトレット業者に販売させる方法だろう。

 アメリカに行くと、「ROSS」「TJ max」といったファッション製品のアウトレット小売店チェーンをよく見かける。主に中低所得者層が品質のよい衣類を買う目的で訪れ、お店自体は結構繁盛している。その売り場を見ると、ブランド商品に混じってタグのない商品が売られていることがある。

 私もそのような商品を買って帰ったことが何度かある。ROSSというアウトレットの店頭で、デザインがすごくいい上に商品の肌触りもとてもいいシャツを16ドルくらいで購入したのだが、たぶん「macy's」のような百貨店で100ドルから200ドルで売られていた商品に違いないと思えるようなクオリティだった。ただしタグが切り取られていて、どんなブランドの商品だったのかは、今でも全くわからない。

 ただ、高級ブランドがそうしたやり方で在庫を処分するためには、商品設計から変えなければいけないことも出てくる。たとえば私が持っているバーバリーの派手なシャツには、生地の部分に小さく「BURBERRY」という文字がプリントされている。これではタグを外しても、バーバリーのシャツだったことがわかってしまう。

 同様に、バッグや時計についても、商品として売っているときには外れないけれども、アウトレット業者に販売する場合には簡単にロゴを外して他のロゴと付け替えられるような設計が必要になる。そう考えると、焼却処分を禁止するというバーバリーCEOの決断は、どのような代替措置をとるにせよ、バーバリーブランド全体で大きな方針転換を必要とすることになりそうだ。

バーバリー問題の波及に不安を募らせる高級ブランド

 さて、実は高級ブランド各社にとって影響が大きいのは、今回の騒動が業界全体に波及することである。バーバリー1社だけなら、売れ残り商品をうまくリサイクルし、アウトレット市場でさばくことはできるだろうが、他のブランドすべてが焼却処分を批難されるような事態になれば、アウトレット市場はタグが外された元ブランド製品で溢れ返ってしまうことになる。

 消費者にとっては嬉しいことだが、高級ブランドにとっては、ビジネスモデル自体を見直さなくてはいけない困った事態に陥る可能性が高い。だから高級ブランド各社は、今回のバーバリーの英断を横目でひっそり見ているのが一番いいと、考えているのではなかろうか。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)

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