ハンガリーの首都・ブダペストは人口約170万人、ドナウ川が南北に流れ、西側のブダ地区と東側のペスト地区からなる。
ブダ地区の「王宮の丘」には、現在は国立美術館や歴史博物館として使われる旧王宮が、対岸のペスト地区には国会議事堂、国立オペラ劇場、聖イシュトヴァーン大聖堂など素晴らしい歴史的建造物が立ち並ぶ。
ドナウ川に架かる通称「くさり橋」は大勢の観光客でにぎわい、ライトアップされた建物が美しく川面に映る夜景は、まさに「ドナウの真珠」と呼ぶにふさわしい。
ブダペストの地下鉄はロンドンに次いで世界で2番目に古く、いまも黄色いレトロな車両が走る。中心市街地にはトラム(路面電車)が網の目のように通っている。地下鉄に比べて輸送力は劣るかもしれないが、車窓から眺めるドナウ川や街の様子はとても魅力的だ。
数分間隔で運行され、街の風景を見ながら乗降でき、観光客にとっても安心して使える。地下鉄には改札口はなく、トラムも乗車券を使用時に刻印機で有効化するだけの、欧州ではよく見られる信用乗車方式が採られている。
ウィーンと同様、ブダペストには無数のカフェがある。豪華で歴史を感じさせるものからモダンなカフェまで、大勢の人が食事や会話を楽しんでいる。歩行者専用道路にあるオープンカフェも多く、日々の生活を楽しむ人々の姿が垣間見える。
ブダペスト市民にとってカフェは重要な都市文化なのだ。エッフェル塔で有名なエッフェルの手になるブダペスト西駅舎には、「世界一美しい!と言われるマクドナルド」がある。
看板がなければ外観からはとてもファストフードの店舗だとは想像がつかない。
ハンガリーは自転車大国でもある。ブダペストの街角にはバイクシェアの貸し出しステーションが多数ある。道路には自転車専用レーンや自転車用信号機も設置されている。
ブダペストの街を歩くと心地よく感じられるのは、歩行者、自転車、トラムなど街中の移動速度が緩やかで、都市の風景と人との関係が近いからではないだろうか。長い距離の移動は地下鉄を利用するとしても、大半の日常生活は人の歩く速さから徐々に変化する交通手段が担うことで、人との親和性が高い都市が生まれる。
今年度の訪日外国人数は2000万人を超え、日本政府は2020年までに4000万人を目標としている。
東京が世界的な観光都市になるには、都市交通体系も経済効率性だけでなく、都市のにぎわいを演出するひとつの手段とする視点が必要だ。また、夜景や水辺をデザインし、心地よさや魅力を増幅する総合的都市プロデュースも求められる。
2024年夏季五輪の立候補都市でもあり、「トラム」や「カフェ」の豊かな都市文化を育むブダペストには、"魅せる街づくり"のヒントがたくさんあるように思う。
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(2016年10月11日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員