放送の中立を実現する別の方法

放送法には中立性を求める規定がある。第4条により、放送は「政治的に公平」であり、「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らか」にしなければならないのだ。政府寄りの立場を表明した籾井氏も、印象操作を続ける古館氏も中立性を欠いているというのが、批判の根本である。
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就任会見での発言以来、籾井NHK会長への批判が続いている。予算案を人質に、3月19日には、民主党が籾井会長を党内の総務部門会議に呼び出し、批判したという。一方で、テレビ朝日「報道ステーション」での古舘伊知郎キャスターの発言への批判も強い。

放送法には中立性を求める規定がある。第4条により、放送は「政治的に公平」であり、「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らか」にしなければならないのだ。政府寄りの立場を表明した籾井氏も、印象操作を続ける古舘氏も中立性を欠いているというのが、批判の根本である。

それでは聞きたい。選挙報道で自由民主党や民主党候補のビデオを流したのちに、「この選挙には次の方々も立候補しています」と一覧表を数秒画面に出せば、中立を守ったことになるのだろうか? NHKの『日曜討論』は弱小政党にも発言の機会を与えているが、そのために、主要政党の意見をじっくり聞く機会をかえって損なっているのではないか?

社会に赤色と黄色と青色の主張があれば、それらを全部放送するというのが、放送の中立だと考えられている。立候補者一覧表を表示するのも弱小政党の出席を求めるのも、そのためである。しかし、中立を実現する別の方法はないのだろうか。

実は、他にも方法がある。赤色の主張を放送する放送局、黄色の主張を放送する放送局と青色の主張を放送する放送局が存在すればよいのだ。メディアの数が限られていた時代には赤黄青を全部放送するように求めるしかなかったかもしれないが、チャンネル数に制限のない今なら、赤色放送局や青色放送局を許してもよいはずだ。

中立を守る代替的な方法を実施するには、いくつかの条件がある。第一は、区域が限られる電波による放送に加えてネット経由の全国放送を実施し、できる限り多数の国民に主張が届くようにすることである。第二は、NHK受信料の支払い義務をなくし、NHKを支持する世帯からだけ徴収することである。スポンサーが逃げようとしなければ古舘氏が印象操作を続けられるのと同じように、受信料収入が維持できるのであればNHKは政府寄りで構わないわけだ。

地方民放局の経営が厳しくなっているのに対応して、隣県など別の放送区域に同一番組を放送できるようする放送法の改正案が、3月14日に国会に提出されている。これまでは放送の多様性・多元性の観点から許されなかった共同制作を認め、コスト削減を実現しようというものだ。読者は、地方局の多くはキー局の番組を再送信しているだけで、自主番組は1割にも満たないことを知っているだろう。だから、「今さら何を」と思うかもしれないが、今回の改正は、その限られた自主番組についても他局の利用を認めようとするものだ。また、改正案には、マスメディア集中排除原則の柔軟化も含まれている。

民主主義に資するための根幹であるはずの放送の多様性・多元性やマスメディア集中排除原則が揺らいでいるのが、このように現実である。政治的な中立性についても、この際、根本から見直してはどうだろうか。