アメリカ大統領選で共和党の候補指名を確実にしている実業家のドナルド・トランプ氏は6月24日、訪問しているスコットランドのターンベリーで記者会見し、23日にイギリスで行われたEU離脱(ブレグジット)の賛否を問う国民投票で離脱派が勝利したことを「素晴らしいことだ。イギリス国民は国を取り戻した」と述べた。
イギリスのEU離脱による混乱は、トランプ支持者を我に返らせる可能性がある。いや、いずれにせよそうなるはずだ。
世界の金融相場は24日朝に急落したが、これはイギリスの国民投票によるEU離脱決定によるショックが、世界経済に波及したためである。
トランプ氏としては、経済的混乱を理由にEU離脱支持者側に強い支持を示している。長期的に見ると、今回のEU離脱を支持する国民投票が、多くの人が予想するようにイギリス国内の経済的低迷や失業率の停滞を引き起こせば、トランプは自らの間違いに気がつくかもしれない。
トランプ氏は、イギリスのEU離脱を引き起こした国民の感情には、自分の考えがよく反映されていると自慢した。イギリス人の中に広まる、移民(とりわけムスリム系)とグローバリゼーションから主権を取り戻すという感情のことだ。
「イギリスのEU離脱は起きると思っていた」、とトランプ氏は24日スコットランドの、自ら所有するゴルフ場で報道陣に語った。「イギリスの国民投票と、私の選挙戦は、実によく似ている。人々は自分の国を取り戻したいのだ。国民は国境を求めている。どこからやって来たのかもわからない人々を自分の国に受け入れたいと思わないだろう」
またトランプ氏は、「イギリスポンドの貨幣価値が下がると自分のビジネスは儲かる」とも発言した。
スコットランドにたった今到着した。ここは、国民投票で熱狂している。イギリス国民は彼らの国を取り戻した。我々アメリカ人がアメリカを取り戻すように。これは遊びじゃないぞ!
イギリスのEU離脱が取引市場を混乱させ続けるなら、トランプ氏の言葉は自らに跳ね返って彼につきまとうだろう。イギリスの国民投票は、リアリティー番組の司会者であるトランプ氏の考えにぴったりのケーススタディとなるだろう。そして、何百万もの人々を国外退去させ、イスラム教徒のアメリカ入国を禁止するという彼の政策が支持されると思っている。これらのあからさまな人種差別、移民排斥の政策に加え、「アメリカをもう一度素晴らしい国にする」という呼びかけは、イギリス国民をEU離脱に追いやった移民排斥ムードのアメリカ版である。
EU離脱の動きを主導したイギリス独立党のナイジェル・ファラージ党首という、トランプ氏のような人物もいる、とハフポストUS版のマリーナ・ファン記者は語る。ビジネスマンから政治家に転身したファラージ氏は、イスラム教徒の市民を「我々の国に暮らす邪悪な裏切り者であり、イギリス国民を憎み、殺したいと思っている奴ら」と呼んでいる。
イギリスのEU離脱で今後の世界経済の行方が不透明になる不安から株式市場は急落、24日の株式市場では2兆ドルが一気に失われ、この夏は経済の混迷が予測される。
イギリスには失業の影が不気味に垂れ込めている。とりわけ220万人の金融業界労働者たちにとっては深刻だ。国民投票前、企業経営者たちはイギリスのEU離脱が決まったら国外逃亡する姿勢を見せていた。ドイツのメガバンクドイツ銀行の頭取でイギリス生まれのジョン・クライアン氏は、取引をドイツの金融の中心フランクフルトへ移す予定だと述べている。
ゴールドマン・サックスはここ数年、EU離脱はイギリスの財政に大きな打撃を与えるだろうと警告していたが、彼らもまたドイツに動く模様だ。JPモルガン・チェース代表取締役のジェイミー・ダイモン氏は、イギリスがEUを離脱した時にはイギリスを見限ると公言していたが、24日、スタッフ一同へ覚書を送り、「当社のヨーロッパ法人の組織と一部役職の所在を変更する必要があると思われる」と伝えた。
民主党の候補指名を確実にしているヒラリー・クリントン氏陣営は、離脱に投票した人たちのコメントを書いた宣伝広告を編集する必要がある。彼らは、自分たちの投票でこんなに重大な結果になるとは思ってもみなかったと言っている。
EU離脱で、イギリスのテクノロジー産業も苦境に陥る可能性がある。起業家たちは4150億ポンド(約47兆円)とみられる「デジタル・シングル・マーケット」(デジタル技術の活用でEU域内の基盤統合を進める戦略)を生み出す目的で制定された欧州の諸法規から恩恵を受けているからだ。
海外のある投資マネージャーはウォール・ストリート・ジャーナルに、2008年にリーマン・ブラザーズが破綻して金融危機を引き起こした一件に言及し、「これは新たなリーマン・ショックになりそうだ」と語った
「欧州連合(EU)のメンバーシップに関わる今日のイギリス国民投票の結果は、複雑な意味合いを抱えており、世界中のビジネスに一層の不確定要素をもたらすことになるだろう」と、コンサルティング会社EYの頭取兼代表取締役マーク・ウェインバーガー氏は声明の中で述べた。
24日には、政界の首脳たちは混乱を鎮めるべく動いていた。EU議会の議長マーチン・シュルツ議長はガーディアンに、「EUの弁護士たちは市場の変動を最小限にとどめるため、イギリスのEU離脱を早めるよう働きかけるだろう」と語った。EU離脱は交渉で最大2年かかる可能性がある。
アメリカでは、バラク・オバマ大統領が世界に対してアメリカとイギリスの友好関係は変わらないと再確認した。「イギリス国民が意思を表明したのです。我々はその決定を尊重します」とオバマ大統領は声明の中で述べた。「アメリカとイギリスとの特別な関係は継続します」
それでもなお、先行きはかなり険しい道のりと思われる。特に短期的に言えば、トランプ氏が主張する政策が海外で試され、そして失敗した。アメリカ国民がそれを心に留めておくことを願う。
編注:ドナルド・トランプ氏は世界に16億人いるイスラム教徒をアメリカから締め出すと繰り返し発言してきた、嘘ばかりつき、極度に外国人を嫌い、人種差別主義者、ミソジニスト(女性蔑視の人たち)、バーサ―(オバマ大統領の出生地はアメリカではないと主張する人たち)として知られる人物である。
ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。
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