炭水化物は抜くより“選ぶ”が正解!知っておきたい炭水化物と体重の関係【予防医療の最前線】

「炭水化物で太る」のメカニズム

この記事は2017年11月22日サライ.jp掲載記事「炭水化物は抜くより"選ぶ"が正解!知っておきたい炭水化物と体重の関係【予防医療の最前線】」より転載したものを元に加筆・修正したものです。

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Getty Images/iStockphoto
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全麦パンと食パンとでは、同じ炭水化物でもまったく別物!

文/中村康宏

「炭水化物抜きダイエット」や「高タンパク質ダイエット」が体重コントロールに効果ありと言われています。しかし、近年の医学研究により、体重増加を防いだり、生活習慣病関連疾患を予防するには、炭水化物の量より「質」がより重要であると判明しています[1]。

そこで今回は、気になる「炭水化物」と健康の関係について、最前線の研究をもとにご紹介しましょう。

■炭水化物と糖質は別物!?

炭水化物は、糖質(でんぷんや糖類・甘味料・アルコールなど)と食物繊維に分類されます。この違いは、人間の体で分解できる「グルコース」を元に作られる(=糖質)か、分解されない「セルロース」を元に作られる(=食物繊維)かによります。

かつては、難消化性の食物繊維は人体に不要と考えられていましたが、近年の研究により、繊維質はヒトの健康維持に重要な役割を果たすことが明らかになってきました。

その役割としては、

(1)便通や腸内環境の改善

(2)発がん物質等の吸着・排出作用

(3)糖の消化吸収を緩慢にして血糖値の急な上昇を抑える糖尿病予防効果

(4)胆汁酸の再吸収を抑えてコレステロールの産生を減らす脂質異常症の抑制効

(5)水分を吸収してゼリー状になり,胃腸粘膜の保護や空腹感の抑制作用

などが挙げられます[2]。このように、食物繊維を取るかどうかが、将来病気になる可能性を大きく左右すると言っても過言ではないのです。

しかし食物繊維の摂取目標量は, 18歳以上では男性20g/日以上,女性18g/日以上とされているものの、第二次世界大戦以降、穀類・芋類・野菜類・豆類の摂取減少の影響を受けて年々減り続け、目標量を満たさない状況が続いています[3]。

■「炭水化物で太る」のメカニズム

ではなぜ「炭水化物抜きダイエット」が流行しているのでしょうか? その謎を紐解くには、インスリンの働きを知る必要があります。

例えば、健康な人のインスリンが働くメカニズムは次のようになります。

(1)食事をすると、食べ物に含まれる糖質がブドウ糖として血液中に取り込まれ、血糖値が上昇する。

(2)血糖を下げるために、すい臓からインスリンが分泌される。

(3)インスリンの作用により、ブドウ糖は肝臓や筋肉、脂肪組織などの細胞に取り込まれるため、食事前の値まで血糖値が下がる。

しかし、健康な人であっても、血糖値が急に上昇すると、それを抑えるためにインスリンが過剰に分泌されてしまいます。すると、インスリンは脂肪合成を高め、脂肪分解を抑制する力をもっているため、組織で脂肪が蓄積されてしまうのです。

つまり、摂取する食べ物が、血糖値の上昇が緩やかな食事(低GI値食品)か、急上昇する食事(高GI値食品)か、が重要なカギとなるのです。

低GI値食品(オレンジ)は高GI値食品(赤)と比べ血糖値の上昇が緩やかであることがわかる。この違いが肥満や糖尿病などの病気に関与していると考えられている。

■GI値でわかる、摂取すべき炭水化物

脂肪の蓄積を防ぐためには、「炭水化物」は食物繊維を多く含む「低GI値食品」から積極的に摂取することを心がけましょう。具体的には、玄米や全麦パン、サツマイモ、レーズンなどが挙げられます。

一方、白米、精白小麦パンやパスタ、シリアル、じゃがいも、清涼飲料水は、すぐに吸収され血糖値を急上昇させる炭水化物の代表格。これらの摂取は、長期的には、体重増加、糖尿病、心臓病のリスクとなります (4)。

食品別GI値早見表(全国健康保険協会より)

■炭水化物はやっぱり穀物から!

GI値だけで判断すると、野菜だけの食事が効率いいように思われるかもしれません。しかし、これは炭水化物摂取における「目安」だということを忘れてはいけません。体重コントロール、さらには病気の予防という観点からは、脂質やたんぱく質などの栄養素もバランスよく摂取する必要があります。

ハーバード大学の研究によると、体重コントロールは、果物や野菜と比べて全粒穀物の方が優れているとされています。この三者の中では、全粒穀物のカロリーは相対的に高くなるが、消化が遅く、空腹感を感じにくいために総食事量が少なくなると考えられているのです。一方、野菜や果物は水を多く含み、満腹感を感じやすくなることが体重コントロールに役立っていると考えられています(5)。

ちなみに、フルーツジュースはお勧めできません。果汁100%ジュースであっても、糖類・カロリーはたくさん含まれているからです。上記の研究でも、フルーツジュースをたくさんとった人は、体重増加が認められたようです。

また、糖分の一角として「アルコール」が挙げられますが、体重増加に関しては定まった見解は得られていません。様々な研究結果がありますが、アルコール飲酒量と体重増加には、今のところ「関連がない」とされています(6)。

*  *  *

以上、今回は、炭水化物に関する体内メカニズムと、病気の予防に役立つとされる低GI値食品についてご紹介しました。

近年の研究により、GI値を目安に食事をすることで、栄養素をバランスよく摂取でき、体重コントロールに効果的で、心臓病や糖尿病などの病気を予防することもできることが立証されています。一方で、白米や精白パンなど身近な食材でも、体重増加に関わる食事はそれらのリスクを増大させてしまうので注意が必要です。

炭水化物に関しては、誤った知識が氾濫していますが、「炭水化物は極力減らす」というのではなく、「血糖の急上昇を極力防ぐ」ことのほうが大切なのです。

【参考文献】

[1] Shai I, et al. N Engl J Med. 2008.

[2] 高橋 陽子.日本食品科学工学会誌 2011

[3] 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準 2015.

[4] Abete I,et al. Nutr Rev. 2010.

[5] Mozafarian D, et al. N Engl J Med. 2011.

[6] Wang L, et al. Arch Intern Med. 2010.