[ブラジリア 21日 ロイター] - ブラジルのルセフ大統領はつい最近まで、10月5日の大統領選での再選に向けた道筋を着実に歩んでいたが、今や対立候補と接戦を演じる状況へと一変してしまった。既に低迷している国内経済が、一段と悪化方向にあることが背景だ。
ルセフ氏の任期のほとんどの期間で低調だった経済成長は今年さらにさえなくなる見通しで、第2・四半期はマイナスに陥ったと予想されている。
物価上昇率は6.5%を上回る伸びが続き、長らく同国経済の明るい部分だった雇用環境にも陰りが差してきた。鉱工業生産は過去3カ月連続で減少し、今年全体では1%を超えるマイナスになりそうで、一部の製造業は雇用削減に着手し始めた。
国内の大都市では、貧弱な公共サービスや交通渋滞が改善されないことへの不満も高まりつつある。
ブラジル国民の多くは、ルラ前大統領以来政権の座にある左派の労働党が持続的な経済成長をもたらしたことになお感謝しているとはいえ、これまで盤石だったルセフ政権への支持はこのところ揺らぎ出している。
世論調査機関データフォルハが18日に公表した調査結果では、ルセフ氏は大統領選の第1回投票で勝利するのに十分な支持を確保できていないことが分かった。最有力対抗馬のアエシオ・ネベス氏との支持率の差は2月の27%ポイントから4%ポイント程度まで詰まってきており、決選投票にもつれ込む可能性が大きくなっている。
19日に公表された別の調査でも、ルセフ氏とネベス氏が決選投票で伯仲した闘いをすることが見込まれている。
ネベス氏が副大統領候補に起用したアロイシオ・ヌネス上院議員は21日、ロイターに対して「野党勝利の条件が整っている。それはルセフ氏に投票しないという有権者の割合、労働党の疲弊、経済の落ち込み、政府の新たな政策構想の欠如だ」と語った。
ネベス氏が当選すれば、その企業寄りの政策が、過去10年間にわたったブラジル経済の活況を再びもたらすことを、投資家は期待できるだろう。同氏は国民に人気の高い社会福祉プログラムを犠牲にすることなく歳出を抑制し、財政の信認を取り戻すとも約束している。
今後ネベス氏やダークホース的な候補者のエデュアルド・カンポス氏は、ルセフ氏の支持基盤を揺るがし始めているいくつかのマイナス材料に焦点を当てていくことになりそうだ。
一方でコンサルティング会社アルコ・アドバイスのパートナー、ティアゴ・デ・アラガオ氏は「ルセフ氏にとって最悪の敵はネベス氏ではなく、彼女に投票しないという有権者の数だ」と述べた。
これらの数が多いということは、カンポス氏が第1回投票で脱落した場合、その票が決選投票でネベス氏に回ることを意味する。
データフォルハによると、ルセフ氏には決して投票しないという人の割合は35%と、ネベス氏の2倍に上っているという。
<結果は予測不能>
また有権者の関心がサッカーのワールドカップ(W杯)から日常の出来事に戻るとともに、大統領選では都市住民の怒りがあらわになる可能性もある。
サンパウロ大学の政治経済学者、ホセ・アウグスト・グイホン・アルブケルケ氏は「ブラジルの都市生活は急速に悪化しつつあり、政府は電力や上下水道、輸送サービスなどを改善する上でやるべきことをやっていないとの思いが国民の間には非常に強い」とみている。
ルセフ氏にとってさらに悪いことに、議会における連立基盤も脆弱化している。いくつかの小政党は、政権における重要ポストを要求しても常に労働党が二の足を踏んできた点に憤りを感じているからだ。
これらの政党は名目上は全国レベルの選挙戦で共闘するとしても、州や自治体首長の選挙では与党以外の候補を支援するとみられ、ルセフ氏の全体的な支持基盤が打撃を受けかねない。
確かにルセフ氏には豊富な選挙資金や労働党の強力な動員力のほか、依然としてブラジルで最も人気のあるルラ前大統領の支援も期待できる。
ルラ氏は、世論調査におけるルセフ氏の支持率低下を心配し、陣営に対して労働党がブラジルの貧困を減らしただけでなく、その他の社会的な実績を残してきた点を積極的にアピールするよう促した。
労働党はルラ前政権の下では、好景気や消費市場の拡大に気をよくした企業からの多くの献金も集めることができた。
しかしルセフ氏は企業経営者の間で、過度に経済に介入する姿勢が嫌悪されている。ルセフ氏の政策によって、利益率は低下し、投資意欲は減退、ブラジルの競争力も弱まったというのが企業側の主張だ。
市場でもルセフ氏敗北に対する期待の大きさが鮮明になってきており、株式市場の指標であるボベスパ指数
大統領選挙戦が非常にもつれてきたことで、国内の政治専門家も結果の予想を手控えるようになってきた。
サンパウロ・カトリック大学のベラ・チャイア教授は「だれが勝つかはわからない。ほんの1カ月前、W杯の前まではルセフ氏が再選すると思っていたが、現在は勝者を明言するのは困難だ」と話した。
(Anthony Boadle記者)
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